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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第36話 エドルとカスード家

 場所を戻してカネラン達が引き続き守っているラファンとフォルデノ王国の国境線こっきょうせん付近。今の所、平穏へいおんでありノヴァンの心配は杞憂きゆうに終わりそうな雰囲気ふんいきである。


「お二人はシアン殿と一緒いっしょに戻らなくて良かったのですか?」


 身長は2m近くもあるのに相変あいかわらずの低姿勢で問いかけるカネラン。

 お二人とはハイエルフの兄妹、レイチとニイナのことだ。

 カネランと比べると1/3程の身長しかないのではないかと思えるこの二人。

 低姿勢をつらぬくカネランとの図式がいよいよ可笑おかしなものに思えてくる。


「シアンなら大丈夫だよーっ。この位の修羅場しゅらばどうってことないって」

「ですね、それに我々まで戻ってしまうとこちらが手薄てうすになりすぎます」

「は、はぁ……。それならば良いのですが………」


 笑いながらカネランの腰の辺りを叩いて返答するニイナ。レイチはナイフに刃こぼれがないかチェックしながら答える。


「それに………、あ、これは何の根拠こんきょもありませんが、僕達がいると話しづらいことになるんじゃないかって気がするのです」

「あーっ、そうかもね。それにまあ、私達は大体知ってる話題になるだろうからいなくても問題ないよっ」

「………ちょっと、言ってる意味が……」


 顔色も視線も変えずに相変わらずマイペースのレイチ。ニイナも腕組みしながらうんうんっと幾度いくどうなづく。

 完全に子供に置いてきぼりにされている感のカネランであった。


 ◇


「カスード家? シアンって確か……。あれっ?」

「お前なあ……。ツッコミ入れる前にせめて名前くらい覚えておけっ。付き合い長いんじゃなかったの?」


 いきなり話の腰を折りにかかるヴァイロに、リンネの冷たい視線が突き刺さる。暗黒神をお前呼ばわりするリンネに、ルチエノはおろおろしてしまう。


「とにかくだまってシアンさんの話を聞きましょう。議論をするのはその後だ」

「フフフッ………」


 9つも下の内縁の妻(リンネ)に仕切られるヴァイロ。二人のやり取りを見ていると気が重かったシアンであったが、ゆる微笑ほほえんでしまった。


「さて………話を続けさせて貰おう………」


 ここから完全にシアンが語り部(かたりべ)となった。カスード家とは代々エドルを守護する生まれながらにして、エドルの地における代表的な家柄いえがらだ。


 まずエドルについて少し触れる必要がある。エディウス辺境へんきょうと言っていた通り、このアドノス島において最も小さな自治区。

 老人や力を持たない者しかこの地域には残らない。

 その下にあるエディウスが支配する活気かっきあふれるロッギオネとは対照的たいしょうてきな場所なのだ。

 そもそもエドルに生まれた者の多くが仕事を求めてロッギオネに移住いじゅうするのである。


 ただこのエドルには神殿の遺跡群いせきぐんが存在し、それらを守り抜くのがカスード家の存在意義の一つなのだ。


 ―それからカスード家に生まれし者は得手不得手えてふえてこそあるが、不思議な力を秘めている。例えばこのようにだ。


「………シ、シアンッ!?」

しゃべっていないのに確かに声がっ!?」


 シアン以外のその場にいた誰もが、突然脳に直接(ひび)く声に騒然そうぜんとなった。


 ―フフッ……。これは口で説明するより速かろうと思ってな。まずこの力が相手の心に自分の考えを伝えられる『接触コンタクト』だ。他にも……。


 そしてシアンはお手玉も投げる様にナイフをほうると、宙で止めたり旋回せんかいさせて見せた。

 さらに自分の身を突然消してしまう。本物の魔術師がマジックショーを見せられているというあべこべな気分になった。


 ―ナイフを操ったのが『操舵ステア』。そして私の身体を消した力が『不可視化インビジブル』という名で呼ばれている。


「い、一体どうやってこんな力を………」


 そのヴァイロの疑問は、皆の疑問でもあった。


 ―うーん……。それは何ともおこがましいのだが、カスード家の人間は己を神と定義ていぎし自己を高めようとする思想があるのだ。

 ―そんな我等がまず修行させられるのが己の深層意識しんそういしきとの会話だ。


「そ、それが『接触コンタクト』につながると言うのか?」

「うんっ! ごめんっ! ちょっと何言ってるか分からない」


 ―ハハハッ……。いや、自身そう思う。ただちょっと自分に置き換えて考えてみてくれ。

 ―ヴァイロ、君は自分が暗黒神の魔法を使える様になったことを説明出来るかい?


「……んっ? んんっ!?」


 絶句ぜっくする暗黒神。思えば自分を神と定義する魔法を生み出す行為こういとは、シアンの言うそれと大して変わらないのではなかろうか……。


 ―そしてリンネ。貴女のその不思議な音と声の力………。以前自分の血に流れている力と言ったそうだね。


「……はっ! う、うんっ!」


 気がついたら使えるようになった力だ。

 よって君はどうやって喋れるようになったのだと聞かれているようなものだ。

 そんな禅問答ぜんもんどうみたいなことをされて、大いにリンネは頭をひねった。


 ―ハハハッ……。まるで要領ようりょうを得ない説明で申し訳ない。早い話が自分の内に秘めた力を引き出せたかそうでないか。

 ―ただそれだけの違いであり、カスード家の民は、それを意識したに過ぎないってことかな。


 ここでシアンは意識だけの会話を切る。何だか自分で気味の悪いことをしている様な気がしてきたし、何よりも魔導士が魔力を消費するかの如く疲労するのだ。


「本題に戻ろう。トリルは身体が不自由なのにこれらの力を自在に操る天才……と言うか、身体の自由すらこの力にうばわれた不幸を背負せおっているかの様だったよ」

「何だか可哀想かわいそう……」

「それでも本人は明るく振舞ふるまっていたのだ。見舞みまいの花を持ってく度に私の方が救われていた。あの悲劇が起こるまでは……」


 なるべく気丈きじょうに振舞っていたシアンであったが、思い返した所で流石に顔をくもらせた。


「カスード家の連中は己を神と定義している。私はさっきそう言った。その通りのことを連中は、やってしまった………」

「い、一体何を……」

「トリルが12の時だ。ベッドから起きれない身体であるのをいいことに、当主……すなわち父は、他のカスード家の連中と共に、操舵ステアをトリルにかけて『不死鳥フェニックス』を呼び出す詠唱を強制させた」

不死鳥フェニックスって確かシアンさんが半分だけ出した火の鳥?」

「そうだよリンネ。私のは君が見た通りの出来損ないで、本来の力の半分を出せていないし数分ともたない……。だが父は、こともあろうに実の娘を媒介ばいかいにすれば完全な不死鳥フェニックスが召喚出来ると考えたんだっ!」


 遂にシアンの曇った顔に怒りが出現した。カスード家は神の一族。なれば何をしても許される。

 そんな思考しこうに至る父。そして自分にも同じ血が流れていると思うだけで、冷静な彼女の内に虫唾むしずが走るのだ。

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