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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第70話 …30秒あれば充分だ

 ()()していたアギドの身体を完全に失ったマーダ。氷の結晶のようになったその身体は風に流され消えてゆく。


「や、やったのかっ!?」


「分子レベルで肉体を崩壊(ほうかい)させたのだ。どんな再生能力を持った生物でさえこれでは……………っ!?」


 アギドの肉体という余りにも(とうと)犠牲(ぎせい)をもって、遂に相手を(めっ)した。

 ヴァイロですら、そう確信したにも関わらず何やら不穏(ふおん)な気配が(ただよ)い、皆の顔を曇らせる。


「素晴らしいィィ! これが恐らく暗黒神(ヴァイロ)の魔法に於いて、理論だけでなく実現出来た史上最強の術式ッ!」


「なっ!? ば、馬鹿な貴様! 何故そこにそうしていられる!?」


 驚天動地(きょうてんどうち)、なんとマーダは未だに存在し、地獄の凍土(マカ・ハドマ)の術を受けた筈なのに()()って大いに笑っているではないか。


 他にも様々な攻撃をその身に受けたし、その前にも肩口をバッサリと斬られていたのに、完全に無傷な状態でそこにいた。


−273.15 °C(絶対零度)の世界。これがあればお前の竜(ノヴァン)が、最悪反旗(はんき)(ひるがえ)しても、止める(すべ)があったという訳だ。実に見事だ、これは何の(はか)り事もない純粋な()め言葉だっ!」


「ならば何故っ!?」


「おぃおぃ、そろそろ気づいてやらないと、あの世で()()()が悲しむぞっ! もっとも魂が残っていればの話だがなァァ!」


 迷える子羊達にヒントを与え、その反応をさらに楽しむマーダ。確かにノヴァンに騎乗していた筈のカネラン(コボルト)忽然(こつぜん)と姿を消している。


「いつまでも犬の首輪なんぞに良い様にされる我だと思うてかっ! 捕まった瞬間に一芝居(ひとしばい)うったのだよ。実に痛快であったっ! 味方を次々と攻撃(リンチ)するその様は……大変ゾクゾクさせて貰ったよ………」


「まさか幻……術(イリュージョン)!?」


「正解だ、あのコボルトは、一体何回死んだのであろうな……」

「い、言うなっ!」


「しかもこのアギドとかいうガキの姿に対する情け容赦(ようしゃ)ない波状(はじょう)攻撃。闇側の連中に相応(ふさわ)しい傲慢(ごうまん)さと狂気(きょうき)に満ち(あふ)れていたなあ、クククッ………」


 色々とヴァイロ等の琴線(ことせん)に触れてゆくマーダ。


 特にミリアにしてみれば自分がカネランにけしかけたのがきっかけだと思い込むと、せっかくリンネのお(かげ)で立ち直ったものが、音を立てて崩れてゆきそうだ。


「…………」

「…………リンネ?」


 気がつけば再びミリアの(となり)で手を握るリンネがいた。(はげ)ましも同情の言葉も掛けない。


 ただ強く握りしめ、こちらに曇った顔を見せてくるミリアに対し、何度も強く首を振るだけである。


「さて………この身体にもようやく慣れてきたようだ。どれ、そろそろ遊びは止めて本気で此方(こちら)から仕掛けるか」

「…………っ!」


 両手の指をボキボキと鳴らしながらニヤッと周囲に笑い掛けるマーダ。ヴァイロ等の緊張の糸が張り詰めてゆく。


 ◇


「………此処(ここ)()(さん)じよ『生物召喚(アルボケーレ)』」


 一方異空間を彷徨(さまよ)い続けているシアン、レイチ、ニイナの三人。シアンに認められた手段を実行に移したニイナ。


 (いく)ら150年生きているハイエルフの彼女でさえ、異空間(こんな所)で成功させた試しはないので、正直自信がなかった。


「「なっ……」」

「やっ、やったぁ! 成功ッ!」


 武器の(たぐい)は届かない程、離れた先の闇の中。(ほたる)のような光が瞬時に(かたまり)となってゆく。

 求めていた二人は、まんまと闇に引きずり出された。


 慌てふためく姉弟の双子。修道騎士(しゅうどうきし)レイシャと、賢士(けんし)レイジ。


 驚きの発声をしていることに違いないが、シアン等に伝達する空気が存在しないため、少々間抜けに見える。


(な、何故こんな所に私達はいる?)

 ―やあ御二人共、ご機嫌(きげん)はいかがかな?


 狼狽(うろた)えている二人に対し、シアンは涼しい声を接触(コンタクト)で届ける。


 脳に直接届く声がグエディエル姉弟(してい)にとって、実に高慢(こうまん)に感じられ立腹した。


「し、シアンの声が届くっ!? エルフのガキ共すら(そろ)っているだと!?」

 ―まあ気分上々とはイカンだろうな。そちらには酸素すらない。


 シアンの声、(そろ)い踏みの三人、そして自分達すら此処にいる理不尽(りふじん)


 ―ニイナの生き物を召喚(しょうかん)する術でお越し願いましたの。ちゃ~んとバラバラにならない様、ひと手間をかけたのですよ。ホホホ……。


(ば、ババア! そ、そうかっ! レアットとかいう馬鹿もあの時コレで呼び出したから、助かったのかっ!)


 そんな相手の恥辱(ちじょく)(あお)るためか、老婆(ろうば)エトラ変装時の声をわざわざ使うシアン。

 この状況を中々にいやらしく利用する。


 ―さぞ息が苦しかろう? どうかな……いっその事、その新月流(しんげつりゅう)奥義とやらを解いて、共に此処を出てから再戦というのは?


 姉の袖口(そでぐち)(つか)んで必死に頭を振るレイジ。彼には判る、追い込まれてるのは、むしろ向こうだという事を。


(………我ながら無理を言っている。2分以内に抜け出せなければ、不死鳥の効力切れで負け確は此方なのだ)


 これがシアンの本音。何より此方の三人は一見余裕そうに見えるが、実の処ジリ貧なのだ。

 魔法の結界内に残っている酸素なぞ、たかが知れている。


 対するレイシャ側は、まだ40秒といった処。要は潜水(せんすい)でもしてるつもりで耐えてしまえば良いだけの話だ。


「……フッ、良くてよ。私もこんな味気(あじけ)ない形で貴女(宿敵)との勝負が終わるなんて、実につまらないと思っていたの」


 やれやれといった(てい)了承(りょうしょう)するレイシャ。こうしてる間にも刻々(こくこく)と時間が過ぎて此方(レイシャ)側の優位性は増えてゆく。


 用心深い弟レイジとて姉の勝利は動かないと確信している。後は腹を(くく)るだけである。


「じゃあ、やるから覚悟なさいっ!」


 黒い二刀を幾度(いくど)も振るうレイシャ。闇の中でやっているので、刃が映ることはなく、一見ただ暴れているだけの様に見えなくもない。


 けれども此処にいる強者共(つわものども)は知っていた。

 踏ん張りが全く効かない中での見事な剣舞(けんぶ)である事を。


 此処からシアン達は、頭の中でアナログ式のタイムウォッチの針を意識し始める。

 既に残りは、分を切っている。50、49、47……。


 闇に亀裂(きれつ)が入り、鏡が割れたのと、ほぼ同様の音がした。

 異空間が割れて、硝子(ガラス)のように粉々(こなごな)になってゆく。


 全員の目に入ってきた景色。間違いなく元々いたカノンとラファンの境にあたる元々いた戦場の空に相違(そうい)なかった。


「さあっ、どう出るっ? 間もなく30秒を切るぞっ!」

「…30秒あれば充分だ」


 愛刀の黒い刃を()めながら、相手の動向を決して見逃すまいと構えるレイシャ。不死鳥の化身となったシアンの反抗が幕を明ける。

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