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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第43話 焦がれた蒼と紫陽花の行方-ᚨᛉᚢᚱᛖ × ᚺᛃᛞᚱᚨᚾᚷᛖᚨ-

 レアット・アルベェラータとエターナ・アルベェラータ。

 二人のアルベェラータ姓が偶然にもカノン側の義勇兵扱いに滑り込んだ結実。


 元・戦之女神(エディウス神)の司祭であるエターナの語る事実が正しければ、この両者は森の都ラファン出身者。実際レアットに真意を(たず)ねた処、彼はラファンの山中で父親と林業を(いとな)んでいた。


 巨大な戦斧(バトルアックス)よりもさらに大きな(ひび)だらけの剣を振るう男だ。だから同姓を重ねた二人、ラファン出身の件は信用に()る情報だと判断した。


 哀れなのはその後のアギド──。

 レアットにエターナ、問題児二人の世話係をヴァイロから押し付けられた。決めた当人は何とも気楽な様子に見て取れた。


「──ヴァイ? 近頃の俺、面倒事を丸投げされていないか?」


 今に始まった事柄ではないのだが、白い神竜(シグノ)戦之女神(エディウス神)等に関わりを持って以来、自分の扱いに疑問を感じたアギド。

 暗黒神の家(ツリーハウス)へいそいそと帰宅途中の師ヴァイロに若さを以て喰らい付く。


「アテにしてるんだけどな。何しろ俺の一番弟子は優秀だからなぁ……」


 肩を(すく)め緩んだ顔色──アギドの追求を流すべく(あお)りながら早足でヴァイロは家路を急ぐ。

 今宵(こよい)は久しぶりにリンネと水入らずの(わず)かな()()()()()()()ただの凡庸(ぼんよう)(人間)に戻りたかった。


 ──チィッ!


 若過ぎるアギド、心の内で舌を打つ──。

 然も敬愛(けいあい)する師の()()()()()()()()()は、これ以上追求する子供の自分(甘え)を捨て去り、師を見送るより他なかった。


「──大変そうですわね」


 (さび)し気な小さい男子の背中越しに語り掛ける年下の少女。

 今はポニテに非ずな長い灰色の髪の毛をカノンの谷間、駆け抜ける風に流したミリアであった。


「ミリア? 家に戻らなくていいのか?」


 もう黄昏(夕暮れ)(どき)、血縁の家族が待ち焦がれた家の在るミリア。

 近頃は作戦で留守にせねばならない日が多かった。地元(カノン)へ帰郷している時ぐらい家路を急ぐべきだと独り者のアギドは思い込む。


「もぅ私も14歳ですわ。門限とかそういうの気になりませんわ」


 ミリアからも()しい影色を感じたアギド。聞かずとも知れた。師ヴァイロとリンネ──二人っきりのささやかな()()()()を思う顔色(灰色)に違いない。

 あの真面目を絵に描いたミリアの唇から飛び出す『門限を気にしない』心身共に疲れ切った蒼き少年の気分を大いに揺さぶるのに充分過ぎた。


「そ、そうか……ならば(たま)には飯でも…」


 アギド、正直挨拶(あいさつ)代わり的な発言のつもりだ。よもや本気で受け取るなど想像だにしていない。


「あら、お珍しいですわね。なら……是非(ぜひ)好いお店をエスコートして下さいませ」


 少し言い(よど)んだものの(にわ)かには信じ難いミリアの返事。

 ミリア──青い冷静さが(くず)れるのをまるで待ち望んだかの(ごと)き、年に似合わぬ妖しさを匂わす。


 やはり(さび)しさ(ただよ)う笑顔を送ったミリアのオレンジ色の瞳と、アギドの動揺(どうよう)隠せぬ青色(視線)がひとつに溶け合うのを互いに感じ取った。


 ──ミリア……()()…のか?


 アギド少年──どうにか落ち着き払い、1歳だけ年上の薄っぺらい理性持ち得た手を伸ばす。

 ミリアがヴァイロじゃない男子の手を躊躇(ためら)わず(いと)しみを以て握り、さらなる笑顔を手向(たむ)けた。


 この間蛮勇(ばんゆう)レアットを殴り倒したミリアの強固な拳。同一とは思えぬ(やわ)らいだ人肌の温もりがアギドの青白い氷の様な心を容易(ようい)に溶かす。


 アギド──(たま)らず()()()()

 少年から青年への階段登りたき気分(欲望)が揺らぐのを感じた。相手は妹の様な存在、ましてや紅き弟(アズール)が向ける好意を知り尽くしていた。


 されど思春期真っ盛りな()()()者同士。(とき)の流れに身を(ゆだ)ねるのも悪くないと云う気分が首をもたげ(から)み合うのを止めようがない。


 そしてうら若き二人の影は、世辞にも明るいとは云えぬカノンの街角へ消え失せた。


 ◇◇


 ヴァイロ・カノン・アルベェリアから厄介(やっかい)事を押し付けられたもう独り。


 フォルデノ王国、森の都ラファン──そして暗黒神(ヴァイロ)が故郷カノンの境目にそびえ建つ貴族バンデの館。裏の山林を陣取る傭兵(ようへい)シアン・ノイン・ロッソだ。


 そろそろ陽が暮れ点々と星々が空を(いろど)り始める時間帯。ふと一番星を見上げたシアン、ラオに住む親戚に預けた愛しき我が子を星の輝きと重ね合わせた。


 シアンは芯から強き女性。これしきの寂しさで紫の瞳に涙を溜めたりなどしない。

 だが我が子を(した)う母親は万国共通でありたきもの。星の前に流れ着く薄雲と、さらに増えた星を折り重ねたシアンの珍しき憂鬱(ゆううつ)加減。


 己が名前の真ん中であり、(かつ)て心寄せた夫『ノイン』の想い出に浸りきる。

 喫茶ノインの屋号は夫の名前だ。ヴァイロの誘いを受けなければ、自分は未だあの店を独りで開き続けていたに違いないのだ。


 シアン・ノイン・ロッソ──。

 自由きままな空舞う木の葉、戦場で魂(たぎ)らせ散らす血の赤。(はさ)んだノインは青色(Cyan)紅色(Rosso)を思いやりで繋げた紫陽花(Amethyst)の花言葉が如き境界線。


 名は体を表すとよく言うがシアンの場合、夫を病で失った後先も、女性らしく実直に夫へ駆ける想いを繋ぎ()い合わせていたのだ。


 亡き夫から子供を(さず)かったシアン。夫は元来シアンの倍ほど離れた年齢の上、身体が優れているとは世辞にも言い難かった。


 それでも夫の遺伝子を己の器に宿(やど)せた()の幸福。例え死せども心に成した(ともしび)は決して他の誰に愛慕(あいぼ)されても決して消せぬ(癒せぬ)

 戦の天秤(てんびん)などと形容される自分だが所詮(しょせん)独りの男を愛し抜いた、ただの愚直(ぐちょく)な女で在りたいのだ。


 未だ日捲(ひめく)りの度にノインへ想いを()せる。

 ふと夜風がシアンの短い紫色の髪を揺らす。まるで夫が愛を注いでくれた自身の頭を撫でた錯覚(さっかく)()()()


 ──ムッ?


 瞬間、不意に夜風が()ぎ──再び吹いたのを自然の流れでないと肌で読み取ったシアンの()()

 夜空に(またた)き始めた白き星々のひとつと思われたものが急激に大写しへ化ける異様にシアンだけが気づけた。


「あ、あれは! し、シアン殿!」


 秒にも満たぬズレを以てコボルト族の長、カネランも異変に気づき樹々の隙間(すきま)から(のぞ)く白の正体に酷く狼狽(ろうばい)


 されどこの場の総司令を一任されたシアンが抜いた手槍でカネランを制する。

 (からだ)の大きなカネラン、まるで白の正体はおろか銀河の輝きさえも度外視(どがいし)し、月灯りを(にら)狼男(ワーウルフ)に変身した様子に映りゆく。


 然しカネランの驚き処はシアンの行動に他ならない。

 我等がシアンは変わり種の得物(武器)を抜刀済。『アレは私の獲物。邪魔をするな』無言の圧力が聞こえた。


 白の正体──云わずと知れた白い神竜(シグノ)。騎乗する者はただ独り。


 白き鎧、腰回りは夜風を受け妖気を流すかのように、はためく黒のスカート。

 (かぶと)は無用、斬られるつもりなど微塵(みじん)もないと云った大胆(だいたん)


 琥珀色(こはくいろ)の視線、雑魚には目もくれず戦の天秤のみを口角上げ見やるのだ。紫の鋭敏(えいびん)な目線と自然にかち合う。


「シアン・ノイン・ロッソ! この間は(ろく)に戦いもせず負けを押し付けられた! 借りを返して貰う!」


 腰に手を当て竜の背中にて立ち上がる豪胆(ごうたん)なる煽動(せんどう)

 シアンを好敵手(ライバル)(さだ)めた修道騎士レイシャ・グエディエル。


「──はて? 私はエトラでございます。人違いでは? ホッホッホ……」


 まだ二度目の対峙(たいじ)だがエトラ婆の声音で(あお)り返したシアン。最早、両者に取って()()()()の様相。


 その手には乗らぬレイシャの微笑変らず。

 対するシアンの面構えとて完全に戦人(ゆつさびと)に転じた。


飛竜(ワイバーン)の準備を! これより一騎討(いっきう)ちを行う!」


 男よりも凛々(りり)しき声を(とどろ)かせで空飛ぶ騎馬、飛竜(ワイバーン)の準備を味方に(うなが)すシアンの笑み。亡き夫の影と離れて暮らす我が子への情愛を夜風に飛ばした。

挿絵(By みてみん)

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