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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第76話 赤き彼岸の華を咲かせ

「な、何アレッ! うわっ!?」


 アギドの最期の守りに巻き込まれる形で、ミリア(親友)との繋がりを切られ、地上へ落ちてゆくしかない(飛行能力を持たない)リンネ(存在)

 頭が下になり、上空のエディウス復活(有り得ない事態)ではなく、地上での緑と赤の輝き(能力の引継ぎ)を目撃することになる。


 この思い掛けない空中遊泳にちょっと呑気のんきしている彼女の下から入る大きな黒い影。

 こんな落下速度に追いつける巨大な生き物は、言うまでもなく黒い竜(ノヴァン)であった。


 突然の()()にリンネは驚いた次第だが、勿論助けて貰ったことを早々に理解する。


「あ、ありがと…………」

「フンッ………」


 互いに言葉少なめなやり取り。ノヴァンは確かに暗黒神(ヴァイロ)の化身というべき存在だが、まるで飼っている子犬のように(なつ)いているのは、リンネ(竜の音)に対してである。


 もっともノヴァンの鼻息には、世話の焼ける娘だという諦めが混じっている。


彼方(あちら)は………成程、力を渡すか……)


 トリルとシアン、竜の目から見れば正直どうでも良い些細(ささい)な出来事を一応確認し、空で待ってる戦場(地獄)へ舞い上がった。


 ◇


 光の帯の上を往く右半身の不死鳥(フェニックス)。それは荘厳(そうごん)さに拍車(はくしゃ)をかけるに余りある光景。


されどそれこそトリル最期の魂の炎の輝きそのものであり、消失するであろう(さび)しさを誰もが勝手に感じ取った。


 そして二人がカッと目を見開いて互いを見つめ合う。


 ―姉さま………大好きだった、真っ直ぐだった、愚直(ぐちょく)ですらあった。さあ、貴女の元へ今向かいます。


 ―愚直か………。それはお前こそに相応(ふさわ)しい。違うな……きっと私に似たのだ。嗚呼、永遠(とこしえ)に共に生きよう。


 慈愛(じあい)に満ち(あふ)れた顔で姉を見つめるトリル。それを一見無表情とも取れる真っ直ぐな視線で受けとめるシアンである。


 それを見た賢士(けんし)ルオラと修道騎士(しゅうどうきし)レイシャは、やはり誰が何と言おうとこの人がエディウス(唯一無二の存在)だと、改めて確信した。


(勝てん………。敵う訳がないわ。だってあのエディーの御姉様なのだから……)


 さらにレイシャはそうも思った。未だに斬られた両腕を(さら)したまま、むしろそれすら誇りに感じた。


「「不死鳥(フェニックス)よ、ひたすらに赤き彼岸(ひがん)(はな)を咲かせ………」」


 接続(コネクト)に続いて次は、二人の詠唱が途中まで重なり合う。


()()()に」

()に」

「「始まりの新月を与えよ。『レナトゥース』」」


 渡す者(トリル)渡される者(シアン)だけ枝分かれし、最後は再び合流する二人()


 二人の詠唱が終わったと同時に、シアンの頭の先に小さな不死鳥が現れて、その(くちばし)から真っ黒な月が出現する。


 黒い月はまるで宇宙の深淵(ブラックホール)のように、トリルの意識そのものらしい緑色の帯の光を吸い込んでしまった。


 黒い真円は瞬く間に満ちてゆき、満月の明かりを為す。そこから一本の真っ赤な彼岸花(ひがんばな)が現れて、シアンの胸に吸い込まれるように消えた。


 やがてシアンの深層意識の中に現れた満月は、人の形を成してゆき、光を完全に失う代わり、トリルの形に姿を変えた。


 そしてシアンと両手を繋いでいた筈のトリルは完全に意識を失い、姉にもたれ掛かりダラリとその身を寄せたのである。


「「エディーッ!」」

「エディウス様ぁァァァァッ!」


 レイシャとルオラが愛称(愛の名)を号泣しながら叫ぶ。最高司祭(さいこうしさい)グラリトオーレも誰よりも信じていた(心の拠り処だった)女神を失う落胆に慟哭(どうこく)せずにはいられない。


 賢士レイジだけは、こういう時どんな顔をすれば正解なのか判らずに一人オロオロしてしまった。


「トリル……いえ、戦の女神(エディウス)様……」


 トリルとシアンの邪魔になってはいけないと感じ、少し遠巻(とおま)き気味で眺めていたエターナ(本物の女神)とルチエノが、再び静かに近寄っていく。


「あ、あれっ?………な、何()()? おかしい……おかしいよぉぉ」


 最初は他人顔だったエターナが、どんどん(くず)れて瞳から泉のように湧き出るものを()き止められなくなってゆく。


 彼女に取ってエディウスだろうが、マーダだろうが、トリルですら恨みの鉾先を向ける対象でしかなかった筈だ。


 自分のことを幽閉(ゆうへい)し、女神の力を引き出すだけの存在(都合の良い財布)にしていた者だ。

 その死に様には(うら)み言しか有り得ないのに………。


「………エターナ様。最早(もはや)()き者です。死者を想い流す涙に嘘、(いつわ)りはございませんよ」


「る、ルチエノさぁぁん、アァァァッ!」


 自分の涙に驚くエターナの肩を静かに手を置くルチエノ。目を閉じて静かに首を振った後、(おだ)やかに微笑む。


 それを見たエターナは救われた想いに駆られた。人じゃない、私を想った作り笑いかも知れない。そんな些細(ささい)、もうどうでも良くなる。


 女神が漆黒(しっこく)の翼を生やした生き物の胸にその顔を埋めて(したた)かに泣いた。その黒い翼でエターナを包み隠すその姿は、完全に堕天使(だてんし)のソレに映った。


「…………」


 周囲がこれだけ涙に()()れているというのに、血縁の姉は未だに涙はおろか、顔色一つ変えはしない。


 自分の身に絡んだトリルを(ほど)くと、無表情で抱きかかえ、静かに地面に降ろしただけだ。そして視線は、空の戦場(地獄)を向いている。


「…………どうした? 行かないのか?」


「………まだ、()ではない。それよりいい加減にその腕、エターナか最高司祭殿(グラリトオーレ)に治して貰わないのか?」


 シアンの様子にレイシャ(好敵手)(あお)りをかけてみるが、首を横に振られるだけである。


「嗚呼、()()ね。もう少しこうしていたいのよ。なぁに? まさか心配してんの? こんな(なり)でも意外と元気なのよ。何ならこの両腕に愛刀を結んでくれたらアンタともう一戦出来るぞっ」


「ハァ………。(あき)れたものだな。精々(せいぜい)死なないでくれよ」


 こんな形(斬られた両腕)を見ながら、そう言ってケラケラ笑って見せるレイシャ(豪傑)

 そんな相手に溜息を吐き、シアンは苦笑交じりにこう返すのである。


(………にしても今行かなくて何時(いつ)行くのよ? やれるものなら私が代わりに行って暴れたい位だわ)


 レイシャにしてみれば、シアンは真っ先にエディー(トリル)から引き継いだのであろう本物の翼(不死鳥)を全開にして飛び込んでいくと思っていた。


 実の妹の死に泣き(わめ)ている場合じゃないという冷静さは、ある意味シアンらしいっちゃあらしいと言えなくもない。


 だがこれから始まるで(エディーの偽物)あろう地獄(とのバトル)に何も思う処はないのだろうか?


(………此奴(こいつ)、余りの目まぐるしさに不感症(ふかんしょう)でもなったのかしら?)


 このレイシャの感じ方。直上型の彼女なので、これもらしいっちゃあらしいとも言えた。

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