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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第40話 力が降りてくるとき

 あきれ果てたアギドの代わりに、レアットの秘密を解説してやろうと、二人の元へ近寄ちかよるヴァイロ。


「大気……まあ、アレだ。お前にも分かるように言うなら今も吸っている空気。流石に分かるよな?」

「そ、その位は分かるわっ。バカにすんなっ!」

「よろしいっ、お前も俺も空気中の酸素っていう種類のヤツを吸って生きてる。大気っていうのは……まあ、難しい話は取り合えず置いといて、空気の別名くらいに思ってくれ」


 終始しゅうし笑顔をやさず喋るヴァイロ。どれだけレアットが肩を怒らせようとも微塵みじんも態度を変えない。


(こ、コイツ…なんかやりづれえ……)


 これが今のレアットの本心である。


「レアットって言ったか……。お前、これまでその馬鹿デカい剣を必死に振り回して鍛錬たんれんしてきたのだろう」

「そ、それがどうしたってんだ……」

「ある日突然その二刀が、軽くなったんじゃないか?」

「何でそんなこと分かるんだっ!? ああ言う通り、15の時だ」


 レアットの回答を聞いてさらにニッと笑うヴァイロ。

 誰にでも高圧的だったレアットが遂に後退あとずさりしてしまう。


「ならその時だろう。俺も魔法にあこがれて森の女神ファウナについて散々調べたが魔法なんてまるで使えなかった」

「へ、へぇー……」

「ヴァイにもそんな頃があったのでございますね」


 自分のように生まれた時から魔法を使えたのだと思っていたリンネ。

 ミリアは魔法が使えなかった可愛い少年のヴァイロを勝手に妄想もうそうし、一人興奮(こうふん)している。


「あれは……。そうだ、12歳の時だな。魔法なんてもう無理だって絶望してた時に、サラリと爆炎フィアンマ呪文スペルを思いついた。初めて出来た時は、爆竹ばくちくみたいな小爆発だったけどな」

「て、テメエの話はどうでもいいっ。タイキのことをもっと教えろっ」


 このヴァイロ、昔のこと……増してや自分のことは直ぐに忘れる。爆炎フィアンマの誕生話は実にアテにならないと言っておこう。

 そして物凄ものすご身勝手みがってきわみなレアットである。


「ほぅ………話して理解出来るとは思えんがな。まあいいだろう。お前が自分も知らないうちに使っていたそれは風の力だ」

「風を起こす!? この俺様がっ?」

「そうだ、大気が作る風を自ら起こして、その後押しでそのとんでもない武器を振り回してたって訳だ」

「な、なるほど……」

「あと大気の力って言えば、雨や雷、雪や嵐なんかも該当がいとうする。もし、そんなものが自由にあやつれるとしたらどうだっ!」


 周囲そっちのけで大気について語り合うヴァイロとレアット。それを見ていたアギドがふと思う。


(そうか……。冷静にかえりみると、アイツは自らの腕力だけで必死に鍛錬たんれんしたつもりなんだ。だから本人が気がつかないのも無理はないってことか)


 大気という言葉すら知らなかったレアットのことだ。

 自分が特別な力を手に入れても「俺様強くなった!」と言っている姿が目に浮かんだ。


「まあ、お前の場合小難(こむず)しい話をした所で暖簾のれんに腕押しだな」

「ノレン? なんだそれは?」

「あ…気にしないでくれ。レアットは誰かに習うよりも感覚で伸びるタイプってことだ。これまでが、そうだったように」

「そうだ、俺様はずっとそうだったし、これからも変わらん……。しかしそれだとお前等に付く意味あんのかっ?」


 レアットの疑問はもっともだ。魔法も使えないし、きたえるのは己の力さえあれば良いと言われてるのだから。


「それもこれからのお前次第(しだい)だ。ただアギドの下に入ればレアット……」

「……?」


 ここでレアットの両肩に両掌りょうてのひらをそっと置くヴァイロ。


「もうやってらんない程にエディウス軍の猛者共もさどもを相手にたたか羽目はめになるぞ。今までの自己鍛錬だけじゃ決して得られない経験値をかせげる筈だ」


 レアットの目をおだやかな顔で見つめながら告げるヴァイロ。

 レアットにとって話の内容は正直どうでも良かった。こんな目で自らに語りかけてきた相手は、これまで両親だけだった。


(……へっ!)

「分かったぜ、今はお前の言うことを信じる。……だがな、俺様よりお前が弱いと感じたら容赦ようしゃなく斬り捨てるからなっ!」

「覚悟しよう……」


 レアットは勝手にヴァイロの手を取ると固い握手あくしゅわす。その握力あくりょくにヴァイロは、少し顔をしかめた。


「やれやれ……。俺はとんでもない荷物を背負い込んだ気がしてならんのだがな」

(俺がこれほど苦労した奴をこうもあっさり篭絡ろうらくするとは……)


 ようやく自分を取り戻したか、剣を収めて砂埃すなぼこりを払いつつ立ち上がるアギド。

 今のヴァイロを見る限り4対1の決闘時以来、自分達に冷淡れいたんだった態度は終焉しゅうえんを迎えたようだ。


「そんなことよりわざわざトンボ帰りした訳を話さないといけないんじゃないのか?」


 既にアギドは認識している内容なのだがあえて振る。そのくらい重要だという気分があるのだ。


「その後、俺からもヴァイに話がある。もう一人のくせある人物のことだ」

「…………それはひょっとして私のことでしょうか?」


 アギドが話そうとした渦中かちゅうの人物は、いつの間にやらリンネやミリアの後ろに隠れていた。

 ブロンドの髪を左右にお団子状でまとめている。大きな青い瞳は美しく、明らかに16歳のリンネよりも歳上に見えるが、かと言ってとてもお姉さんという程にも見えない。

 そう言えば以前18だと聞いた気がする。


「エターナ・アルベェラータです。貴方がヴァイロ様ですね。お初にお目にかかります」


 丁寧ていねい挨拶あいさつ。スカートの両端をまんで、気持ち上げながら、深々と頭を下げた。

 エターナから自分達より大人びた女性の魅力を感じたリンネとミリアが、少しだけ面白くなさそうな顔をした。


「何っ? お前もアルベェラータなのかっ? お前みたいな親戚しんせき知らねえなあ………」

「えっ? レアット……さんも同じ名前なのですか? ここら辺に多いんでしょうか?」

「ケッ、知るかよっ。それよりお前、俺様の名前に()()付けすんのを躊躇ためらいやがったなっ」

「あらら、豪快ごうかいな剣の割に随分と小さいことを気になさるのですね。同じ18ですから何でしたら呼び捨てで、レアットでも良いかなって一瞬よぎったのですよ」


 この二人の会話のお陰で、姓はアルベェラータで年齢も同じ18歳だとうかがい知れた。

 ただ、エターナの方が全てにおいて落ち着いているので、まるでアルベェラータ姉弟していのようであった。


「ハイハイッ、二人共それ位にしてヴァイロの話を聞くのが先決だよ」

「ケッ…………」

「は、これは大変失礼致しました………」


 リンネが手を叩いてエターナとレアットをうながす。面白くないといったていのレアット。エターナは口に手をあて、頭を下げるのであった。

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