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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第78話 お前達はもう満足したのか?

 以前から何度も語っている通り、司令官としても有能な存在である彼女。その力をこの場面でも如何なく発揮しようというのだろうか。

 よってこの()()()()伝令は、黒き竜牙りゅうがの一番槍であるアズールだけでなく、空で戦うヴァイロ陣営全てに、無線のように伝達してゆく。


 ―良いか、アズールだけじゃない。今、私はそこにいるニイナからの情報で誰よりもお前達が見えている。


 ―そして奴に接触コンタクトを気づかれない内に、まずはアレ(白い竜)殲滅せんめつする。


 元エディウスと言って差し支えないトリルから聞いた話によれば、自分を支配したマーダという意識は、トリルが持っていた右半身の不死鳥はおろか、接触コンタクトすら使えなかったという。

 よってこの()()()()()そのものには気付かないであろうが、かと言ってやり切れると思うのは迂闊うかつ過ぎる。


 ―ま、待ってくれ。お、俺達側の声は……っ!

 ―気づいたようだな。それもニイナが風の精霊術『言の葉(ことのは)』を使うから問題ない(双方向だ)


 此方こちらの意志もシアン側(指令側)に伝わらないと難しいのでは? そう感じたヴァイロ。

 だがそんな下準備すらせずにこんな作戦(行動)に討って出る程、シアンという女は馬鹿じゃないと容易よういに想像出来た。

 そして既に伝達方法ネットワークは、知らない間に確立されていた。


 ―向こうがゼロ詠唱で魔法を使うのなら此方も極力発声を封じて戦う。魔法詠唱時には、口の動きだけで唱えるのだ。


 ―お前達の頭脳を私にあずけてくれ。私さえバレなければ、君達の行動を先読みされようとも関係ない。


 ―ミリア、君は流石にベスクタグナ(最強の守備魔法)を使い過ぎだ。


 ―ヴァイロ、ミリアの魔法力マナが切れる寸前だ。これからはお前がミリアに新月の守り(ベスタクガナ)をかけてやるんだ。


 ―なぁに、可愛い弟子(ミリア)にも出来たのだ。お前()に出来ない道理どうりはないだろ? 


 ―残りの魔法力マナ……恐らく絶対零度の秘術(マカ・ハドマ)を使っただけのヴァイロが一番残っている。次がアズール、私の見立てではこうだ。


 矢継やつぎ早に次々と相手の答えすら待たずに伝令を始めるシアン。修道騎士しゅうどうきしレイシャ達との死闘が終わったばかりだというのに、その頭のキレの良さは相変わらず盤石ばんじゃくだ。


 ―そしてリンネとノヴァン、もう出し惜しみはナシだ。特にリンネはまやかしの術だけではないという所を存分にふるってくれ。

 ―な、何故それを!?

 ―それはこの地獄が終わった時、互いに生きていれば話そう。


 ノヴァンにしてみれば、これまで自分は、シグノに勝っていたのが明白めいはくだった。こんな状況(魂を持ったシグノ達)でなければ、本気を出す必要を感じ(三味線を弾い)なかっただけ(いただけ)なので何の感傷もない。

 なれどリンネの方は話が別だ。当人ですら実戦で試していないことを何故他人(シアン)が知っているのだろう。


「ようっ、美人の姉ちゃん(シアン)。俺様は、どうすれば都合が良いんだ?」


 此処で全く空気を読まないレアットが、普通に声を出して質問する。声量にいつもの勢いがないのが、一応気を使っているつもりなのだろう。


 ―フフッ……。君が人の言う事を聞くタマなのか? ………そうだな。いて言うなら、アズールの攻撃先に酸素ブーストいてくれ。あとは思うがまま暴れるがいい。


流石(さっすが)、話がはえいぜッ! よっしゃ、任せなッ!」


 勢い良く返答すると、早速自分の巨大剣の周囲に嵐を起こし、酸素濃度を濃くしたのちにマッチで点火。エディウスではなく、シグノのタマりに空を駆ける。


 シアンにしてみれば、レアットはこれが最適解さいてきかいだと認識している。彼が一人目立った行動を取れば、シグノ達はおろかエディウスでさえ、見逃すことは出来やしない。

 後はその裏で、ヴァイロは言われた通りにベスタクガナをミリアに使う。ミリアはこれまで通り、最前線で攻守をらせてやる。

 魔法力マナの残量だけでなく、体力も気掛かりではあるが、彼女の突貫力は捨てがたいし、何しろ相手の見た目が、片思いされたアギドでなくなった(エディウスに戻った)

 これで心置きなく攻撃に専念せんねん出来ることだろう。

 さらにアズールが、攻撃力強化アルマトゥーラの重ね掛けを各自に行う。

 ヴァイロの方は紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)によって赤い霧となってから、効力が切れる前に飛んでいる連中へ重力の解放(ヴァレディステラ)付与エンチャントし直してゆく。


 この辺りの動きは、司令官シアンに言われるまでもなく、各自勝手にやっている。つい先程、アズールの最大魔法ロッソ・フィアンマが、止められたばかりだ。

 よって魔法より物理攻撃を底上げするのが先決だと経験値《絶望》から理解していた。


 ◇


「レイシャ殿()後生ごしょうだからやはりその腕を治癒しては(使えるようにしては)貰えないか? レイジ殿()もだ」


 今度は地上にいる周囲の連中へ肉声を届けるシアン。ワザと敬称《殿》を付けているのは、相手に対するうやまいの気持ちより、どちらかと言うあおりの成分量の方が大きい。


「何? 一体どうしたって言うのさ?」

「もう………。疲れたから勘弁かんべんして下さいよ」

「では逆に問いたい。()()を見てもなお、お前達はもう満足したのか?」


 あえて疑問符ぎもんふを提示するレイシャ。もう無理だとアピールするレイジ。姉弟してい共に相手シアンが言いたいことは判っている。

 それだけポツリとシアンは言ってから、後は憎悪ぞうおでも悲哀ひあいでもない顔《色》で、視線をらさず二人を見ている。

 もういっその事「いけっ! やれっ!」と言ってくれた方が良い無言の圧力。


「ハァ……判った……判りましたよ。………確かにアンタの言う通りだわ。あんな()をのさばらせていたら、修道騎士の名がすたる」

「ええ……。僕もう嫌だよ。あんな化け物ですらないものを相手にすんの」


 大きく溜息を吐いてから、レイシャ(グエディエルの姉)は肩をすくめる。一方、未だに嫌がるレイジ(グエディエルの弟)だが実の所、怪我さえ治せばまだ余力マナはある。

 何せ彼は、シアン達との戦いにおいて心之剣クオレスパーダを使ったに過ぎないのだ。


「やれやれ……。私だってこれで出番が終わりじゃ流石にさびしくてよ。ただ自分の翼(シグノ)がもうないのだけど、有能かつ用意周到よういしゅうとうなシアン殿()のことだから()()のよね?」


 大きな尻を叩いてほこりを落とし、立ち上がるのは、賢士けんしルオラだ。ミリアによって心之剣クオレスパーダというか、心そのものを折られて気絶した彼女だが、退場したのが早過ぎたので、やはり魔法力マナも体力も気力すらも余っている。


「勿論だルオラ殿()。ニイナが風の精霊を此方迄飛ばしてある。君等の背中には、既に自由の翼が生えているよ。初めてだろうが、使いこなせる……であろう?」

「全く……。まるで最初からこうなる事を予見よけんしてたみたいじゃない。シアン・ノイン・ロッソ、貴女が闇と白の神(ヴァイロとエディー)よりも、余程神様に見えて来たわ」


 ルオラは呆れ顔でシアンのことをそう評した。そうでもなければ、説明がつかない。

 シアンから別の何かに騎乗しない初の空中戦でもやれるよな? そう煽られている訳だが、そんな事はどうでも良かった。 


「わ、わたくしもこのまま引き下がっては、この戦争でってしまった他の司祭達に顔向けが出来ませんっ!」


 誰も話題に挙げてないのに一人勝手に誓いを立てる最高司祭グラリトオーレ。レイシャ達に頼まれる前に生命之泉プリマべラの準備に入る。


「そ、そのお話……。私達も当然入っていますよね」


 そこへ恐る恐るといった様子で声を掛ける二人。心優しき真の女神(エターナ)と、最早その神の使い(天使)と言っても差支えのない美しきハーピー、ルチエノであった。

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