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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第4章 聖戦開始(ᚷᚢᛖᚱᚱᚨ ᛊᚨᚲᚱᚨ
43/125

第38話 滾れ貫け己の血潮ーᛒᛚᛟᛟᛞ ᛏᛁᛞᛖー

 岩をも砕く──。


 よく使われる形容詞(テンプレ)だが、カノンの義勇兵に志願してきた大男──蛮勇(ばんゆう)レアット・アルベェラータが握る刃は、岩そのものを思わす姿形の超巨大な(なまくら)。『岩を(したた)かに叩いて(くだ)き割る』型を捨てた天剣(てんけん)


 彼は義勇兵(ぎゆうへい)処か暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアを打倒、その座を狙っていた。


 やり方? 

 裏取り? 

 そんな小細工(こざいく)へ回す頭の残りがまるでない。相手を(つぶ)す勝利以外、答えの片隅(かたすみ)にもないのだ。


 ──い、一体何が起こってやがる!?


 そんな大男レアットが顔引き(つら)らせ、鳩尾(みぞおち)殴られくの字に曲がり宙浮く不思議。

 然もやったのは14に成ったばかりの少女。灰色の(ポニテ)たなびかせたミリア・()()()()()()。魂だけ勝手に嫁入り果たした灰色(隠れた)な存在(繋がり)


 ──拳も(かて)ぇが、あの細腕で俺様を軽々持ち上げるだとォッ!?


 油断をしていた、それは真摯(しんし)に認めるレアット。

 何しろ相手は小さな少女だ。例え魔法を唱えようが、遠距離攻撃でなく身体を潜り込んで来た。だから負ける気なぞ(まば)らもなかった。 


 地上で悠々(ゆうゆう)自分が落下して来る()を待ち受ける少女(ミリア)、笑いひとつ浮かべぬ。だが余裕の態度。

 このまま落ちれば好きに(なぐ)られ、自身の(からだ)が云う事効かなくなるまで連撃(コンボ)を喰らうのが目に見えていた。


 独り顔で小躍(こおど)り見せる暗黒神(ヴァイロ)──『どうだい俺の娘達(弟子達)は? とくと味わえ』そんな余裕面でニンマリ空を見上げる。どちらが勝っても面白い不謹慎(ふきんしん)なお楽しみ。


 ヴォンッ!


馬鹿(バッカ)にすんじゃねぇぞッ!」


 宙に飛ばされたまま、針山の様な剣を振り下ろすレアット。間合いには誰も居ない、悪足掻(あが)きで(おろ)かな太刀筋(たちすじ)に思えた。


「ぐっ!?」


 ミリア、思わず歯を食い縛り両腕を上げ防御(ガード)の体勢。突如(とつじょ)届いた嵐に()された。(いく)ら巨大な剣とはいえ、振るっただけで突風(とっぷう)を起こせるとは到底思えない。


 ──成程……。


 たった独り──レアットが吹かせた風の魔術(マジック)の種を見抜いたヴァイロ。

 紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)の様な魔法を帯びた剣ではない。魔術(奇跡)を起こしたのは、剣を振った化け物(レアット)だと瞬時に悟る。


 小生意気な少女(ミリア)を後方へ(はじ)いたレアット。

 自ら巻き起こした風に乗り、風神の如く反撃の糸口を(つか)んだかに思えた矢先。


 逆転に継ぐ反転を狙うミリアの眼光(がんこう)

 巫山戯(ふざけ)(気分)寄越(よこ)した男、愛するヴァイを(じき)に狙い()ました不届き者(レアット)を決して赦しはしないのだ。


 地面の岩肌を全身をばねと化して蹴り、マントを広げ逆方向へムササビの如く跳躍(ちょうやく)


 ミリアの目前に(せま)るのは岩より強固な黒の塊、鋼の(うろこ)で全身を(おお)黒い神竜(ノヴァン)。彼を踏み台にした。加えて(ヴィラン)が巻き起こした風の上に乗り征く斬新(ざんしん)なる動き。


「なッ!?」


 またもミリアにしてやられたレアット。長過ぎる剣を振るう前に(ふところ)へ入られ手も足も出せない。


 ズダダダッ!


 ミリアは重力解放(ヴァレディステラ)を使ってなどいないのだ。然しまるで宙で静止したかの如くレアットの腹を殴る蹴る電光石火。

 拳闘士(ボクシング)ならヘビー級(最重量級)ミニマム級(最軽量級)の両者。その割ミリア(ミニマム級)の拳が重過ぎる。レアットの気分を聞く迄もない絵面。


 ミリアの変幻自在──。

 暗黒神(ヴァイロ)防御魔法の最高峰(さいこうほう)新月の守り手(ベスタクガナ)を全身へ好きに移動させ空へ跳ね、次は相手を殴る武器へ転用し尽くす。


 腹を鋼の拳や蹴りで数え切れないほど叩かれ、首を降ろしたレアットへ襲い来る天罰(怒髪天)

 レアットの顔が左右に(はじ)かれ続けた。


 ──此奴、本気(マジ)でやべぇッ!


 情け無用の拳から(ほお)を左右に殴られ続けたレアットに走る震撼(しんかん)

 ミリアの力は無論、怒気(どき)に任せたとはいえ、人間をこうも無遠慮に殴れる精神面(メンタル)に驚き抱いた。


 レアット・アルベェラータはどれだけ強かろうと所詮(しょせん)ただの喧嘩屋(けんかや)。強さの矜持(きょうじ)を忘れた力の体現。

 ミリア・アルベェリアは覚悟が違う、何しろ皆の盾に化ける己の力を惜しまず注ぎゆく。

 ましてや勝手に(とつ)いだ夫の命を狙った(やから)だ。レアットはミリアの逆鱗(げきりん)に触れてしまった。


 レアットが起こした嵐、(ようや)く静まり地上に落下へし始める。

 ミリアは空中で跨り(マウント)、レアットの巨躯(きょく)が地面に叩き付けられる迄、こっぴどく潰す様に()()()()()叩き続けた。


「グッハァッ!」


 重力とミリアの拳で()()へ背中から叩き付けられたレアットの血反吐(ちへど)。土煙が舞い上がる。

 流石に終わったかに思えたミリア。飛び下がるも両腕(ガード)は未だ下げない。


「へっ、へへ(ワリ)ぃ、赦せ、()めてた。随分楽しい喧嘩(けんか)じゃねぇかよ!」


 巨大剣を(つえ)代わりにレアットが万感(ばんかん)の笑みをヴァイロ側へ向けるも満身創痍(まんしんそうい)にしか映らなかった。

 酷く()れ上がった顔、それは見なくとも判る結果。意外な場所から血を()れ流していた。


 それは右耳。ミリアの攻勢が成した結実ではない、自ずと知れた。


「こ、鼓膜(こまく)が!?」

「──ッ!」


 最早この戦い、ただの観戦者と化したアギドに走る衝撃。緑髪のリンネとヴァイロの顔色、両方を(うかが)う。

 すべからく見透かしたかにみえたヴァイロが垂らす冷汗。彼さえ想像だに出来てなかった。


 リンネの初手──。

 腕力のない彼女唯一の直接攻撃(ダイレクトアタック)、聴覚を揺さぶる大声に依る威嚇(いかく)。然しまさかレアットだけ狙い撃ちで鼓膜破りを成すとは、この場に居る誰しも思えなかった。


 レアットは鼓膜を深く傷つけられ三半規管(さんはんきかん)が巧く機能してなかったのだ。


()()()()()()()()リンネ……」


 この争い初めて見せるヴァイロの揺らいだ声。

 意味が全く解せないアギド、眼鏡裏の蒼い目を見張り、師ヴァイロを覗き込む。


「あれではリンネ得意の音の攻撃、左右から音で揺さぶる力が用を成さない」


 アギドから疑問の視線を浴びせられ、無言の質問へ解答を返したヴァイロの声は酷く(よど)んでいた。

 今までのリンネにこんな芸当は出来なかった。それに(りき)み過ぎた。


黒い神竜(ノヴァン)が成長するにはリンネが不可欠』


 ヴァイロは己の認識が足りなかった事を知り往く。ノヴァンだけに在らず、親と云うべきリンネも共連れで成長する事実を今さら理解した。


 ズガンッ!!

 リンネの意外な成長ぶりに気を(とら)われていたヴァイロ達。何かが炸裂する爆音に脅威(きょうい)を抱いた。


 ボロ雑巾に思えたレアットが地面を素手(すで)で叩き割る瞬間が目に飛び込む──気でも触れたか?

 だが次の一瞬、理屈抜きの狂気をその()(きざ)むのだ。


 裂いた硬い岩盤(がんばん)からレアットが取り出した物、()()の巨大剣。

 なんとした事か、レアット・アルベェラータ脅威の巨大な(なまくら)は二刀であった。


「喧嘩だ喧嘩ァッ! こんなに楽しいのは初めてだッ! 本番はこれから! さぁッおっ始めようぜッ!」


 異能?

 魔導?

 戦略?


 総てを嘲笑(あざわら)漢気(おとこぎ)血塗(ちまみ)れの破顔一笑(はがんいっしょう)を見せつけ空気を読む処か吹き飛ばした爆裂。


 ──まだだッ まだ終わってねぇ! 本気の勝負(楽しみ)はこれからだ!

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