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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
34/127

第30話 這いずり逝く灰宴ーᚠᛖᚨᛋᛏ ᛟᚠ ᛏᚺᛖ ᚨᛒᛃᛋᛋー

 暗黒神ヴァイロ──。

 その倹約(けんやく)ぶりすら薄黒いヴァイロの隠れ社(ツリーハウス)


 シアン・ノイン・ロッソが告げた戦之女神(エディウス)との多大なる戦力差について『アテなら在る、(フォルデノ)王国の貴族だ』一声だけシアンに言い残した。


 逆に言い変えればアテはそれより(アテ)なき()()()

 同棲(どうせい)に甘んじるリンネの(ふところ)(まさぐ)らねばならぬほど困窮(こんきゅう)の極みなのだ。


 (もっと)もヴァイロ・カノン・アルベェリアが真実の魔導を下せば1000の雑兵(僧兵)如き瞬時で灰燼(かいじん)()する。


 なれどそんな独り(無双)を世間に見せつけようものなら、本物の暗黒神に魂を売り(さば)く羽目に(おちい)るのだ。


 競技(スポーツ)でも例え戦争であろうと、拮抗(きっこう)を望むのが人類の本質(サガ)と云うもの。チートの活躍を手離しで喜ぶのは安っぽい小説の世界軸だけなのだ。


 だから戦争を()()()()()力は必須、戦之女神(エディウス神)との1対1(タイマン)であれば、どれだけ気が楽だったものか。


 ヴァイロ・カノン・アルベェリアは昨晩、(とが)った石ころと、ミリアから愛の羽交(はが)い締めを甘んじて受けた。


 そんな自らの罪を(ばっ)した傷()えぬまま、青臭い一番弟子アギドを連れ、出立(しゅったつ)した。


 未だ負傷中のアギドを連れて行くつもりはなかった。部外者(元・余所者)シアンだけに言伝ことづてしてる処を偶然聴かれた次第。


『そうやってアンタはいつも何から何まで自分独りで背負おうとするッ!』


 弟子に胸倉(むなぐら)(つか)まれ止むなく同行をヴァイロの方から依頼した()


 生活圏が実質一部屋しかないツリーハウスで『偶々(たまたま)聞き及んだ』とは何とも奇妙な話の流れ。

 

 ヴァイロとアギド──。

 暗黒神の双頭(そうとう)二人が『重力解放(ヴァレディステラ)』の術式で地球の鎖枷(引力)から逃れ、暗雲()れ込めた空へ逃ぐる様に飛ぶ。


 ガシィッ!


「──ヴァイ、随分下手糞(へたくそ)()()だ。シアンでなく俺だけを連れ出す口実作り、実に小賢(こざか)しい」


「……」


 師の心を(えぐ)る言葉を吐くアギド。

 何しろシアンとアギド──二人以外の留守を狙った判りやすい(演技)

 16歳の少年が気づいているのだ。百戦錬磨(ひゃくせんれんま)なシアン的も苦笑混じる筒抜(つつぬ)けであろう。


 二人の未来を(あざけ)る様な空の下、弟子アギドに背後から肩に(あざ)が残る程の力で(つか)まれた師ヴァイロ。

 何事も語らず暗雲と近しい堕落(だらく)した目を空へ手向(たむ)ける。


多方(おおかた)リンネ辺りに聞かれたら、ぶっ飛ばされる様な(たくら)みなんだろ?」


 腹立たしいさこの上ないアギドの()烈。蒼い目を吊り上げ師の背中を(にら)む。


 シアンと自身の影ノヴァンに留守を任せた上での(やま)しさ(のぞ)くヴァイロの言い逃れ。


 アギド少年は決して思い上がりで跳ねっ返る様な愚者(ぐしゃ)ではない。

 頭のキレ具合はシアンに及ばぬ己の力量を自ずと熟知(じゅくち)していた。


 これからかなり偏屈(へんくつ)な貴族との交渉に(おもぬ)くヴァイロの心境はこうだ。

 

『シアンでなく、此奴(アギド)なら連れ出しても邪魔にはならない。独りで向かって()められる訳にはゆかない』


 ヴァイロ──黙して心で()()。──お前にも(じき)に判るさ。


 今にも(豪雨)振り出しそうな空の下、目的地らしき貴族の館が目に映える。小さな池の真ん中に建つ、まるで城の(ほり)を匂わす。


 ──なっ!? 人じゃない気配が強過ぎる!


 アギドの類稀(たぐい)なる魔法探知が、館に渦巻く吐き気をもよおす気配を(とら)えた。

 彼の眼鏡には自らが付与(ふよ)した魔力を染み込ませてある。着実な何かを感じ空飛ぶアギドの軌道が揺らいだ。


 建物の外、白髪の大層草臥(くたび)れた感じの男がヴァイロへ手招(てまね)きしているのが見て取れた。その者は直ぐにただの人間だと知れた。

 ヴァイロ、迷わずその者の前に降り立つ。妖しい気分感じながらアギドも続いた。


「初めまして、カノンのヴァイロ・カノン・アルベェリアです。此方は()の一番弟子アギド」


 ヴァイロ、先程迄の暗い顔を打ち消し友好を示す握手の手を伸ばす。

 アギド──ヴァイロの珍しき外面(そとづら)を見た思い。自らを『私』と呼称するのは(まれ)である。


「いえいえ……よくぞこんな()()態々(わざわざ)お越し下さいました。このバンデ、光栄の極みでございます」


 手袋を取ったヴァイロの手を握り、さも満足気な微笑を(たた)えた初老の男性バンデと名乗る。

 地元を自ら『辺境(へんきょう)』へ落とした。


 確かに館の裏手に見えるは、森の都ラファンへ至る裏山。

 この場所とてフォルデノ王国の管轄下(かんかつか)なのは間違いない。要は国境(くにざかい)と云った所。


 ──あの山を(いく)つか越えれば戦之女神(エディウス神)が支配下に置いたディオルか。


 アギドの背中を嫌でも抜ける戦慄(せんりつ)、だが今は目の前の現実に集中だと決め込む。


「どうぞ御二人共中へ……」


 当主バンデ自ら、皺枯れた(しわがれた)声で屋敷への案内を始める。


 迷わず続く師匠ヴァイロの背後から暗い影色が(にじ)むのをアギドは感じ取る。思わず足動かすのを躊躇(ためら)いかけた。


 屋敷へ足を踏み入れた途端(とたん)、アギドが戸惑(とまど)い感じた妖艶(ようえん)な調べが現実と化す。


 バンデの屋敷──。建物自体は至って普通の(たたず)まい。

 問題なのは使用人達だ。


 身体の大きなオークが荷物を運び、小さなゴブリンが廊下(ろうか)を真心込め(みが)いていた。

 馬小屋に思えた場所に()んでいたのは馬と人の半妖(はんよう)──ケンタウロスか。


「うわっ!?」


 不意にアギドの周囲を玩具でもみつけた感じで矮小(わいしょう)過ぎる妖精が蝶の様に舞い踊り(あざけ)る。然も彼等彼女達が口から漏らす言葉が粗方(あらかた)理解出来るのだ。


 アギド少年──気の滅入(めい)る思い抱えた。

 何しろつい数日前、Forteza(フォルテザ)市が放つ異界の空気へ迷い込んだばかりだ。


 次は反転の再来──人間と同然の生活を営む亜人族(デミヒューマン)の群れが成す迷宮(LABYRINTH)に迷い込んだ。


 なれど何よりも()むべき者。

 そんな驚異が群れ成す最中を(おだ)やかな笑顔を浮かべ(日常と受け入れ)先導出来る()()()()()バンデの存在。


 さらにその背後を悠々(ゆうゆう)歩む師匠ヴァイロだ。

 まるでバンデが暗黒神の使用人が如き絵面、闇の神を迎え称える絶望の祝宴(カーニバル)


 ふとアギドがシアンの嫌悪(けんお)(あふ)れた顔を思い浮かべた。

 恐らくヴァイロの行先を聞き及んだシアンも、百鬼夜行(ひゃっきやこう)彷彿(ほうふつ)させる場所の面妖(めんよう)さを見知っていたに違いないと思い知る。


 アギド少年──。

 最早、何も信じられぬ気分に魂が(よど)み沈んだ。 

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