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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第4章 聖戦開始(ᚷᚢᛖᚱᚱᚨ ᛊᚨᚲᚱᚨ
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第39話 押しては返す波の如き闘争ーᛒᚨᛏᛏᛚᛖ ᛟᚠ ᛏᚺᛖ ᚹᚨᚠᛖᛋー

 カノンの義勇兵入りを志願したのはただの建前──。

 岩の様に巨大な二刀を手に、カノンの守り手ヴァイロ・カノン・アルベェリアすら()()()にすべく身勝手決めてたレアット・アルベェラータ。


 ヴァイロけしかけたが弟子の女子供達。レアットより小さな()──ミリアとリンネからこっぴどくやられ、よもやな満身創痍(まんしんそうい)


 レアットの脳裏に戦慄(せんりつ)が走る……訳なぞないのだ。

 むしろ自身の内側から流れ出た鮮血を()(たか)ぶり白い歯を()き出した。

 地中から()()した巫山戯(ふざけ)た二刀目。大きな彼の(からだ)より巨躯(きょく)な二剣を構えた異端(モンスター)


 この間、共に戦った亜人共より余程化け物を思わせる(威圧)。不出来な特撮でも観せられた気分に駆られるヴァイロ達。


「あ、あんなものこけ(おど)しに決まっている!」

「──ッ!」


 近頃狼狽(うろた)える出来事が増えたアギドの哀愁(あいしゅう)。青い瞳を眼鏡のレンズが誇大(こだい)へ見せたかに思わすほど見張った目を師ヴァイロへ送る。


 悠長(ゆうちょう)していたヴァイロが遂に歯軋(はぎし)り。レアットが両手に握る岩の如き二刀が飾りでないのを肌感覚で自ずと知り往く。


 次第に息が荒くなるヴァイロ──。

 手に握る紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)がただの脅し(飾り)でなくなる(とき)が訪れるやも知れず、その時分(じぶん)見計みはからっていた。


 二刀流──。

 実に勇壮(ゆうそう)だが、その優位性を完全無欠まで昇華(しょうか)させた者は極僅(ごくわず)か。何れかを防御、(ある)いはわざと見せつけ相手を威嚇(いかく)し本命を叩き込むが自明の理。

 日本に於ける伝説の剣豪(けんごう)、あの武蔵でさえ本気で繰り出せたのか危うき伝承が今に残る。


 然しヴァイロ達の目前で無邪気(むじゃき)な笑顔を見せるこの漢(レアット)。理屈も屁理屈さえも度外視(どがいし)させた。


 スッ──。


 ミリアとリンネの助けに入る動きを見せたヴァイロを片手で制したのは何とミリアであった。ただの可憐(かれん)な少女を捨てた手甲が師を邪魔立てしたのだ。


 ──ミリア?


 声なき心の声が(あふ)れたヴァイロへ、オレンジ色(橙色の瞳)一瞥(いちべつ)寄越(よこ)した。


「あの男にまだ上がある? 私だって未だ終わっていませんわ」


 いつも通りなミリアの至極しごく丁寧(ていねい)な言い回し。だからこそより迫力を増した。


「いっくぜぇッ!」


 レアット──牽制(けんせい)(から)め手など鼻で笑う真正面から振り上げた剣。血塗れの顔、目や口に入ろうが構わぬ攻勢あるのみ。


 またしても起きる突風がミリアのポニーテールを揺らすかに思えた次の一瞬。


「ハァァァッ!」


 気合一閃、次はミリアが地面の岩肌を砕き散らす。岩から石へ堕ちた存在。レアットが起こした風に巻かれ四方へ散じた。


「ぐっ!」


 ヴァイロやアギドが顔に石が飛び込まぬよう腕で隠す。敵味方双方を無視したミリアの牽制(けんせい)。襲い来る化け物(レアット)にも飛び込む必然。


「ふっざっけんなッ!」


 石礫(いしつぶて)を自身の石頭を突き出し意にも(かい)さぬレアットの突貫(とっかん)。痛みに非ず、石ころ如きで自分を止めにかかった女相手(ミリア)怒声(どせい)で息巻く。


 されどこれはレアット──()の使い処を明らかに誤っていた。


 石礫(いしつぶて)()()少女(ミリア)おろかしい男へ向け、深くスリットの入ったスカートからはみ出た白い(ひざ)を上げた飛び膝蹴り。


 化け物じみたレアットの(あご)をかち上げた。ミリアが肌で感じた敵の脳汁に浮かぶ馬鹿な()()を確実に揺らした手応(てごた)え。


 ぐりっ。


「えッ!?」

「へっへ……捕まえたぜ嬢ちゃぁぁんッ!」


 ミリアの膝蹴りがレアットの脳震盪(のうしんとう)を呼び込んだ筈の一撃。

 なれどこの漢、やはり理屈が通らなかった。向こうから寄せて来た少女の脚を無造作に(つか)み、円盤の様に飛ばしたのだ。


「──『音の波風(オンダ・ナザレ)』!」


 このままではミリアが頭から地面へ叩き付けられると思ったリンネが放つ音の波風。

 間に合うか怪しかったが最悪の寸前、飛ばされた(からだ)の勢いが(わず)かに弱まるミリア。


「くっ!」


 恋敵(ライバル)リンネに命救われ複雑な想い(たぎ)らすミリアが(からだ)を反転、怒りを拳に乗せ地面を殴り難を逃れた。


 然しながら絶対的力量差をまざまざと見せつけられたミリアである。未だ研鑽(けんさん)足りぬと心の内側で独り歯(ぎし)り。


「すぅぅ…はぁぁぁ……」


 ミリア、争いの最中軽く息吸い深く吐き出し己の胸を上下させた。然もレアットに背中を見せた手抜かり。


()めてえんじゃねぇぞッ! このガキィッ!」


 レアット、怒涛(どとう)の突進。仮にミリアの動きが相手を呼び込む挑発(ちょうはつ)であればまんまと落ちた形。

 次いでに語ればレアットの歳は16。ミリアを『餓鬼(がき)』と云える程その差変わらず。そして少女を呼ぶ男子の叫びとは思えぬ凄味(すごみ)だ。


「ガァァァッ!!」


 だがミリアが背中を見せた相手はレアットではなかった。ドラゴンの咆哮(ほうこう)木霊(こだま)するも黒い神竜(ノヴァン)の介入に在らず。


 音使いリンネの咆哮、竜の音(リンネ)轟音(ごうおん)を吐き出した。レアットが残った片耳の聴覚を抑える最中、ミリアの背にすかさず入る。


 ミリアはリンネに背中を預ける様、敢えて彼女へ見せ付けたのだ。そして自分を落ち着かせ切り替える深い息の時をリンネに(かせ)がせた。


「──で、どうすんのさあんな化け物?」


 此方もミリアへ背を預けた格好──リンネの冷汗。けれども何故か薄ら笑い。


「本当に困ったものですわ。此方の策を気にも留めない──ですがリンネ、貴女と何処か似た波長を感じますわ」


 空気を読まない敵と背中に居る恋敵(ライバル)を並べ立てたミリアの意地悪(いじわる)。此方も引き()っているものの笑顔を(のぞ)かす。


「ど、何処がだ!」

「来ますわ、では()()()()


 化け物と自分を一色淡(いっしょくたん)にされ目くじら立てるリンネ相手に言葉足らずなミリアの意味不(イミフ)


 何故か(さっ)したリンネ──されど試したことなき使い道。女は度胸とばかりに腹を(くく)った。


 リンネの目前に迫り来るレアットの巨大剣。決め手に掛ければ(つぶ)れた(かえる)の如く無惨(むざん)な最期を遂げる直前であった。


「──『音の波(オンダ・ソノラ)』」


 音の波紋(はもん)──(しずく)が落ちた様な音が木霊(こだま)する。この雫を落とされた被術者は、状態異常をきたす魔導からその身を護られる。


 リンネ、何とした事か。その雫を落とした相手はレアット。敵を護って何とする。

 ヴァイロとアギドは、リンネがミリアの指示を思い違いしたものと絶望抱いた。


 だがレアットが巻き起こす大気の流れが僅かに緩んだ。

 本当に微少(びしょう)な差──然し棒切れが如く自在に振り回していたレアットの巨大剣。途端(とたん)に動きが停止した。


「そこッ!」


 ミリアがリンネと両腕絡ませ前後を反転。動きが止まったレアットの手をリンネに背中預けたままの形で蹴り飛ばす。


「ぐぁッ!?」


 急に愛刀が重くなり(ろく)に振るえなくなったレアット驚愕(きょうがく)。巨大剣の柄を握る両手をミリアに蹴られ不覚にも剣を地面に落とした。


 トンッ。


 慌ただしく剣を拾おうと動いたレアットの背にあてがわれたミリアの拳。

 流石のレアットすら知れた敗北の味。本気で殴られていたなら脊髄(せきずい)を破壊されていた。


「参った……悔しいが俺様の負けだ。──だがなんで負けたのか全然(ぜんっぜん)判んねぇ」

 

 両手を挙げ降参の態度をレアットが示す。意外な程、勝敗は(おだ)やかに決した。


「助かりましたわリンネ。音の波(オンダ・ソノラ)による異能封じ、お見事でした」


 ミリアの言葉に灼然(しゃくぜん)としないのは敗北へ落とされたレアットだけではなかった。師匠ヴァイロや一番弟子アギドも動揺の色を隠せない。


「──全く、私だってまるで自信なかったよ」


 ミリアの機転(きてん)(あき)れた声で返すリンネである。音の波(オンダ・ソノラ)は、音の波紋で被術者を包み込み魔導を防ぐ。


 レアットが巨大剣を自由に振るえるのは異能だと悟り、彼に波紋を落とし異能毎封じ込めた。


 守備に特化したミリア・アルベェリアの真骨頂(しんこっちょう)──防御を封印(結界)に反転させるひらめきの勝利であった。

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