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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
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第28話 ミリア・アルベェリアの覚悟ーNight & Knightー(ᛗᛁᚱᛁᚨ・ᚨᛚᛒᛖᚱᛖᛚᛁᚨ)

 傭兵シアン・ノイン・ロッソにヴァイロ達、カノン軍の指揮を依頼すると決めたヴァイロ。

 ヴァイロの弟子達に取って云わば()()()に大役を任せるのだ。

 子供達の胸中や如何に──?


 然しヴァイロは自分達の神様、神の決定に逆らう気は毛頭(もうとう)ないのだ。


 但し──()()()()()となれば別の話。

 ヴァイロ・カノン・アルベェリアは26歳の男性。

 シアン・ノイン・ロッソもほぼ同い年の女性だ。


 殊更(ことさら)、美男美女を描いた様な二人が同じ立場に並べば心穏やかでない少女達が居る。


 ただリンネは()()でなく()()を以てヴァイと呼べる同棲者(心の連れ)。ヴァイロが男女の()()()()()にしない限り、落ち着いていられるのだ。


 問題はリンネに負けないほどヴァイロを愛している灰色(中途)のミリアだ。

 彼女だけは女性としてシアンに敵うものが何もない自分に酷く落胆(らくたん)した。


 真夜中──。

 然も初冬にヴァイロのツリーハウスから身投げした格好のミリア。


 だが前後不覚な自殺ではなかった。白い月の守り手(フェルメザ)を地上へ落下する手足に集中。

 固い岩盤に叩きつけ跳ねる感じで難を逃れた。 


 体勢を整え脱兎(だっと)の様に駆け出すミリア。

 ヴァイロや仲間達との愛情(あふ)れたツリーハウスから居場所を喪失(そうしつ)した気分を乙女の白い脚に全速力で乗せた。駆け足が起こす風に、涙を載せ背後に飛ばし散らせた。


「ヴァイッ! 御願いだからミリアを追ってぇッ!」


 普段(ほが)らかなリンネが(すさ)まじい形相(ぎょうそう)()へ激情を絶叫に変え(ほとばし)る。


 皆に平等で()()神愛(しんあい)を届ける。これを信条にしていた心穏やか過ぎる暗黒神(ヴァイロ)は、リンネの態度が正直()せない。


「良いから行って御願いィィッ!」


 さらなるリンネの絶叫、空気が震え寝ていた鳥達が、一斉に目覚め翼を羽ばたかせた。


 兎も角(ともかく)戸惑(とまど)うヴァイロ、これは誰かに(すが)りたい思いの表れか?

 シアンの方へ赤い目線を(まゆ)寄せた顔で向けてみた。

 シアンは無言、ただ首をミリアが飛んだ方へクイッと曲げる。緑の瞳が月に照らされ氷の蒼に見えた。


「グラビィディア・カテナレルータ、暗黒神(ヴァイロ)の名に於いて命ず。解放せよッ、我等を縛る星の(くさり)よッ! ──『重力解放(ヴァレディステラ)』!」


 ヴァイロは重力の(かせ)を外すと窓枠を渾身(こんしん)の力で蹴り、夜空を駆けた。


 満月に限りなく近い月齢(げつれい)の灯りが照らすとはいえ、ミリアの駆ける足元は難攻不落(なんこうふらく)石垣(いしがき)が如く彼女の行く手を(はば)む。

 

 対して夜空を飛んでミリアの慟哭(どうこく)に追い(すが)るヴァイロは速い。直ぐにミリアの背中をみつけた。

 されど何と声を掛ければ良いのか判らぬ朴念()の心は移ろう。

 

 ──ええぃ! 兎に角(とにかく)あの手を握り、止めりゃいいんだろッ!


 迷いを振り切るべく銀髪を強く振り遂にミリアの後ろ腕を強く(つか)んだ。


 だが(ロク)な考えなしに握ったのが最低。

 ミリアは足がもつれ転びそうになる。足元には岩盤(がんばん)(くだ)けて出来た鋭い石が(きば)()く。


 ミリア自身が白い月の守り手(フェルメザ)を巧く使えば難は逃れよう。

 なれどそれは魔法に対する集中力がなければ望みが薄いと思えたヴァイロ。

 自分自身を地面へ叩き付ける様に不時着、ミリアの腕は繋いだまま、自分を(じく)に彼女を宙で回した。


 グシャァァッ!


 背中から固い石が多く転がる地面の上に倒れたヴァイロ。転んだミリアを全身で受け留めた。

 但し無我夢中(むがむちゅう)──受け身すら取れず鋭い大地の牙(石ころの山)噛まれた(突き刺された)


「ぐぅ! こ、これは我ながら頭の悪過ぎる落ち方だな」


 ヴァイロ、背中の痛みと自身の(おろ)かさに顔を(ゆが)める。されど狙わず(いろ)(にじ)ませる男の愚か(サガ)


「ヴァイィィィッ! な、なんで? どう……して?」

 

 敬愛(けいあい)する神を下敷きにする()()ミリアの号泣。容赦なく神の傍ら(加護)で泣きじゃくり、知らぬ間にヴァイロの背中(泣き所)を地面へ押し付けるのだ。


「さあな──心配したと云えばそれでお前は満足なのか?」


 文字通り刺す痛みで頭が回らないのか、ヴァイロは安っぽい本音をミリアへ返す。

 ミリアの美しい顔が酷く(ゆが)み怒りと哀しみが入り混じる。感情を(そこ)ねた()()


「ヴァイロ・カノン・アルベェリアァッ! 貴方は何故そんな優しいぃッ! 何が()()()よぉッ! こんなの好きに為るって決まってる()()()()()ッ!!」


 泣きながらヴァイロの胸を叩くミリアの拳。

 苦痛よりミリアの激憤(げきふん)冷めやらぬ告白と、完璧に敬語を忘れた叫びにヴァイロの細い目が急激に開かれる。


「み、ミリア……お、お前」


 初めてミリアからの愛慕(あいぼ)を知ったヴァイロ。これまで家族同然の様に過ごした思い出が霧の様に浮かんでは消えるを繰り返す。痛みは麻痺(まひ)して完全に(いっ)した錯覚(さっかく)


「リンネを愛してるんでしょうぉッ! 抱いたんでしょうぉッ! あの時私がどれだけ(みじ)めだったか貴方に判りますかァッ!!」


 ──()()()()──

 

 剣?

 槍?

 それとも魔法?

 全てが生(やさ)しい虚偽(きょぎ)だとヴァイロは思えた──


 それから(しばら)くの間、ミリアはヴァイロの胸内でひたすら泣き続けた。

 そんなミリアに何も与えられないヴァイロに去来(きょらい)する(むな)しさ。きっとミリアは例え(なぐさ)みだと知りつつも、自分がこの腕で抱いてやれば少しは気が晴れるのだ。


 けれど愚直(ぐちょく)なこの男にそれは決して出来ない。リンネの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 彼氏と云うよりまるで自分は子供(ガキ)だと思った。


 初めて出逢った頃のリンネを娘だと思う気持ちは何処かへ飛んだ。むしろ自分がリンネを子供の様に、真っ直ぐ無邪気に愛している必然に気づかされたのだ。


 だからただミリアの涙を馬鹿みたいに受ける皿に成る道をヴァイロは選ぶ。ミリアの涙()れ果てる迄、自分は黙って受け容れようと決めた。


 唯一の救い──。

 それは温もり。12月の深夜、ミリアの下敷きと化したヴァイロは奇妙な温かさに(ひた)る。

 背中から(にじ)み出る血液(自身)暖炉(だんろ)ではない(ヒト)温もり(有難さ)


 俺達の大好きなミリアと云う名の女の子は、此処で生きているのだ。

 

 生きている実感──。

 当たり前過ぎて、けれど決して忘れてはいけない生命の歯車が噛み合うのをヴァイロは感じ取れた。


「ヴァイ……私が必ず貴方を護り抜く。だからリンネは戦場に出して欲しくない」


 あれから何時間経っただろう。ヴァイロの胸元で未だ半泣きのミリアが訴える身勝手。


「済まん、それは出来ない相談だ。俺は皆を自分の目が届く場所で護りたい」


 自分の涙でぐしゃぐしゃに成ったミリアの髪。

 ヴァイロの手が届く位置にあるのに(ようや)く気づく。親の気分で優しく撫でた。


「随分と傲慢(ごうまん)なんだ」


 未だ子供扱いされているのが男のごつい掌から伝わって来たミリア、猫の様に甘えた。


「そうかも知れん。だがノヴァンを成長させるには彼奴(リンネ)が一緒じゃなきゃ駄目なんだ」


 ビクッ。


 ミリアがヴァイロの意図に気づき肩を震わす。


「判るだろ? 黒い竜は生まれたて。母親と共に戦わないと強くなれないのさ」


 ミリアの頭を撫で続けながら、ヴァイロは思う。ノヴァンとは自分の()()

 リンネが居なくては何も出来ない自分と瓜二つな化物を造った己の愚直(ぐちょく)を。


 やがて地平線が白み始めた。新しい今日が間もなく始まる。

 此処で漸くミリアがヴァイロを解放し躰を起こした──かに思えた。


ンッ(──ッ?)


 ただ重ね合わせただけ、ミリアが暗黒神(ヴァイロ)の唇を奪った。ゆっくり身体を起こして自ら誓いを立てるのだ。


「私は必ず貴方を……皆を護り抜く(たて)に成ると誓いますわ。私の魂だけに(きざ)んだ名──『()()()()()()()()()()』として」


 ミリアは既に男に甘えたがりな乙女を卒業したのだ。たった一夜、共に明かせた幸せと唇に残した名前と共に。そして驚くヴァイロを自分の笑顔に満たし尽くした。

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