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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第1章 悪夢(ᚾᛁᚷᚺᛏᛗᚨᚱᛖ)
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第6話 紅色の蜃気楼と断罪の女神(ᚷᛟᛞᛞᛖᛊᛊ)

 悪夢に出て来た断罪の使者(エディウス)が正夢の如き現実さを帯びて出現した現状。

 (おび)(ふる)えた暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリア。


 一方、エディウスの()と云うべきロッギオネのアディスティラでは、(ほとん)ど裸体に等しき妖しさ(たた)えた女性が独り溜息をついていた。


 一番弟子賢士(けんし)ルオラである。

 可愛い白銀の少女(エディウス)が彼女の傍ら(ベッド)を訪れぬ()()()()を見失った満月の夜。肩透かしも(はなは)だしいと感じた。


「全く……錬成(れんせい)したての竜でいきなり深夜のお忍びぃ? 然も私じゃなくて()を選ぶとか──やだぁ()けちゃう」


 ベッドの上で肘つきがっくり肩落とすルオラの憂鬱(ゆううつ)。「帰って来たら()()()()ねフフッ…」と含み笑いを()らした。


 ヴァイロがエディウスと共連れの白い竜に大層脅威(きょうい)を抱き動けずにいる最中、リンネの高周波に続きミリアが展開した防御魔法(フェルメザ)

 さらに重力解放(ヴァレディステラ)で重力を()()、宙を舞いつつ枷の鎖(グラビティア)で重みを増した剣を振るうアギド。


 弟子達は勇猛果敢(ゆうもうかかん)に流れる攻勢を白い女神と乗騎の竜に続々繰り出す。

 魔導最大の弱点である詠唱時間を全く感じさせぬ連携(コンボ)、エディウスの綺麗な顔立ちに(まゆ)寄せる(しわ)を刻んだ。


暗黒神(ヴァイロ)の名に於いて命ず! 火蜥蜴(サラマンダー)よ、その身を()がせッ! ──『(ロペラ)』!」


 次は兄弟子アギドの振るった剣で体勢(くず)れた処に紅の魔術師アズールが赤い小手を付けた(かいな)を真横に払う。小爆発が立て続けに起こり、エディウスの目前に赤い()幕を創り出す。


「チィッ! またかッ! 戦い慣れし過ぎではないかッ?」


 遂に女神の舌打ちを引き出した。

 そう思うのも自然な子供達のやり口。(もっと)もエディウスとて傍目(はため)には変わらぬ少女の立ち振舞いにみえる矛盾を(はら)んだ文句。


 ヴァイロの子供達──。

 これが実質初戦なのだ。アギドだけは、普段半ば傭兵(ようへい)として依頼を受ければ力を(ふる)った経験値がある。されど竜騎士──ましてや神と争った事柄など在り得ない。


 それでも普段から研鑽(けんさん)重ねた結実を、神と神竜相手に見せつけた。何しろ巨大な竜だ。本来なら目にしただけで逃走しても不思議ではない。


 当然、黙認(もくにん)適わぬエディウス。竜の首を真っ赤な子供へ向け竜の息(ドラゴンブレス)を狙う反撃の狼煙(のろし)。白い竜が大口開き、炎を吐いた。


「暗黒神()使()()()()よ、全てを焦がすその息を我に与えよ! ──『爆炎(フィアンマ)』!」


 赤い()幕を(つらぬ)く竜の炎。

 当たれば人なぞ消し炭さえ残らない──その筈だった。


 ズガーンッ!


「なっ!」


 涼し気な顔で煙の中から顔出す12歳の少年。煙幕は詠唱時間を稼ぐいわば独り時間差。然も詠唱が短い爆炎の呪文(スペル)で神竜の炎を相殺する力を()せた。


 なお、ヴァイロは『御使いの竜』など()()()()()()もいやしない。

 これは森の女神ファウナの魔導書を解読した結果の文言に過ぎないのだ。


「ヴァイッ! 何ボサッとしてんのッ!」


 未だツリーハウスから出られぬヴァイロの両肩を無造作(むぞうさ)(つか)み、リンネが強く揺する。何かに取り()かれた様なヴァイロの暗澹(あんたん)たる顔色。


 バシンッ!


「ヴァイ?」

「済まないリンネ、もう大丈夫だ」


 ヴァイロは無理矢理にでも己を奮い立たせるべく、自分を両頬(りょうほお)を思い切り掌で弾いた。あからさまに不自然なヴァイロの行動。気掛かり抱いたリンネを()で振り解いた。


「グラビィディア・カテナレルータ、暗黒神(ヴァイロ)の名に於いて命ず。解放せよっ、我等を縛る星の鎖をっ! ──『重力解放ヴァレディステラ』!」


 ヴァイロはリンネを両腕で抱えると家の窓から勇ましく飛び出した。無論身投げでない。魔法で重力の(かせ)を打ち消し、空へ舞い上がる。


 ──俺が悩んでどうする! 悪夢なんか消し飛ばす! この()()()がッ!


 新たな決意を胸に暗黒神ヴァイロ──いざ戦場へ。


「フフッ…来たか()()


 (ようや)く探し求めた漆黒(反転)に含み笑いを漏らすエディウス。


 ヴァイロは悪夢の元凶(げんきょう)を凝視したまま、抱えたリンネを宙へと降ろす。狼狽(うろた)えたリンネ、緑の目に映らぬ椅子が腰を包み込むの感じた。


「来いッ──『紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)』!」

「殺るかい? ──『竜之牙(ザナデルドラ)』」


 剣など何処にも差しておらぬヴァイロが右手を天に(かざ)すと赤霧が突然現れ、ヴァイロの手元で歪な形をした両手剣が現界(げんかい)成す。


 一方エディウス、抜刀済の白刃を一応相手に対する敬意を払い、両手で握る()()なる構えで応じた。


 ヴァイロ、まるで剣の素人──。

 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を両の手で振り上げエディウスへ全身全霊を叩き込まんと迫り征く。


 エディウスとて歓喜を以って真っ直ぐな受け答え。殺る気があれば正直に受ける義務など在り得ぬものだ。


 火花散る赤と白が交わる初太刀、弟子達の顔が思わず緩んだ。やはり総大将が斬り込まねば争いは盛り上がりに欠けるもの(なり)

 結果など如何(どう)でも良いのだ。旗頭(はたがしら)が先陣を切る、いつの時代も闘争の段取りは、こうでなければ張り合いがない。付き従う者共の士気を一挙に(たかぶ)らせる。


 初回の剣を交える意味、一応存在し得る──。

 剣の立ち合いとは初太刀で相手の力量を図るのだ。舞台の様にただの見せ場を造る意味ではないのだ。


 ──がっ、この場に於いてヴァイロには裏の手札があり、既に逆位置を配っていた。


 ズバッ!


「ぐ、ぐぅ!? な、何だと?」

「……」


 鉄壁だったエディウスの剣に依る受け答え。彼女だけ血飛沫(ちしぶき)上がる。

 何故か己だけ斬られる理不尽、然もあろうことか愛刀竜之牙(ザナデルドラ)はおろか、白銀の鎧を透かした赤き刃が(身体)に届いた驚天動地(きょうてんどうち)


 驚き心(すさ)むエディウスを他所(よそ)に真顔で何も応じぬ構えをみせるヴァイロの腹積もり。一体彼はどんな奇術(Trick)を為したのか。


 敵の本丸が姿を現し喜びに浮かれたエディウスの迂闊(うかつ)

 暗黒神ヴァイロの愛刀、その名に刻んだ()をほんの一握りでも思考巡らせば(ある)いは避けられたやも知れぬ。


 エディウスは胸に開いた傷口を押さえ考察する。理由は不明、けれど自ずと(さっ)した。

 敵の神は乾坤一擲(けんこんいってき)、ここぞとばかりにトドメ刺すべく次なる刃を振るわんと襲い掛かって来た。


 ほんの僅かでも時間を造れば司祭級が扱える回復の奇跡が使えるエディウス。何しろ彼女自身が神、戦之女神(エディウス神)御霊(みたま)に祈りを(ささ)げる術式は至極当然、己とて扱えるのだ。


 然し詠唱の時間が足りない。

 今は兎に角(とにかく)、暗黒神の剣筋を全て回避するのが先決。


「キィィィッ!」


 白い竜が一泣き、翼で夜空を一振り叩いた。空間を転移するが如き瞬間移動でヴァイロとの距離を置こうと動いた。


 だが目に見えぬ何かに邪魔され後退の二文字さえ断たれた。下がれたのはほんの僅か、それでもどうにか紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)の間合いからは逃れた。


 ミリアの防御魔法──白き月の守り手(フェルメザ)は、護りだけに在らず。敵を鳥籠(とりかご)に落とす結界の役目を果たした。


 ズガッ! バサァ!


 またもや在り得ぬ脅威(きょうい)に蒼い瞳に映る景色を疑うエディウス。

 敵の暗黒神、一歩たりともその場を動いていないのだ。赤霧の剣が伸び、乗騎である白い竜の翼を無情に()いた。


 戦之女神(エディウス)に走る戦慄(せんりつ)──。

 白い竜『シグノ』を錬成出来た。今宵(こよい)はほんの出来心、単騎で出掛けたお遊び。

 よもやこれ程まで一方的な展開に堕ちるとは毛程も思ってみなかった。

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