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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
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第29話 紫闇が保つ争いの天秤(ᛒᚨᛚᚨᚾᚲᛖ)

 ヴァイロ陣営護りの要石(かなめいし)──。

 ミリア・アルベェリアが()()果たした明くる朝から、時間を巻き戻し舞台も変える。


 森の都ラファンの首都──ディオルに仮籍を置いた若過ぎる白銀の女神(エディウス)とその周囲の話だ。

 黒い双刀(そうとう)がトレードマークである白側の修道騎士レイシャ・グエディエルが、呼び出しを喰らい蛮勇(ばんゆう)の剣は(なり)を潜めた。

 

 戦之女神(エディウス)がディオルに於ける仮宿(かりやど)として接収(せっしゅう)した町長の家。

 肩を落としたレイシャの背中はまるで法の守護者から、(いわ)れのない注意を受ける困り顔な咎人(とがびと)の様子に似ていた。


 敵の間者(スパイ)──シアン一行をみつけながら、誰も呼ばずに手柄(てがら)を独り占めしようとした状況報告を()いられていた。


 レイシャ的にも反省している。

 納得ゆかないのはただひとつだけ──。


 自分より実力の低いただ実直だけが取り柄の総長。彼の引率が大層気に入らないのだ。無理矢理首根っこを(つか)まれた猫を彷彿(ほうふつ)させた。


「こ、この(たび)はレイシャが(まこと)に勝手な真似(まね)を致しまして……」


「も、申し訳ございません……」


 総長は『頭が高い』とばかりにレイシャの頭を、もっと下げろと強引に押さえ込む。


 レイシャ──。

 女性の頭とは心()()()者だけに赦される云わば()()。『なんでこんな奴に……』云われようのなき腹立たしさ、反吐(へど)が出そうだ。


「フフッ……まあ良かろう。レイシャが完全に遅れを取ったと云う訳でもあるまい? それに此方の戦力を奴等めに見せつけたと云う意味では、むしろアリと言えなくもない」


 元々ディオルの(おさ)が座っていた独り掛けのソファ。可愛い女神には、ちと有り余る椅子(いす)から(とどろ)神々(こうごう)しい戦之女神(エディウス神)の冷笑。


「え、エディウス様っ!」


 暴風雨が降り止んだ後の空が如く晴れ渡るレイシャの顔。女神の薄ら笑いがむしろ救済(きゅうさい)に思えた瞬間。


「今頃連中さぞかし(あわ)を喰ってることだろうよ──だが黒い刃の正体を知られてしまったのは痛かったなフフッ……」


「──ッ!」


 愛する女神より一回持ち上げられて(フォローされて)からの駄目(だめ)出し。

 大いに沈むレイシャ、(ひたい)に影落ちる。


 されどエディウス実の処口角を上げ、()()一喜一憂(いっきいちゆう)ぶりを親しみ(たし)む気分の少女が面持(おもも)ちなのだ。


 白銀の少女(エディウス)と白い鎧を着る黒い双(レイシャ)刀の騎士(・グエディエル)は、役職を超えた場所に友情を置いた間柄(あいだがら)


 なれど今は理不尽な地位だけが許容される面前(めんぜん)──。

 頭を下げるしかないレイシャを見て、少し意地(いじ)悪く(せっ)するのも一興(いっきょう)嗤う(わらう)のだ。


「それにしてもあの傭兵シアンが()に付いたか(を揺らすか)


 此処で戦之女神(エディウス神)の冷笑が初めて消えた。シアン・ノイン・ロッソと彼女に付き(したが)子供達(エルフ)の存在。

 ()()()()()()()()()()()()を押し付けられた様な渋い顔に沈む女神。


「──ッ……」


 こればかりは苦虫を(つぶ)した顔のレイシャへ同情せずに要られぬエディウス。『仕方ない』と肩を叩いた処で相手の悔しさをより焙煎(滲ます)だけ。


 剣を取り己が独りの力を信じ孤独(こどく)な戦いを(いど)むとはそうした覚悟。剣を交える者達に真実の友人など身内にも在り得ないのだ。


「──がっ、良くぞ(しの)いでくれたレイシャ。礼を言わせて貰おう。これで此方も心構えが出来る。これからも私の為に(はげ)んでくれ」


 (からだ)つきだけ小さな少女が発した最大限の気(づか)い。


 元・町長の椅子に沈みながら少々無理な体制で頬杖(ほおづえ)をつき、声に重きを置く。

 戦を(つかさど)女神(闘将)本領(ほんりょう)──戦場でなくとも戦士達の士気(しき)(たかぶ)らす心得(こころえ)


「ハッ! 勿体なき御言葉! このレイシャしかと受け留めました!」


 立膝(たてひざ)をつき恭順(きょうじゅん)の姿勢。大層良い声で己が女神に改めて誓いを立てた様相。


 然しレイシャ……裏腹(うらはら)な気分に揺らぐ、心だけでなく両肩さえも。

 ──か…可愛いっ──! 可愛過ぎて無理!


 黒くて深いソファの上、まるで(おぼ)れかけた子供を()じらせ、戦之女神(エディウス神)としての品格を必死にみせる笑いの(つぼ)にも映るのだ。


 神の裏側──ひたすら愛すべき少女の頑張りをみつけたレイシャ。心の中で笑いと脇腹(わきばら)がつるのを必死に(こら)え、その場を後に退室した。


 ◇◇


 白い流星の様に初冬の夜空へ飛び出したミリア。

 恋敵(ライバル)リンネが『追い掛けろ』と咆哮(ほうこう)した後──夜の神(ヴァイロ)不在で半ば()()の立場をなし(くず)し的に背負うリンネが残された暗黒神(ヴァイロ)質素(しっそ)()殿()


 ミリアの危うい行動は皆の心が揺れ動く処。

 然しそれでもシアンの話を……戦争の話を冷たくも続けなければならぬ現実。


 傷だらけ、()()の弟子アギドが師の代わりに口を開いた。先程シアン達から受けた報告の中、気になる(つわもの)の話を聴くべく。敗北が許されないのは皆一緒だ。


「──シアン程の手練(てだ)れが苦戦を()いられたレイシャと云う女騎士、実に危険だ。影で間合いが伸びる? 正直要領(ようりょう)を得ないが……」


 眉間(みけん)を押さえ、影を扱う剣術や魔導の(たぐい)に頭を(めぐ)らすアギドの考察。

 彼は己が神ヴァイロがミリアを連れ帰る様を直向(ひたむ)きに信じる──否、信じ抜く意外に道が見当たらないのだ。


「残念ですが僕が保証致します。民家の上から俯瞰(ふかん)の位置でこの目に焼き付けました。陽が暮れるにつれレイシャはその場を動かず、シアン様ばかり押され続けたのです」


 耳が(とが)っている以外、幼子(おさなご)にしか見えぬハイエルフのレイチから解説が告げられた。


 このレイチの説得力といい、ニイナの躰つき(ナイスバディ)もだがハイエルフの150歳──やはり人間の物差しで測れない物の怪(もののけ)じみた不可解を呼ぶ。


『どうせ何かのトリックじゃねぇの?』


 適当な発言で断ち切ろうとしたアズール、発言前に()()()()()()から口を(ふさ)がれた形。(ふくれ)れっ面で床に(からだ)を投げ出した。


「その……良く判らないんだけどさ。影で剣が伸びるんなら、いっそ影の中に逃げたらどうなるの?」


 食後のハーブティーを皆に振舞い、素朴(そぼく)な疑問を投げるリンネの不思議顔。「ありがとう」丁寧(ていねい)な礼を同性(女性)のシアンから返され再び胸が跳ねる想い。


 凡庸(ぼんよう)な疑問──されど重要視すべき事柄。

 シアンがハーブティーに紫色の唇(大人のルージュ)を口づけ、一息ついてからまた両手を組み(あご)を載せた。


「済まない、それについて私は正答を知らない。ただレイシャが『この黒い刃がただ暗がりを活かす為の剣だと思うならお前の底が知れる』と確かに云った」


 シアンの冷静な()()()()()──。

 だからこそアギドとリンネへ緊迫(きんぱく)した冷気の様な空気が流れたのを肌で触れた。

 修道騎士レイシャ・グエディエルが未だ底を見せてないと(おの)ずと知れたのだ。


 アズールは独り寝転んだまま身体毎、シアンの視線から逃れている。悩んでも理解出来ぬのなら寝て休息を取るべき──そんな気分を態度で示す。


「嗚呼……何も君等を(おど)すつもりで今夜来た訳じゃないんだ」

 

 ふっ……。

 まるでシアンの前に揺らぐ蝋燭(ろうそく)灯火(ともしび)が幻、それを甘い吐息で吹き消したかの如き穏やかな笑みを子供達に振舞う。


「確かに戦之女神(エディウス神)に関わる状況は深刻だ。先ずはそれを頭に入れて欲しかった。然し君達の目的はあくまでこのカノンを護る事。ディオルに討って出ろと云ってる訳じゃないんだ」


 別人の様に女性シアン(『喫茶ノイン』)の柔らかさを前面に押し出す笑顔。

 思春期只中(ただなか)、大人の言葉を理解出来るヴァイロの弟子達。一瞬に肩の緊張が(ほぐ)れる。


「我々カノン側の戦力増強は確かに急務。だが戦の優越(ゆうえつ)とは、それだけで決まるものではない。負けない御膳立(おぜんだ)てを整えるのがシアン・ノイン・ロッソの仕事だ」


 戦争の話を魔法(マジック)の様にすり替え、安堵(あんど)を与えたシアンの微笑み。争いの天秤(てんびん)(かたむ)ける女の面影(真実)(にじ)()けた。

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