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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第5章 紫色の"遺"志(ᚹᛁᛇᛚᛖᛏ ᚹᛁᛚᛚ)
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第42話 白銀なる女神の堕とし"者"(ᚲᛟᚾᛞᛖᛗᚾᛖᛞ ᛟᚾᛖ)

 峻険(しゅんけん)()みにくい大地ばかりのカノン。この場所の守護神にして漆黒(しっこく)の魔導士──ヴァイロ・カノン・アルベェリア。


 彼の側に装い新たな少年、レアット・アルベェラータが()を置いた。大気の異能で自身の背丈より巨大な(なまくら)二刀を好きに振れる16歳の蛮勇(ばんゆう)

 喧嘩っ早い性格と愚直(ぐちょく)な生真面目ぶりがおり混ざったレアット。今後ヴァイロの元でさらに化けるやも知れない。


 実の処、義勇兵集めに奔走(ほんそう)しているアギドが扱いに困る存在がもう独り。

 彼の青い出で立ちが更に青ざめる者を地下室に幽閉(ゆうへい)しておいた。師ヴァイロへお伺いを立てねば如何(いか)様にも出来ぬのだ。


 ただでさえ陽当りの悪い底冷えするカノンの地下牢へ、アギドが揺れ動く頼りない蝋燭(ろうそく)の火と等しき気分でヴァイロを案内するのだ。

 

 ヴァイロの赤い瞳に映る者──。

 大きなお団子を2つ左右に抱えた茶髪の女性。暗がりの地下牢、余計に目立つ陽の光思わすオレンジ色のワンピース姿。首から下げ胸上で跳ねる十字架(ロザリオ)。此方を見つめる蒼き瞳。


 視線を(から)めたヴァイロ──素直(すなお)に綺麗な娘だと思い、気がつけば相手の姿形を目線で上から追うただの男性に転じた。


 加えて冷静なアギドが何故困惑(こんわく)してるのかヴァイロにも自ずと知れた。この娘は恐らく司祭(クラス)。然もあろうことか宿敵である戦之女神(エディウス神)の司祭だ。


 ヴァイロは「牢を開けてくれ、俺が独りで話を聞く」と一番弟子を(うなが)した。ギィ……と半ば()び付いた音を立て開いた牢に背の高い己を潜り込ませ、テンガロンハットを脱いだ。


 そして冷たい地下牢の床へ膝立て罪人扱いされている少女相手に深々と頭を下げたヴァイロ。驚く相手を他所(よそ)真摯(しんし)な態度を大いに示す。

 それは(かつ)て──孤児院送りであったリンネを迎い入れる(とき)と折り重なる振舞いであった。


「君の様な女性をこんな場所に囲って済まない。だが此方(カノン)君等(敵方)側の立場を考えれば仕方がないんだ」


 (ひざ)をついたままの姿で顔だけ上げ、薄いマットのベッドに(ふさ)ぎ込んでいた少女へ優しい声音(こわね)の第一声を送り届けるヴァイロの優しみ。


「も、勿論判っております()。私は皆さんの敵──戦之女神(エディウス神)様の司祭……()()…から」


 お団子を揺らした少女が顔上げ、酷く慌てた様子で応えを(にご)す。

 特徴的な(なま)り──ヴァイロの緊張を心持ち緩やかな流れに(いざな)う。


「あの争いの最中を逃げ()()投降(とうこう)した訳ではないと聞いた。真意を教えてくれ『エターナ・()()()()()()()』」


 ヴァイロの語るあの争いとは、云う迄もなく貴族バンデの館付近での初戦。


 世間の下馬評(げばひょう)(くつが)した暗黒神(ヴァイロ)側の圧勝で終わった争い。

 特に逃げ場を喪失(そうしつ)した地上軍であれば、敵側へ(命欲しさに)白旗振る(投降する)のも止むを得ないだろう。

 

 名前は事前にアギドから聞いていた。珍妙な訛りとレアットと同じアルベェラータ姓を名乗るこの少女。レアットに引き続き、出来過ぎた運命を感じずにはいられないのだ。


「し、死にたくは…あ、ありま()()。で、ですが()()……それ以上に戦争がしたくて司祭になった訳じゃ……()()()


 もう半ば泣き声混じりで心の内を訴え始めたエターナと云う少女の(つら)み。


「ひっ、人助けが()()くて戦之女神(エディウス神)様の教えを受けただけだぁっ。人殺しの手伝いなん()っ、()()くねぇっ!」


 嗚咽(おえつ)の声と訛りを織り交ぜ()き回すエターナの叫び。吹き出す様に泣き始めたが故、人扱いに手慣れた筈であるヴァイロの動揺(どうよう)を誘った。


 然し同時に湧き上がる疑念(ぎねん)──。

 

 ──争いが嫌で逃げ打ったのならば敵方へ走るのは、おかしいのではないか?


 何度も語るが暗黒神(ヴァイロ)呪文(スペル)に回復の術式は存在しない。ついこの間ハーフエルフの医者エルメタが(いや)しの役目を帯びて着任したとはいえだ。


 戦之女神(エディウス神)の司祭が起こす回復の奇跡──即効性のある癒しを抱く者。

 未だ持ち得ていないのだ、(のど)から手が出るほど欲しい人材。なれど一度戦場に立てば倒す相手方が入れ替わるだけである。


「す、済まない。泣かせるつもりじゃなかったんだ。君が今後平穏(へいおん)な生活を望むと言うならば、このカノンで()()()()()を歩んだって構いやしない」


 我ながら白々(しらじら)しい嘘をついたヴァイロ、女に弱い己を恥じる。敵方の間者やも知れぬ人間を誰が野放しで置くものか。


「わ()()()ぅッ! アルベェラータ家は代々人様のお役にだづ(立つ)のががぐん(家訓)! ファウナ様にもお仕え()()! ()()れに故郷(ラファン)をあんな風に()()黙っ()おれんの!」


 エターナ、涙で()らした青い目をしっかと見開き意外な台詞(覚悟)を吐き散らした。


 涙と(つばき)を同時に浴びせ掛けられたヴァイロ、よもや聞きたかった答えの断片を相手が漏らすとは思わず(あせ)った。


「か、重ねて済まん! その……なんだ。お前レアットって奴を知っているか? お前と同じアルベェラータを名乗る大男だ」


 情緒不安定(いちじる)しいエターナ相手にらしくないヴァイロの慌てぶりが続く。迂闊(うかつ)にも此方からレアット・アルベェラータの存在を口外(こうがい)する。

 もし仮にエターナがレアットと繋がり在る存在ならば、()()()()()()()が動いている事実を自ら(さら)した汚点と化すのだ。


 然しエターナも在らぬ尻尾(証拠)を自ら出した──。

 エターナが涙ながらに発狂した『ファウナ様にもお仕え()()!』一言。そんな伝承、ファウナ神の手記すら(あさ)()()()には通じなかった。


()ぇ? レアットぉ? ()らねえ()。アルベェラータっ()、ラファンには割()()ある名前だぁ。他人の空似だぁだぶん(多分)


 涙が栓でも閉めたかの如くピタッと止んだエターナが青い目を丸くしながら返した意外。

 エターナを(のぞ)き込むヴァイロが彼女の仕草を(うかが)う。嘘をついてる感じには映らなかった。


 そして泣き止んだエターナを(しば)らく置き去りにして、腕組み考えに(ふけ)暗黒神(ヴァイロ)


 エターナ・アルベェラータ──。

 手元に置けば他の味方の身を案じる気分が浮かばずにはおれない。然しながら放置するのも異なる心配の種を()く事に変わりなかった。


 スッ……。


「えぇ?」


 少々怖い顔つきのヴァイロが(ふところ)からナイフを取り出す。得物が紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)でない彼は珍しい。


 そのまま自身の親指に突き立てた故、エターナが思わず目を()らした。

 構わず血が(にじ)んだ親指を地下牢に落ちてた白紙に押し付けたではないか。


「隠れてないで出て来い()()()! お前がこの契約の証人になれ!」


 先ほど迄とは打って変わったヴァイロの(とが)った声音が地下牢の外へ木霊(こだま)する。

 (あぶ)り出されたアギド、バツが悪い(しか)めっ面で姿を現し、己も牢屋に入室した。


 流石気心知れたヴァイロ第一の徒、血判がひとつ押されただけの汚らしい紙切れを契約書にすべく筆記をサラリッと書いた。


 旧イタリア語で書き殴られたそれはまさしく檄文(げきぶん)と云えた。


『Se quella persona compie un tradimento, 'Vairo Kanon Alberia' si prenderà la responsabilità di porre fine alla sua vita.』※

 ※訳:かの者が裏切り行為をした場合、"ヴァイロ・カノン・アルベェリア"が責任持って命を絶つ


「さあエターナ・アルベェラータ! 君の思いが真実ならば此処に名を(きざ)め! 出来ないとは言わせない!」


 契約書の内容を()めるように一読したエターナ、思わず腰が引けた。されど赤と青の刺す視線を手向けられ他に道なしと知り抜いた。

挿絵(By みてみん)

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