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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第72話 アンタひょっとして俺様より頭わりぃんじゃねえの

 青い髪のアギドの(つら)を引っさげたマーダが襲ってくる理不尽(りふじん)


 これに対するのは、大気を玩具に出来る特技と、人の二倍はあろうかという剣を二本携えた巨漢の男(レアット)というこれまた理不尽なのである。


(ただでさえ馬鹿な男が先読みという能力を得た我に歯向(はむ)かう……実に(おろ)かしい)


 念のため相手には(さと)られぬように顔には出さないマーダだが、自身がこんな愚者(ぐしゃ)に負けることなど毛ほども想像していない。


 レアットは、剣の周囲を取り巻く酸素濃度を濃くし、そこへマッチで火を点けると共に得意の竜巻すら剣に()びさせるという技で、マーダに飛び込んだのだ。


 これはマーダにとって不意を突かれたため、流石に先読みには至れなかった。


 けれど此処(ここ)から先は、()()()()に遅れを取る筈がない。マーダ当人は勿論のこと、ヴァイロ側の連中ですら同様の面持(おもも)ちだろう。


「ウラァァッ!!」


 同じ大振りの攻撃を繰り返すレアット。最早先読みすら必要ないマーダは、これを悠々(ゆうゆう)と避ける…………。


「……その身を()がせっ! 『(ロペラ)』!」

「何ィィ!?」


 マーダが()けたその先に、いつの間にか距離を置いたアズールが、銃撃のような小爆発を撃ち込む。


 身体にこそ命中しなかったが、黒き竜牙のメンバーとしてお(そろ)いにした黒マントを(つらぬ)いた。


「ラァァァァァァッ!!」

「グッ! また竜の娘(リンネ)の高周波かっ!」


「消えろッ!! この泥棒(どろぼう)野郎ッ!!」


 間髪(かんぱつ)入れないリンネの高周波攻撃が、またもマーダに届きその五感を苦しめる。さらにレアットが再び上段からの二刀を振り下ろす。


 五感をやられたマーダは、腹立たしいが竜之牙(ザナデルドラ)で受けるしかない。

 するとその巨大な刃を橋にして、違う影がマーダに向かって走り込んでいるではないか。


「なっ!? それで良いのか新月の女(ミリア)ァァ!!」


「大事な兄弟子(アギド)をこの手にかける無念さを思い知りなさいッ!!」


 新月の守り手(ベスタクガナ)を右拳に宿したミリアが、遂にマーダの顎を綺麗に殴り(クリーンヒット)骨にヒビを入れて、脳を大きく揺らすことに成功した。


 しかしこれまでの彼女なら、このまま連撃を入れる処を、あえてそうはせず当て逃げ(ヒット&ウェイ)をする。


 吹き飛んで行くマーダに追従(ついじゅう)するのは、またもレアットだ。


「アヒャヒャッ! おぃ、アンタひょっとして俺様より(あったま)(わり)ぃんじゃねえの?」


「な、何だとぉぉ! 貴様(ごと)きが我を愚弄(ぐろう)するのかッ!」


「アギドの兄貴が先読みで戦えたのは、味方がいたからなんだぜェッ! テメエ一人でどうやって先読みする相手を(しぼ)んだよッ! このバーカッ!」

「…………ッ!」


 これにはさしものマーダとて、自らの()を自覚するより他はない。


 実に単純な話である。1対1(タイマン)なら先読み能力を全推しすれば、後は相手の技量が比較にならない強者(きょうじゃ)でもない限り、勝ち確の筈なのだ。


 なれど一騎当千(いっきとうせん)の技量を持つ連中に囲まれた上に、こうも攻撃を散漫(さんまん)にされては対処不能。


 完全に宝の持ち(ぐさ)れである。さらに戦の女神(エディウス)を名乗っていた頃の持ち駒達は既に敗北者だ。


 第一、動けたとしても傀儡(くぐつ)にでもしない限り、今の彼にとって、盾にすらならないことは明白だ。


「アトモスフィア・テンペスタ、大気と風の精霊よ。暗黒神(ヴァイロ)の名において命ず……」


「エル・ジュリオ・デ・ディオス。雷鳥よ、神の裁きよ、我が力となりて敵を()ふれ……」


 レアットをけしかけている裏でヴァイロが右手をマーダへ差し出し、何らかの詠唱を(おごそ)かに始める。


 まるでそれを最初から知っていたかのように詠唱を合わせてきたのは、レイシャ達との戦いを終えたハイエルフのニイナであった。


 これはもう何の(まじな)いをする気なのか仲間達には判り切っている。


「アギドの無念、確かに(きざ)んだっ! その肩を戻した再生力を持ってしても(おぎな)えない程、粉々にしてやるっ!」


あの方(アギド)は、ほんのちょっぴり愛想が足りなかったけど、とても立派なお兄さまでした」


「「もうッ、決して許しはしないッ!」」


 ヴァイロとニイナ、それぞれに言ってることも態度も違うが、アギドという真面目で優秀過ぎた青年のことを回想しているのは同じだ。


 そして二人揃ってカッと目を見開いてこれから(ほふ)る相手に(にら)みを効かす。


「……『雷神(カドル)』ッ!!」


 またも光り輝く弓矢を放つような体勢で雷神を繰り出すニイナ。


「落ちよ(さば)きの(いかづち)ッ! 『灰色の稲妻(ヴァルミネン)ッ!!』」


 ヴァイロの詠唱も同時に完了する。願う神に違いはあれど、これすら同じ電撃系の魔法であった。


 マーダという巨木を真横から圧し潰して、光に満ち溢れた道を開拓しようとするニイナ。


 そしてこればかりは対照的に、横ではなく天高くからの落雷を浴びせようとするヴァイロ。尚且つその稲妻は、灰色(グレイ)を帯びている。


 いかにも闇に(ぞく)した者の術といった異形(いぎょう)さを見る者に感じさせる。


 落ちてくる轟音(ごうおん)と横から圧をかけて来る(とどろ)き。(いず)れも受けるマーダにしてみれば、やはり同じ理不尽な裁きなのだ。


ハイエルフの娘(ニイナ)が繰り出す、我が暗黒魔法の基礎になった森の女神(ファウナ)最強の稲妻と……)


(恐らくこの魔法(カドル)暗黒神(ヴァイロ)が再編成した電撃系最強の黒い(いかづち)っ!)


 此処までは示し合わせたように考えまで同じの二人。しかし別れ道が始まる。


(例えどんな能力を秘めていようが無事な訳……!?)


 こんな感じでニイナは驚かされる。マーダは雷神(カドル)が届く前に竜之牙(ザナデルドラ)を放り投げる。


 竜之牙(ザナデルドラ)避雷針(ひらいしん)の役割を果たし、取り合えずマーダは雷神(カドル)という裁きからは(のが)れる。


「グッ! グァァァァッ!!」

「やはりな……何れかの稲妻をそうやって防ぐのは想定済っ! だがっ!」


 けれども竜之牙(ザナデルドラ)は一刀だ。灰色の稲妻(ヴァイロの雷)は流石に防げず落雷する。


 マーダの断末魔(だんまつま)になる筈である叫びを聞きながら、此方側(ヴァイロ)はこうなることを予見(よけん)していたと告げる。そして死に()く筈のマーダを(にら)み続けるのだ。


 例えこれで勝てたとしても、悠々(ゆうゆう)と見ていられる道理(どうり)がない。

 目の前で苦しんでいる姿は、どう見ても彼の大事な一番弟子(アギド)にしか見えないのだから。


 落雷なんて刹那(せつな)の出来事だ。青い髪のアギドを偽装(ぎそう)したマーダは、黒く(くす)ぶった格好(かっこう)でうなだれたまま宙を浮いている。


(……う、浮いているっ!? 死んではいないなっ!)

「フフッ……さ、流石に効いたぞ……ここまで見事な連携……()めてやろう」


 このマーダのしぶとさ、こればかりは想定というよりただの勘だが、ヴァイロ的には有り得ることだとは思っていた。


 だが………ハズレであって欲しかったのは、語るまでもない。


「クククッ……暗黒神が裁きの雷とは最低のジョークセンスだ……。勝てば正義と扱われないことは、貴様も知っておろう」


「此方こそお前にだけは正義を語られたくはないな。………にしてもそのタフネスぶりは一体どうなっているんだ」


 黒ずんだマーダが嘲笑しながら皮肉たっぷりに告げる。その言葉を正面から跳ね返し、灰色の稲妻(ヴァルミネン)にすら耐えられた理由を聞き出そうとするヴァイロ。


「言った筈だが………。この島に生まれ出でて約200年、アドノス島を形成したと。200年、そしてこの大地を創造した我が、ただの人間だと思っていたのなら、貴様等の方が余程阿呆(あほう)だなっ!」


 レアットから『頭がわりぃ』と言われたことを跳ね付けて、マーダは自分の存在の異常さを明かすのである。

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