第3話 白銀の少女が成す錬成(ᚨᛚᚲᚺᛖᛗᛇ)
150年前、森の女神と讃えられたファウナが護り抜いたアドノスの北端に位置するForteza。
イタリア語のForza、そして世界に新たな文化を吹き込む試みを込めた名。地球上で唯一この街だけ22世紀辺りの技術を独占していた。
ヴァイロ・カノン・アルベェリアの悪夢に出現した張本人、白銀なる少女剣士。
彼女は夢や幻に在らず。それ処かFortezaからEdol、さらに南下したこの聖地にて夢通りの女神、『エディウス・ディオ・ビアンコ』を名乗っていた。
教会、礼拝堂。戦之女神を祀る施設が軒を連ねた異世界思しき進化を遂げた街並みが広がる。
ヴァイロ達の住処カノンとは山を挟んだ東側。故に余り交流がない場所なのだ。
これも悪夢の絵と同様、正反対に全てに於いて白を好み、普段の着衣から正装の鎧に至るまで統一していた。
髪の色すら生まれついての白銀が美麗な煌めき放つ。彼女が聖地ロッギオネの中心街アディスティラを歩めば誰しも振り向き頭を垂れて祈りを捧げた。
ヴァイロと決定的に異なるエディウスの振舞い。それは自らを女神と主張し、周囲にも徹底させた事柄。但し特段教えを信者に説く訳ではない不可思議。
或る意味ただの美しさを皆に振舞う女神。綺麗さのみで人々を救済し、従わせる異端な存在。
従者達とて、迫害を受ける迄もなくこの白銀の少女を心底女神として敬愛の念を抱くのだ。
その名はアドノス内だけに留まらず、白き女神に祈りを捧げんと訪れる旅行者の宿場街として大いに栄える原動力となっていた。
ごく稀に何も知らずこの街をフラリと訪れた旅人が、狂気の沙汰を感じる。なれど現人神を直に見つけた途端、蒼き瞳に見初められ心奪われ堕ち往くのだ。
この日エディウスは独り、己を祀る神殿の最深部。清らかな水流れる邸内、騎士の姿で凛々しく立っていた。
そこへ三人の艶やかな女性。何れも片膝を落とし、恭順の意を示した。
「──エディウス様、御要請の品と錬成陣の準備、整いましてございます」
「左様か」
三人の中央、残りの二人より僅か歩み出た女性が進言する。
彼女の名は『ルオラ・ロッギオネ・ルマンド』ミドルネームにその地域の名を冠している者は、大変優秀な存在と認められた証。
膝まで伸びた明るめなブリーチ際立つ髪色、肩から胸元まで晒した白いドレスを纏い、首には紫色のスカーフをしている。
胸元は広く開き、見る者は中を思わす。だが実際見る者在れば、彼女の品格の前に奴隷と化す妖しさ漂う。
身体の線と長い脚も惜し気なく披露。女神に仕える女性としては露出過多。最高位の彼女だけに許された自由。
エディウスに掛けた声の響きも艶めかしさ溢れる。ただの従者に在らずな雰囲気、女神すら誘う危うさ。
彼女はエディウス神に仕える者しか許されぬ特殊なスキル『賢士』その中でも紫のスカーフが示す最高位。
エディウスが最も信頼を寄せる一番弟子。歳は25とこの三人中の年長者。大人女性の魅了、神の御使いと云うより淫魔を彷彿させた。
「し、然し恐れながらあの様な触媒で一体何を錬成されるおつもりで?」
ルオラの左後ろに従う女性。
如何にも恐れ多い感じで喉を震わせ御伺いを立てるのは、最高司祭の『グラリトオーレ・ガエリオ』歳は23と未だうら若き乙女の座。
黒く切り揃えた髪に殆ど露出のない上半身。御前なので脱いでいるが、普段は深く帽子を被り、その顔すら隠している。
勿体ないと思える程に綺麗な顔立ち。
性格的にルオラの様な押しの強い服装は無理。戦之女神に準じた白一色の修道服──なのだが、出る処はルオラにも負けてない色香。
そして正装の清らかぶりは腰元迄、その下は黒のストッキングを吊るしたガーダーベルトが魅せる極みの格差だ。
エディウスは色を好む。ルオラとは違えたグラリトオーレが覗かす白い太腿、蒼い視線で軽く舐めた。気付いた最高司祭、御使いに過ぎぬ己の悦びに揺れ動いた。
「こらっ、グラリンっ! エディウス様のお考えに口出しするとは何て無礼なの!」
「ひぃっ! も、申し訳ございません……。あ、あとそのグラリンはお止め下さいぃ」
ルオラの右後ろから腰に差した剣の柄握り締めたのは、修道騎士『レイシャ・グエディエル』だ。他の二人より圧倒的な若さ弾ける17歳。
若者らしく甲高い声で年上の最高司祭を怒鳴り散らす横暴ぶりをみせる。
「だってグラリトオーレって面倒臭いじゃない」
実はただの一兵卒に過ぎないのだが、その剣術にはルオラやエディウスでさえ、期待を掛けている程の実力者。
そもそもエディウスの守護職としての順位は、修道騎士、賢士、司祭の順なので、修道騎士というだけでその発言力は充分多大。
肩で切ったブラウンの髪に山吹色の大きな瞳。細身でかつ女性としても決して高いとは言い難い背丈。白き鎧が重くみえる。
如何にして力に頼る騎士に登り詰めたのか不思議な体格。
然しこの三人で可愛さなら他を圧倒し得る。或る意味叔母さん達より若き器を女神へ堂々手向けた。
やはり彩を愛する戦之女神、選ぶ基準が窺い知れた。
尚、エディウスに仕えし者は装備品も基本白を基調とするのだが、彼女が腰に差す二刀は何れも刀身が漆黒を帯びていた。
個人を表現する色を許されているだけで、レイシャの実力は折り紙つきに違いない。
「止しなさいレイシャ。御前ですよ」
「は、はっ……」
ルオラが窘める。口調は柔らかだし、その顔は穏やかに笑っているのにレイシャは震え押し黙るのだ。
ルオラの実力は、この三名の中でも最強だと知れた。
エディウスが従者達に用意させたのは、翼竜の羽根・牙・心臓5体分。
金貨50枚。尖った大量の石ころは溶岩。他には研磨していないルビーなども混じっていた。
翼竜はモンスターの多いこのアドノス島に於いても希少種。金貨や宝石の原石などもグラリトオーレが云う程、馬鹿に出来るものではない。
彼女の質問が意図するのは触媒の質よりも、何を錬成しようとしているのかが不明瞭だという意味合いが大也。
目も麗しき肝煎りの従者達に敢えて一瞥注いだエディウスの思惑や如何に。
「フフッ……明日には正解を見せようぞ。後は我独りで行う故、今日はもう良い。下がれ」
「「はっ!」」
「エディウス様の御心のままに……」
三人に背を向けたままエディウスは、答えをはぐらかした。歯切れの良い低音が効いた高貴な声に、ルオラ達三名は操られたの如く従順に反応し、その場を後にした。
「ククッ……ヴァイロとか言ったか? 若僧め、精々今のうちに楽しんでおくことだ。我自ら種を蒔いてくれようぞ」
エディウスは三人が去ってから、決して誰にも見せぬ表情で嗤った。
錬成陣に安置された飛竜の欠片だ。ヴァイロの悪夢に浮かんだ白銀帯びた少女騎士が錬成するモノ、最早自ずと知れた。




