第41話 涙の誓い
レアットとアギドの勝負はアギドに軍配が上がり、本題に移れるかと思っていたヴァイロ。
気がつけば当の本人が、レアットの能力を語ることに夢中になってしまった。
その後、皆をツリーハウスに案内し、シアンから聞いた話を伝えたヴァイロ。
シアンの能力や生い立ち、さらに妹がいたことなど、話の内容が全て驚きの連続であった。
その中でも特に衝撃的だったのは、やはりエディウスが得体の知れない何者かに操られている。
さらにこの先、誰がエディウスの代わりにされるも知れないという憶測だ。
もっともレアットだけは「全然分かんねえ………」と興味なさげに床の上でサッサと寝てしまった。ただ頭の足りない残念なヤツというのがヴァイロ以外の認識である。
実はここでもう一人、ある意味レアットより空気の読めない残念な存在がいる。それは我等が総大将ヴァイロのことだ。
この話を聞いた後、まだ面識の薄いエターナですら感じたこと。それはこの中で最も狙われるのは、他ならぬヴァイロに違いないという結論だ。
暗黒神の魔法を当然ながら全て扱えるのみならず、彼が呼び出した黒い竜も従えることが出来る。
余りに当たり前すぎる理屈。相手は最強の存在を欲しがるに決まっているのだ。
そして何より厄介なのが敵に回ってしまったこの優男を、ここにいる誰もが斬る事が出来そうにない。
尊敬する師であり、愛する男であり、とにかくこれまで様々な恩義を受けてきた存在。
つい最近決闘などという血の気の多いやり取りこそしたが、当然あの時ですらヴァイロを殺そうなどと微塵も考えてはいない。
けれどもこんな周囲の気持ちなどまるで分かっていないのが、このヴァイロという男の天然ぶりなのだ。
さらにもう一つ困った事案がある。
「シアンさんの言う事が仮にもし真実だとしたら、エディウスって一体どうやって倒せばいいんだ?」
「………正確にはエディウスの中にいる存在って、そもそも倒せるのですか?」
アズールが腕を組んで頭を捻り、聡明なミリアですらボーッと天井を見つめてしまう。
「シアンさんの妹であったトリルさんは既に死んでいる………。にも関わらず戦之女神として自由に操っているのだから、肉体の方を潰しても意味がない………」
「それどころじゃないですよっ、エディウスにトドメを刺したが最期、次に乗っ取られるは自分かも知れないってことですよね?」
アギドの言葉を継いで早速発言するエターナ。彼女もレアットと違った意味で物怖じしないようだ。
「………と、言う訳だ。これまで彼女が襲撃した時、俺はずっと違和感を覚えていた。いつでも俺達のことを消せるのに、明らかに手を抜いていた」
「な、なんでそんなことを………」
「ただのお遊戯か、あるいは品定めといった所かな? 言うまでもなく本人じゃないから分からないがな………」
これまでの戦いを振り返るヴァイロ。リンネに訳を聞かれると、理解しようがないと返しつつ、何故かアギドに視線を合わせる。
(ヴァイの奴………。やはり俺の能力に気づいているな……。確かに他人の真意を推し量るのは俺が適任だけどな)
「そんな奴、絶望之淵で歴史から消してやったらどうだ? ま、もっとも通用する普通の魂を持っているのか怪しいけどな」
珍しくおどけた返事をしてみせるアギド。師の期待には応えてみせたいが、冷静な彼とて不安を抱いているのだ。
「さてと……正直まだ疑問は尽きないが、一旦この話を締めよう。ええと次は………」
「エターナ………エターナ・アルベェラータ。元エディウス様の正式な司祭だった女でございます。ヴァイロ様」
問題児レアット、中身が知れないエディウスの次は、目下の敵である戦之女神に仕えていた司祭の女性。話題が膨大かつ余りに内容が濃厚過ぎる。
エターナはヴァイロの目前で跪いて敬意を示す。
「面を上げてくれ、エターナ・アルベェラータ。君もエディウスのような回復の奇跡といった類が使えるのか?」
「はい。最高司祭であらせられるグラリトオーレ様程ではございませんが」
エターナの手を取って椅子に座るように促すヴァイロ。一見気の利いた男の態度だが、その顔の緊張感は拭えていない。
「それは頼もしい。しかも敵の現状を聞く事が出来る………と手放しでこちらが喜べないの、分かっているよな?」
「勿論です。真っ先に疑わしい存在と思うのが道理……」
自らを怪しい存在と告げながら真っ直ぐにヴァイロの目を見つめているエターナ。
「どんな心変わりがあったのか聞かせて貰えるかな? どんな宗教でも信ずる者が道を違えるというのは、尋常じゃない」
「わ、私は未だにエディウス様の司祭を辞めた訳ではございません」
「………なっ、なんだとテメエッ!」
ヴァイロとエターナの話にいきなり割って入ったのは、寝ていた筈のレアットであった。目を覚ましたのかと思いきや、またもいびきをかき始める。
「す、凄いタイミングの寝言だな……。まあいい、司祭を辞めてはいない……。それはどういう意味なんだ?」
「言葉通りです。私は聖職者としてエディウス様をお慕い申しております。なれど……」
「………?」
「自らの力はおろか、信者達を率いてこの島を統べる事が救世などと……。そんなの絶対間違っています」
口調を変えずに語り続けるエターナ。心の通ってない棒読みではなく、とても歯切れが良い所に意志の表れを感じる。
一方質問者のヴァイロは、時折視線をアギドに送っている。特に何が返って来る訳でもないのだが。
「なので私はヴァイロ様の方に付いてエディウス様と配下の者達の目を覚ますことが、真の信者たる道だと悟りました」
「なるほど……」
またもアギドの方を見るヴァイロ。アギドに変化は見受けられない。
「大変素晴らしい心持ちだと思う……。しかしエディウスは既に死んでいるかも知れない。中に居るという得体の知れない者を引っ張り出したら、再び彼女は目覚めない可能性があっても?」
「そ……それは仕方なきことです」
ここでヴァイロの視線の端にいるアギドが初めて首を振った。
(そうか……。しかしまあエディウスを何とかしたいという気持ちに偽りはないらしい)
「エターナ・アルベェラータ。君の覚悟を許容しよう。皆も異論はないな?」
改めて周囲を見渡すヴァイロ。頷く者、無言の者はいたが、首を横に振る者は一人としていなかった。
「ではこれから宜しく頼む」
「あ……あっ、ありがとうございますっ!」
誓いの握手を求めるヴァイロに対し、涙ながらに両手で握り返すエターナであった。




