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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第4章 聖戦開始(ᚷᚢᛖᚱᚱᚨ ᛊᚨᚲᚱᚨ
37/128

第32話 金色入り混じるChaos(ᚲᚺᚨᛟᛊ)

 アドノス島の峻険(しゅんけん)な谷底を()き集めて成したカノンを守護する暗黒神──ヴァイロ・カノン・アルベェリアは大層苦悩していた。


 個人的にも(かたき)であり、領土としても敵領である白い神(エディウス)(よう)するロッギオネが攻め入るのは時間の問題。


 間違いなく敵はカノン領の南隣、好きに振る舞う小国フォルデノ王国の東端を(かす)めて襲来するルートを取る。


 何故か──?

 ロッギオネから真っ直ぐ森の都ラファンに生い茂る森を大隊で横断しようものなら自然の要害、森の精霊達が住処(すみか)を抜ける。それは愚者(ぐしゃ)の行い。


 森の臭気(しゅうき)(ただよ)う場所を強行すれば、樹々に化けた森の美女達──精霊ドリュエル達へ己が兵達の精を差し出す最悪手なのだ。


 例え空が舞える白い神竜シグノ20騎を以てしても、こればかりは抜けられぬ。なのでフォルデノ王国に居を構える異端な貴族バンデの館を掠めて(落として)征く1本道に(しぼ)られる。


 依ってバンデからの申し出──亜人達(デミヒューマン)をヴァイロ勢に引き入れるのは止む無き必然なのだ。だから漆黒の神様(ヴァイロ)は腹を(くく)って受け入れた。


 されどヴァイロの弟子達とシアン一行以外異形の者共を率いては、増々以て名実共に暗黒神の()()を背負う。彼等はあくまで黒側(裏側)なのだ。


 そこでヴァイロは一計(いっけい)を図る。

 カノンには日々の生活にも困窮(こんきゅう)きたす連中が大勢住まう。彼等彼女達を義勇兵として(やと)算段(さんだん)だ。


 矮小(わいしょう)かつ王族さえ(めぐ)まれれば満足な王国の貴族共、またしても気軽であった。

 ヴァイロが雇う兵達の賃金(ちんぎん)を肩代わりする。何しろ自分達の盾に国民を割かずにいられるのだ。なので快諾(かいだく)された。


 自分が肩を貸した勢力が必ず勝利を収める傭兵(天秤)──シアン・ノイン・ロッソは、ヴァイロのやり方に激怒した。『お前、遂に性根(しょうね)さえも暗黒に染まるつもりか』当然の憤怒(ふんぬ)雇い主(ヴァイロ)へ向けた。


 義勇兵──。

 良い結果を残せば裕福な暮らしが得られる。なれど真逆は死あるのみ。護るべき者達を他人の金銭で雇い死地へ送り出す愚計(ぐけい)

 そんな非道(ひどう)を自身に()いる程、この男は苦境の淵際(ふちぎわ)に立たされていた。


 そしてこの悩める暗黒神は、さらなる苦悩の極みを己が独りで抱え、同じベッドで眠るリンネを起こさぬよう静かに抜け出し、(たな)に入りきらない本や資料を頼り無きランプの灯りで照らし、古めかしい文字を辿(たど)っていた。


 ヴァイロに取っての絶対神──護りの女神(ファウナ神)の魔導を戦之女神(エディウス神)が成し得た本質を調べる為だ。


 白銀の女神(エディウス)がファウナの魔法に限りなく近しい力を再現した。(ある)いはファウナの能力だけ(うば)い去った。やり方こそ不明だが、これなら合点がゆく。


 然しヴァイロが最も信頼する弟子のアギドが『アレはファウナ神の魔導だ』と言い切った。

 

 平和を誰よりも愛し、民草の安寧(あんねい)を目指したファウナ・デル・フォレスタが、戦の権化(ごんげ)的な戦之女神(エディウス神)に手を貸すとは思えぬ必然。


 やはりファウナと共に新たな世界の門出かどでと云うべきForteza(フォルテザ)市を造り、旧イタリア属領からシチリアを独立させたファウナの()()


 レヴァーラ・ガン・イルッゾの秘密を明らかにする以外、選択がないと思えた。されどもやはりレヴァーラの記述だけ無理矢理消されていた。


 ダンッ!


「クソ! たかが150年前。然も俺はファウナの声を()()()彼女の従属神だぞ! 応えてくれファウナよ!」


 行き詰まりしヴァイロ。草臥(くたび)れた机に八つ当たりの拳を落とす。さらに『女神(ファウナ)の声を聴いた』などと大層怪しげな言葉を吐き散らす。

 書物を照らす今にも消え落ちそうなランプの揺らぎが彼の心音(こころね)を投影していた。


 ギィ……。

 不意に窓を開ける疲れた音がヴァイロの耳と心を揺さぶる。冬の夜風が身に染みた。


「もぅ……()()一体何調べてんのさ?」


 騒ぎに起こされたリンネが目をこすり文句を告げる。「何を根詰(こんつ)めてるか知らないけど、少し夜風に当たりなよ」と気分の切替えを提案した。


 パラパラパラ……。

 風で資料(史実)のページが勝手に(めく)られる。慌てて止めようと書類に触れたヴァイロ、違和感に気づく。歴史の悪戯(導き)に触れた。


金色(こんじき)の長髪と黒スーツ姿のファウナ!?」

 ──馬鹿な? 在り得ん!


 散々ファウナに関わる書物や文献(ぶんけん)(あさ)りに漁ったヴァイロの人生。特にヴァイロに取って最早()()に等しきファウナの魔導書。


 緑色の髪に(そろ)いの(まなこ)──まさしく森を体現した女神像が至る所に描かれているのだ。丁度、今自分の隣に居るリンネの姿が近しい。


 金色(まばゆ)い女性が黒スーツに黒ネクタイでForteza(フォルテザ)を大いに荒らした記述をみつけ、赤い目を魚類の様に見張るヴァイロ困惑(こんわく)の色。

 まるで(かつ)てこのアドノス(旧シチリア)君臨(くんりん)したマフィアを連想させた。


「それになんだ? このファウナと争った蒼服のファウナと云うのは!?」


 ヴァイロ──疲労困憊(こんぱい)で夢か幻でも()せられてる気分に堕ちる。ファウナ同士が争ったと云う意味不明だが心(とら)えた内容。


 何れもヴァイロが知らぬファウナ神。魔導を極める為、これ迄散々調べ尽くした己が女神の物語、砕け落ちる音が聴こえた。


 ヴァイロは書面を総て読み辿(たど)った後、〆た名前に気がつく。


『―ᛈᚨᛚᛗᛖᚱᚨ ᚷᛁᛟ ᛊᚲᚨᛚᛖ―』

「──パルメラ……ジオ・スケイル」


 そうなのだ──。

 この文書、明らかに筆跡(ひっせき)がファウナ・デル・フォレスタの物ではなかった。『パルメラ・ジオ・スケイル』と云う人物が残した書面だと知れた。


「えっ? ファウナ様って二人居たの?」


 未だ寝惚(ねぼ)けた顔立ちで(つぶや)き続けるリンネ。当人は自分がヴァイロの良く知るファウナ神に似た容姿である事柄など全く以て意識してなどいない。


 なれどヴァイロにしてみれば、この少女は、やはり自身に取って奇跡と歴史の()()永久不変(えいきゅうふへん)に回す存在に思えてならなかった。


「わっわっ? な、何すんだよぉヴァイ!」


 ヴァイロ──意識と声だけ知りゆく(うつ)ろな女神より、()ける(からだ)を持ち上げ(いだ)く。

 自分の知る森の女神に祝福と感謝を贈りたい気分に心(たかぶ)る。


 顔を真っ赤に染め、驚きと胸に抱かれたひと時にリンネ嬉しさが(にじ)んだ。


「んっ?」


 先程眺めた奇跡の切欠(スイッチ)を与えた書面──さらによく見返すと裏面にこんな言葉が記されていた。魔導の為、勉学に(はげ)むヴァイロでさえ辛うじて読めるか怪しい文章。


『للي بيؤمنوا بالإلهة السوداء، احذروا متلمسوش 'إنزو'』(黒い女神を肯定する者に告げる。’Enzo’に触れてはならぬ)


 あからさまに英文でも旧イタリア語でもないと(さと)れた。()き乱されるヴァイロの心中。魔導書にて普段読み慣れたルーン文字辺りより難解(なんかい)に思えた。


 ──Enzo(エンツォ)? イタリア付近で聞く男性の名前だが……。


 Enzo(エンツォ)に込めた意味。直接的な分は取れないヴァイロ。然し『黒い女神』は恐らくレヴァーラ・ガン・イルッゾに違いない。


『レヴァーラ・ガン・イルッゾを追い求める者へ。Enzo(エンツォ)に触れる(おろ)かを禁ずる』


 根拠(こんきょ)はないが、そんな様子を読み取れたヴァイロ。兎に角(とにかく)断片だんぺんだけ追えた気分に胸撫で下ろしリンネの緑髪を優しく()でた。

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