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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第1章 悪夢(ᚾᛁᚷᚺᛏᛗᚨᚱᛖ)
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第1話 漆黒の竜騎士(ᛞᚱᚨᚷᛟᚾ ᚲᚾᛁᚷᚺᛏ)

 翌朝──。

 朝と言ってもカノンの朝陽は他の地域と比べ異様に遅れる。切り立った(がけ)の中に住む事を()いられるこの地。


 住む場所を選べない連中はほぼ終日、陽の暖かみを感じられない者すらいる。


 それらに比べれば山岳の上を陣取れたヴァイロとリンネの住むツリーハウスは、幾分(いくぶん)(めぐ)まれた方だ。


「ヴァイーーッ!」

「良い加減起きて下さいませんか」


 木の根元から呼び掛けてくる少年と少女の声。ヴァイロの悪夢にも現れた二人だ。遠慮なく大声を張り上げてるのが、最年少12歳のアズール。


 この若さでヴァイロが授けた炎系魔法を(ほとん)ど操れる程の実力者。髪の毛も衣服も赤く、まさに紅の魔導士を地で往く姿だ。


 その(となり)(ひか)えめに声を掛けているのが13歳、琥珀色(こはくいろ)の瞳が(あざ)やかなミリア。


 彼女は魔法を(こころざ)した割、性格が(おだ)やかな為か、防御強化系の魔法ばかりを極めつつある。


 性格も目指す魔導もアズールと正反対で一見ウマが合わない様にみえるが、歳上というマウントを活かして、(たく)みに操るのだ。


 グレーの長い髪にやはり灰色の衣装(ワンピース)羽織(はお)っている。

 控えめな彼女の性格を物語る姿。

 だがそれらを差し引いても年齢に不釣り合いな美貌(びぼう)を既に持ち得ていた。


 そんな二人を少し離れた樹々の影から冷ややかに見ているのが15歳のアギドだ。彼は二人とだいぶ立ち位置が異なる。


 四角いレンズの眼鏡を掛けており、腰には二刀のエストック(細身の剣)を差していた。彼はヴァイロと同じ魔法剣士。


 無口で愛想(あいそ)が悪いのだが、三人の中で一番の実力者。

 青い髪の毛も彼の冷静(クール)な性格を体現していた。


 三人は今日も稽古(けいこ)をつけてくれる様、師匠ヴァイロの元を訪ねている次第。


「フワァ……ごめん、待ってぇ。今起こしてるとこだから」


 如何(いか)にも寝起きの顔を窓から出しながら、応対するリンネ。


 彼女はこの若過ぎる三人をまとめ上げると共に、大きな()()であるヴァイロの世話も一任していた。


「ほおらっ! (いく)ら昨晩良く眠れなかったとはいえ、もう昼時が近いよ。布団も干したいからいい加減起きなさいっ!」


 リンネが容赦(ようしゃ)なくヴァイロの布団を引っぺがす。


「あ……ひ、昼? 嗚呼、もうそんな時間か」


 眠い目を(こす)り、寝癖の頭を()きながら立ち上がろうとするヴァイロ。同居人はお湯にひたしたタオルを渡す。


 嫁より気が()く女なのだが、未だ()()()の域を出ない。


 一線を超えられないのは、互いにその気がないのか。(ある)いはリンネが若過ぎる故か。


「またやってるな、魔法の技は尊敬してるが彼奴はリンネに頼り過ぎだ。()()処か生活費まで切り盛りさせて……大人の男で測ればあれは底辺だ」


「──っ」


 表まで木霊(こだま)するリンネの大声。

 聞き及んだアギドが呆れ顔で肩を(すく)めぼやく。尊敬と失望が入り混じっていた。神殿(住居)のみ()()()恩恵(おんけい)──それ以外は信者(リンネ)からの貢ぎ(かせぎ)なのだ。

 アギドのぼやきが耳に届いたミリアが、あからさまに嫌気さした顔色で(うつむ)いた。


 アギドの云うことは(おおむ)ね正しい。


 リンネは、昨夜の耳掻きに近しい不思議な力を応用し精神的に病んでいる者に(いや)し──例えば穏やかなる波の音や小鳥の囀り(さえずり)を施し、賃金を稼いでいるのだ。


 まだある──。

 彼女はハープを(かな)でて歌を(つむ)ぐ。

 これが我流(がりゅう)とは思えぬ程の(あで)やかぶり、聴く者の心を鷲掴(わしづか)みにするのだ。


 娯楽(ごらく)が少ないカノンだからこそ、リンネの存在は世間に知れ渡り、隣国フォルデノ王国の貴族ですら舞踏会に引っ張り出す。プロの仕事と熟知されていた。


 ヴァイロ的には、どんな音色(ねいろ)でも楽器無しに表現出来るのにも関わらず、態々(わざわざ)ハープを携行するリンネに疑問を抱く。効率だけで芸術に疎い人間の典型なのだ。


 そんなリンネをミリアは心底羨む。

 思わず自身を眺め、窓から覗くリンネと比べた。2歳半ほど年下だが女性の色香──男性が求めるもの全て自分が勝ると心根で舌打ちするのだ。


 一方、ヴァイロは弟子こそ取るが金銭は取らない。依って住居を提供しているものの、完全にリンネの稼ぎ頼みな所謂(いわゆる)()()状態。自由自適な暮らしを妻の様な同居人の御陰で謳歌している。


 ただこのヴァイロという男。森の女神『ファウナ』の魔導書を基礎理論(ベース)に自ら考案した魔法の能力には定評がある。


 暗闇だらけのカノンに住まうが故、()()()など世間から呼ばれているのは流石に羞恥(しゅうち)なのだが、自らの名を冠した魔法を若人達が、次々と継いでくれる事は素直に嬉しい。


 今日もこうして弟子達が教えを()いにやって来る。ただアズール、ミリア、アギドの三人は、もう充分過ぎる程の実力を兼ね備えてると彼は認識している。


 教える事はもう何もない──というのは言い過ぎ。まだ見せてすらいない上級魔法は確かに存在する。


 なれどそれらを教えても、この平和な島では使い道がない。


 結果、教える魔法は何もないに終着する。此処へ来てくれても、出来る事はレクリエーション位なものだ。


 ツリーハウスの中から聞こえる男女のやり取りに、ミリアだけが未だ複雑な表情で見上げている。


 リンネが未だに同居人の一線を超えないのであれば、自分にもまだ()はあると、年齢差を飛び越えた密かな想い(ライバル心)を抱いてるのだ。


 やがて身支度を適当に済ませた寝癖頭のヴァイロが、ツリーハウスから降りて来る。(かたわ)らには、リンネが当然の権利とばかりに彼の腕を(つか)み膨らみへ寄せていた。


 毎日の出来事(やり取り)なのだが、それを見たミリアが普段通りに顔を(そむ)けた。


 ──いつか自分があの場所(傍ら)に……大体あんなガサツなの、何処が良いのかしら?


 ──御覧なさい……ほらっ、()()私のだから。


 うら若き少女達の争い、渦中である自分を鈍い(にぶい)ヴァイロは、全く以って認知出来ない。

 そんな平和ボケしているやり取りを、アギドは呆れた青目で一瞥(いちべつ)するのだ。


 何も知らないアズールが背中に何かを隠しながら師の元へ無邪気に駆け寄る。


「処でさ、見ろよコレっ!」


 自分が描いたのであろう絵を自慢気に見せびらかす。真っ黒に塗り(つぶ)されたナニカ。


「と、トカゲですか?」

「ふっざけんなッ!」


 怒るアズール、ミリアは一匙とて巫山戯てなどいない。


「ええ……とぉ、未確認生命体?」

「う、宇宙人じゃねえよッ!」


 ミリアとリンネに判って貰えず、(ほお)を膨らますアズール。本当に少年らしい態度は愛らしく、誰にも心底嫌われる事がない。


「これは黒いっ、ド・ラ・ゴ・ンッ! 竜ッ! このカノンに居たら格好良いと思わねえか?」


 アズールが自分の描いた絵を幾度(いくど)も叩きながら、ムキになってアピールする。


「あ、嗚呼……」

「そ……そうですわね」

「フゥ……下らんっ」


 ミリアとリンネはそっぽを向き、取り合えずな相槌(あいづち)

 アギドは気分を直球(ストレート)台詞(せりふ)へ乗せた。


 そんな中、ヴァイロだけが眠気まなこの赤目を広げた。独り信じ難き物を見つけた気分に心がのたうつ。──がっ、誰も気づかない。


 何故なら面白味(あふ)れた顔でアズールの絵を(うば)うと、梯子(はしご)を登って家の屋根の上にまで登り詰めたからだ。


 そして絵の中の黒い竜を至る景色に当てはめ、独り何やらブツブツ語る。


「──陽の当らないカノンを守護する黒い竜。それに(またが)るは暗黒神ヴァイロッ! つまりこの俺様ッ! 漆黒(しっこく)の竜騎士ッ!」


「ヴァイィィッ! 一体どうしたってんだよ!?」

「アズ、この絵貰うぞっ!」


 先程迄の寝坊助(ねぼすけ)は何処へやら。

 圧倒的最年長である筈の男が、最年少のアズールより目を少年の様に輝かせ、何処までも黒い大地に想いを()せた。

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