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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
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第24話 影の片鱗と鮮やかな怪盗一味(ᛈᚺᚨᚾᛏᛟᛗ ᚦᛁᛖᚠ)

 理不尽なる白亜(はくあ)虚無(きょむ)──。


 ただ戦と力を渇望(かつぼう)するだけに存在する戦之女神(エディウス神)とその御使い達が白き神の竜(シグノ)の群衆を見せつけられ敗北を演じた街ディオル。


 その片隅(かたすみ)では当人が否定するも、戦の天秤(てんびん)(かたむ)ける実力者。

 紫色の傭兵シアン・ノイン・ロッソVs白亜の女神(エディウス)(した)う守護者レイシャ・グエディエルとの激烈(げきれつ)(つば)迫り合いが人の目がつかぬ街の片隅(かたすみ)で繰り広げられていた。


 手槍に(つば)を仕込んだ少し風変りな得物(武器)を羽織ったマントの内側から敵に気取(けど)られ様、突きを見舞うシアンの華麗(かれい)なる一閃(いっせん)


 これを受けるレイシャの黒い二刀。未だ20歳に満たない、()()なる剣で、文字通り火花を散らす。

 不敵(ふてき)な笑みがまるで敬愛(けいあい)する白き女神エディウスが憑依(ひょうい)した印象。


 ──嫌な(わら)いだ、正直虫が好かん。


 相まみえるシアンの気分。ヴァイの奴はこんないけ好かぬ(やから)()相手に魔剣を交えたのか、シアンが少し(うつ)に気分に魂を湿(しめ)らせた。


「レイシャ殿()、御味方をこのまま呼ばないつもりか?」


 シアン、剣で語りながら声の牽制(けんせい)も同時に(こな)す。あくまで己が上位()である意志を(さら)け出す。


「フフッ、戦場を独りで決める()()()()との一騎討(いっきう)ちなんだよ。こんな楽しみ、誰にも分けるものか」


 その手には乗らない──。

 足を引っ張るだけの味方なぞかえって邪魔なだけ。全身を横に(ひね)りシアンに背を見せながらの剣闘(けんとう)を大いに楽しむ。


 白い鎧の腰下から(のぞ)くスカートを散らしたレイシャの余力。

 この実力者(シアン)()()()に自分が送ればさぞや嘲笑(ちょうしょう)する白銀の女神(エディウス)を引き出せるに違いない。


 ──然し(みょう)だ。


 シアンが剣を交える度、レイシャからの剣圧が着実に重みを増していた。シアンは立ち合いに於ける基本、間合いの重要度を理解し尽くしている。


 此方の手槍が間合い(リーチ)は上。然も槍故、自ずと矛先(ほこさき)へ重心と攻勢の圧が掛か

る。自身の攻撃のみそういった当り具合に調整しているのだ。


 柄下以外握れぬ両刀剣には出来ない芸当、手槍なら柄だけでなく矛先迄の途中を握り微調整が可能だからシアンはこれを選んだ。


 されどレイシャの黒い二刀とぶつけた際、手に掛かる圧力が増しているのだ。まるで伸びる剣を相手取る気色の悪さ。気が付けば建物の影下から陽の光に(さら)される場所まで押されていた。


「そらそらぁっ! シアン・ノイン・ロッソ(血の赤)ってのはこの程度なのかい! とんだ見込み違いだねぇ! 名前の通り()を見せておくれよ!」


 またしても全身を回転させ、シアン側から見えぬ()()()を伸ばし切るレイシャの()()

 一見派手だがこれは自身の背中で太刀筋を消し、なおかつ最長のリーチを活かし切る高等技術だ。但し余程の力量差が必須なのだ。


 ──ムッ!?


 建物の影から止む無く飛び出した後も続いた立ち合いでさらなる違和感に気づいたシアン。相手に気取(けど)られぬ様、合図を送る。


 キャシャーンッ!


「おっと、危ない危ない。()()()餓鬼(ガキ)共からの仕掛け。本当に()らしいことをする」


 上空から陽の光を跳ね返しレイシャを襲うナイフの一斉掃射。(いっせいそうしゃ)後方に飛んで逃れるレイシャの顔から冷笑が消せぬ。シアンの連れはエルフだと知られていた。


 なお最初から決めてた合図を密かに送ったシアンはその場を微動(びどう)だにせず足元を確認した。


 ──やはり私は影を出てから一歩も()()()()()()


 同時に自身の影が伸びていることに(ようや)く気づいた。レイシャの()も伸びている必然。


 ダンッ!

 ダダンッ!


 自分の間合いから外れてしまったシアンを追うべく石畳(いしだたみ)の地面を蹴り、黒い剣を()げシアンに飛び掛かろうと迫るレイシャ。


 だが此処でシアンの電光石火(でんこうせっか)

 手槍の間合いを敢えて()()()()此方から敵レイシャに飛び込む突貫(とっかん)

 遂にレイシャの顔から(余裕)の微笑みが──消えた。 


 レイシャの足元──相手より低い位置から迫るシアンの槍が鎧に守られていない(もも)へ矛先を最短で届けた。


「ぐぅ!?」


 シアンに刺されたが傷は浅いレイシャ。

 全身鎧でありながら、頭と(わず)かに(もも)(のぞ)かせたのは彼女の自信(怠慢)

 若い女性の色気を例え戦場で見せ付けようとも勝ちは揺るがぬと決めつけていた自分に対する怒りで顔を(ゆが)めた。


 同じ女の弱味を瞬時に見抜いたシアンが揺らいだレイシャに対する足払いを繰り出す。レイシャの視界が回り砕けた。


「ぐっ!」


 例え倒されようとも地面を全力で叩き躰を起こそうと躍起(やっき)になるレイシャであったが、眉間(みけん)に冷たいものがあてがわれ咄嗟(とっさ)に動きを止めた。


「恐ろしいなレイシャ・グエディエルの黒い刃。本当に()()()()()。刃でなく影を伸ばし相手を斬る」


 槍の矛先を眉間(みけん)に突き付けたシアン。黒い刃の種を粗方(あらかた)明かした。およそ午後5時頃、沈みかけた陽の光を背に受けた傭兵が背中に差す()()


「陽が落ちれば伸びる刃とは恐れ入る。ならば()()に落ちれば一体どうなるのやら?」


 いつでも殺れる位置で黒い刃の真実を問うシアンの役者ぶり。今日はあくまで偵察(ていさつ)任務。依頼以上の仕事は決してしないシアンの哲学。


「こ、殺さず聞き出すとは何と不埒(ふらち)な女だ!」


 応答の代わりに文句を吐き捨てたレイシャはやはり未だ若いと言えた。黒い双刀にはまだ続きがある。答えたのとほぼ同義であるのを知らなかった。


「ふふっ……悪いが今日はディオルの偵察が任務だ」


 今日は偵察──。

 目的を敢えて(さら)したシアン、勝者の微笑みひとつ浮かべぬ冷たい声音。


「こ、殺さねば『あのシアン・ノイン・ロッソが来た』と味方に言い降らしてやる!」


 わざと眉間(みけん)に在る矛先にあて血を(にじ)ますレイシャの怒髪天(どはつてん)。自らロッソ(敗北の血)を垂らす負けを認めた。


 本当はそんな汚名を自分で着る真似事などしたくないのだ。単なる繰り言(くりごと)に過ぎないのだが、実際尋問(じんもん)を受ける屈辱(くつじょく)の未来が見えた。


「云うがよかろう。シアン・ノイン・ロッソがカノン側──暗黒神ヴァイロに与したと精々大々的に頼む。──それに」


 戦争の天秤(傭兵シアン)()()に味方すると堂々宣言。傭兵シアン──ジャンヌが如き運命の輪(メビウス)から逃れられない己の運命(さだめ)を知り尽くしていた。


「──っ?」


「それに中々の好敵手(ライバル)をみつけた心地良い気分なのだ。()に期待するよレイシャ・グエディエル殿。その名を(きざ)ませて(いただ)く。──ニイナッ!」


 (ようや)く顔を(ほころ)ばせたシアン。年甲斐(としがい)もなく……そして捨て去るつもりであった戦場の緊張感に酔う自分を認めざるを得なかった。


 若き敵中に真剣勝負で首を獲りたい宿()()をみつけた自分の皮肉に笑うのだ。

 建物の屋根の上に身を隠すよう(あらかじ)め言い渡しておいたニイナを呼ぶ。 


「ほぃっ! 風の精霊達よ。我らに自由の翼を授けよ!」


 民家の屋根から気軽に飛び出してきたシアンに付き従うエルフの独り。ニイナが風の精霊に祈りを(ささ)げた。


 ダンッ!


 シアンとニイナ、二人揃って地面を蹴り空へ舞う。自由落下せずそのまま浮き、ディオルの街並みと呆気(あっけ)に取られたレイシャを置き去りに飛んだ。


「わ、私も決して忘れんッ! この屈辱、必ず倍にするッ! シアンッ! 次は首から下がなくなると思えぇッ!」


 完全にコケにされたと感じたレイシャが空を見上げ怒りを(あら)わに告げた。負けた事など既に何処吹く風の(ごと)し。


「ふふっ──ええっとレイ……シャ()? ()()()()と物忘れが酷いのですホッホッホッ」


 声音(意識)を中途でエトラ婆に変え、耳が遠い仕草を態々(わざわざ)示しながら老婆で嘲笑(あざわら)った。


 空に掛かった見えぬ道先でもう独りの相棒、レイチとも合流。実に鮮やかな()()()()()()()の手口であった。

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