第33話 ”白夜”の開戦ーᚲᚨᛁᛊᛖᚾー
カノンの暗黒神──。
ヴァイロ・カノン・アルベェリアがフォルデノ王国の異端なる貴族、亜人達をこよなく愛するバンデと手を結んだアドノス島内へ瞬く間に波紋を呼んだ。
互いに手を取り合った異端児。情報を大々的に宣伝した訳では決してない。
白銀の女神が制圧したラファンの山々と目と鼻の先に存在するバンデが治める屋敷の裏山。
亜人達を労力と成し、石塁等を建築し始めれば、自ずと世間に知れ渡った。
だがそれだけに在らず──。
フォルデノ王国内では『我が王国を理不尽な女神から護る救世主』と暗黒神が称賛され、噂は山火事が如くラファンへ火種を飛ばした。
一方──アドノス島を離れた海外。
地中海を挟んだ欧州各地へ拡散したニュース。海路便りに貿易で花咲く中身皆無なフォルデノ王国が大いに拡散。
『The goddess and the dark god mounted their respective dragons and started a war.』(女神と暗黒神が互いの竜に跨り戦争を起こした)
胡散臭さが真実の臭気を帯びる様な話が飛び交い、現人神ファウナを生んだAdon-Northがさらなる脅威の対象へ堕ちた。
まるで東洋に浮かぶ黄金の国が嘗て世界に強いた鎖国の形。
──まさしく異世界を現世に呼び込んだ──
暗黒神の裏方──一番弟子のアギドと、雇われ店長のシアン・ノイン・ロッソは多忙に気分を削られた。
主人に対する苛立ちを抑えつつ義勇兵集めに奔走する16歳。どれだけ『暗黒神一番手の使い手』と吼えた処で所詮は子供。
だからアギドの呼び掛けへまともに応じるのは、同じ位の少年少女達と云う皮肉を呼び込む。
シアンは美麗な顔で苦虫を潰す。
与えられた異教の兵士達──バンデが手間暇かけ用意した亜人達を手足として扱い戦之女神の軍勢を迎え討つ準備に精出す。
『こんな仕事を寄越すなど聞いてないぞヴァイ』
雇い主へ喰い下がりたい気分に荒むシアン。だが例え嫌な依頼とて引き受けるのが傭兵であり、仕事とはそうしたものだ。
美しさ際立つシアンの肢体が亜人達へ指示する仕草──。
余りにも風刺が過ぎる妖艶。
殷王朝で妖孤九尾が女と成した器、妲己を彷彿させた。
そして遂に戦端は白き雲が如く流れ溢れる。想定通りフォルデノの国境を飛び交い大胆にも正面から戦陣を晒す。
森の都を無血で落とした勝ちに奢る連中の面前を雷の如く飛竜に跨り斜線上に駆け抜けた紫色の影。
「戦の天秤シアン・ノイン・ロッソであるッ! 此処を通りたくば私の首を獲れッ! 尤も安くはないぞッ!」
普段軽々しく物事を決して運ばぬシアンが戦姿。戦之女神軍の目前にて孤独な先陣を征く大胆不敵。
敵の視線を完璧に集中させる一凛の紫。手槍に似た愛刀を敵陣のど真ん中へ突き付け名乗りを挙げる。
よもやな総大将が兵士独りとして連れず、まるで自在な黒僧正が如き機敏なる変動を見せつけた。
白銀の女神が駆る白き神竜シグノの周囲に陣取る他の白。
総じてまばらに崩れ、飛竜に騎乗しているシアン目掛け我先とばかりに襲い掛かる愚の骨頂。
「そんな安い挑発に乗るんじゃないッ!」
総大将エディウス御自ら気の振れた兵士達を止めに掛かるも、その勢い留まることを知らず。自分達とて白い神竜に乗っているのだ。
暗黒神に雇われたシアンが駆る飛竜は白い神竜の部品に過ぎぬのだ。
幾ら名の知れた傭兵シアンといえど単騎で堂々突貫。
加えて煽動の御旗を掲げられては黙っておれない壊乱を呼び込むが必然。
ボウゥッ!
シアンの駆る飛竜が狂乱の巷が最中、火の息を飛竜に吐かせる。
無論、これだけで致命を取れるなどとシアンは端から思ってなどいない。即時ジグザグに飛竜を舞わせ離脱を図るのだ。
それでも敵の総大将シアンの首を狩るべく追い縋る驕り昂る兵達の群れ。
紫色のマントをたなびかせ空を駆けるシアンの後光。獲れば一攫千金──紫水晶に映える幻覚。
「ウグッ!?」
「う、動けんッ!?」
己が女神の制止を振り切り紫色の夢を追い求めた愚弄犯した白の兵士達。2騎の白い神竜毎、見えぬ何かに捕まり動きを止めた。
「ハァハァ……」
重力解放で宙を飛び、右掌を開き切ったミリアが待ち構えていた。
以前戦之女神と争った折、自分達を護る守備の魔術『白き月の守り手』で張った結界を槍の様に突いた転化。
次は敵を捕縛する為、網の目状に張り巡らしたのだ。女郎蜘蛛が手ぐすね引き待ち構えていた。
「暗黒神始まりの徒──アギドの名に於いて首級にも値せぬこの憐れな者共の命を滅する蒼い凍忌の花を与えよ──『葬送の獲兜』」
蜘蛛が捕縛した憐れなる獲物を捕食する迄の猶予?
そんな生易しい死期への慙愧など与えなかったアギド。シグノを駆る敵兵達を心臓からミリアの張った結界毎凍結し切った。
「俺は白い竜も加減せず殺す気だった! まさか効かぬとは……」
白い竜2頭は藻掻き続け、葬送の獲兜の氷と白き月の守り手で張った結界を千切ると空へ逃げ遂せた。
アギド、己が脳裏に描いた予定調和が崩壊し、独り蒼き目を見張った。
ポロンッ……。
目の前で派手にやらかした紫色のシアンに気を奪われた戦之女神、空の部隊。背後からハープの音色と黒い竜の翼が羽ばたく空気の音響。
「──『音の波風』」
ザァァァァッ!
「こ、これは激しい波の音!?」
戦之女神軍、後方に陣を成してた戦之女神に走る音の旋律。
ただの音使いと未発達の黒い竜ノヴァンを軽視していた自分達へ響く警鐘。リンネを背に乗せたノヴァンが鋭い牙を覗かせ口を開く。
「ガァァァァッ!」
黒い神竜が口に含んだ炎の息を有りっ丈を吐き散らす。
それはリンネが為した空気の波風に乗り、広範囲を炎の波で包み込む火葬の宴。
勝ちに驕り力押しだけで征けると馬鹿を通した者共を焼き払う。
ニタァ……。
己が与え授けた炎の威力を満喫した紅潮し切る真っ赤な少年の嗤い。
前ばかりに注力し過ぎた戦之女神軍。氷の次は焦熱地獄が待ち構えていた。
「ヘルズ・フィアー、暗黒神が竜ノヴァンの焔叉よ、神すら恐れる地獄の大焦熱を──喰らいやがれ! 『紅の爆炎』!」
爆炎の魔導士アズールがリンネとノヴァンが押し広げた炎の波にとびきりの味付けを施す。
ズガガーンッ!!
空中で炸裂した大焦熱地獄、アズールから心尽くしの贈り物。
白い神竜が炎の息で応戦する暇さえ与えない黒側の真骨頂。
これはさしもの白い神竜の軍団さえ、炎に白い翼を焼かれ墜落する竜が続出した。
「ムッ!」
白を燃やし尽くす赤い蹂躙に満足していたアズール。炎の波間を斬る白銀の少女をみつけた。
そして白い神竜に騎乗するのを赦されなかった戦之女神の地上部隊。
亜人達が山の方──石塁を成していたのは知り尽くしたが故、裏山の端。2頭の白い竜を盾に敢えて登山せず山と山の境目を進軍していた。
戦之女神は、個人的には護りの女神の力を扱える程の無双。
だが──味方の護りはおろか、森にすら疎かったと思い知るのだ。




