第22話 冷徹な魔導士の冴え(ᛉᛖᚱᛟ ᛒᛟᚱᚾ ᚲᛚᚨᚱᛁᛏᛃ)
Forteza市を約150年もの間、護り続けたファウナを模した石像。
己が神様に縋る気分で見つめ続けたアギドを突如襲った理不尽。
16に成ったばかりの少年を情け容赦なく棍棒の様な物で殴りつけた下衆な輩。
どれだけ鍛え上げた処でアギドは背丈も低く軽量の部類。
大人の身体を用いて無遠慮に殴られては吹き飛ぶしかない。
地面を転がりファウナ像を支える台座にぶつかり漸く止まれたアギド。
「ぐぅ……」
蒼い頭に触れてみた。
血の色が掌にへばり付く。どうやら頭が割れたらしい、蒼い髪の毛が続々赤に染まり往く。
ふと紅色の弟分アズールのドヤ顔を思い浮かべた。
「ゲヘヘッ、やはりファウナ像の前に面出したかカノンの卑しい餓鬼め」
棍棒で空いた片手を叩きながらさも嫌らしい笑いを唾吐く男。然も独りではなかった。髭面で頭もボサボサ、アギド的には『下品な顔立ち』
ペッ!
「貴様等! さては戦之女神の手先だな!」
アギドが口に入った血を吐き付けた相手の正体。
つい今しがたみつけたForteza市のAI警察官──の偽物。警察に扮装した戦之女神に仕える底辺の僧兵達。
「へへっ! Fortezaで一応見張っておけと命を受け、やって来てみればとんだ上玉が転がり込んだな!」
これは頭を丸めた別の僧兵。警察官の帽子をアギドへ投げつけ笑い飛ばす。
──クッ! 少しばかり出血が多い。こんな雑魚共に背中を取られるとは不覚。アズから馬鹿にされるな。兄弟子として不甲斐ない。
アギドは全身が赤に染まる敗北に堕ちる様と、自分を慕ってくれる弟達が悔しがり、無念に至る様を想像した。自分が負けるより腹立たしい。
「──がっ! 決して承服出来るかっ!」
魔法剣士のアギド、詠唱術の時間稼ぎが出来なければ力比べは分が悪い。血塗れの手で砂地を握り締め、無礼な輩の独りに投げつけた。
「うぐッ!? こ、このクソ餓鬼!」
血の混じる砂が目に入った『下品な顔立ち』が懸命に目を拭おうとする徒労。だが未だ独りに対する目潰しが成功しただけ。
ガツンッ!
アギド、大層罰当たり行動と知り抜いた上で、ファウナ像の台座を渾身込めて蹴り飛ばす。
そして砂地を蹴散らしスライディングでもう独りの敵の足元へ雪崩れ込む。この滑り込む時間、相手が怯む僅かな間を最大限に活用する気だ。
身体が小さく軽いのを逆転の発想で活かす。まるで喧嘩の殴り合い、こんな荒々しい彼の戦いぶりを知る者は少ない。
アギド少年はもっと幼少期から正義感溢れた人間であった。例え負けようとも理不尽を吹っ掛けられた喧嘩は必ず買っていた。
その刻、見知らぬ間に今の大切な友を救っていた結果を未だ知らぬ無鉄砲こそ彼の神髄。
「暗黒神の使いの竜ノヴァンよ、全てを焦がすその息を我に与えよ! ──『爆炎』!」
此処で暗黒神ヴァイロの詠唱でも1・2位を争う短さを誇る爆炎を唱えたアギド。但し火球を手に握り投げ込む体勢ではないのだ。
飛び込む自分を焔玉に変え、地面を爆破しながら敵にさらなる戦慄を与え育み。やがて黄泉に堕ちる最期の絵を植え付けるのだ。
『爆炎? アズの専売特許ではない!』
アギドからそんな心の雄叫びが轟きそうな見事でド派手な戦いぶり。
アズールの爆炎と身体を張った戦いぶりで、相手を捻じ伏せるミリアのやり口を独りでやり抜く一番弟子の花道を征く。
「こ、此奴! く、狂ってやがるッ!?」
「暗黒神ヴァイロの一番弟子──このアギドが貴様等みたいな愚民共を葬送ってやろうぞ! ファウナ様の面前! せめて綺麗な死に華を咲かせよ!」
アギドの雄々しい声が早口に生まれ変わりゆく。
悪党が狼狽える様、何処の世界軸を旅しようとも哀れな醜態を晒すものだ。
怪我を負わせた少年相手に啖呵を切った連中──命が散り逝く危惧だけ感じ取る。
「暗黒神始まりの徒──アギドの名に於いて首級にも値せぬこの憐れな者共の命を滅する蒼い凍忌の花を与えよ……」
アギド自身の名を冠した彼独自の呪文の詠唱。
やはり冷静な少年の静けさ漂う。だがその魂と蒼い瞳だけは熱く熱く燃え盛る。冷徹な少年が完全燃焼の青に転じた。
──よ、よせ、や、やめろぉぉ! な、何故声すら出せん!?
既に始まっている葬送の儀式──被術者である自分達だけが白濁の息そのものに成り果てる様子が自覚出来ない──未来が失せる。
「さあ散り逝け ──『葬送の獲兜』」
完遂したアギドの呪文。
断末魔さえ許容しない蒼の旋律。真の臓器から一挙に白へ凍結し切る。彼の宣言通り遺体そのものを女神、ファウナに捧げる花と成した。
ピンッ!
「ふんっ やはり醜い輩はどうあっても惨たらしく汚れたものだな」
瞬時で凍りついた憐れな者共の鼻っ面を指で弾いたアギドの高飛車。
「暗黒神の使いの竜ノヴァンよ、全てを焦がすその息を我に与えよ! ──『爆炎』!」
バーンッ!
敬愛なるファウナの御前に死体を残して去る愚を犯したくないアギド。
偶々見物人が居なかったとはいえ、随分派手な争いを演じた己を恥じその場を後にした。
アギドは結局の処、然したる証拠を掴まず世界の首都Fortezaを去る。だが確信を与えた我が血統ファウナ神に敬意を払った。
◇◇
森人達が住む都、ラファンのディオルへ探索に来たシアン一行。
間者と見抜いた戦之女神の白い騎士、レイシャ・グエディエルの尋問を返り討ちに仕掛けたシアン。涼しい顔で逆に迎えうった。
「成程、そちらが本命って訳ね。──貴女の名は?」
フードだけ上げたシアンが握る手槍を眺め、敵の力量を見定める仕草のレイシャ。戦う姿でありながら薄紅色の唇を妖しく揺らす。
シアンは一切応じず、挨拶代わりの突きに良く似た攻撃を繰り出す。だが所詮小手調べ。探りを入れてると云った体だ。
「お前、さては馬鹿だな? 探りに入った者が名乗ると本気で思っているのか?」
シアンがレイシャに対し、同性も惚れさせる地声で挑発を続ける。
ガシャンッ!
「フフッ……そうだろうなぁ。確かに強い……だが騎士としての品格にやや欠ける」
対するレイシャの声音──未だ若い乙女、少し甲高く響かせた。
両者の声色の高低差が生む戦場での合唱を呼び込む。
次はレイシャが黒い二刀の突きを繰り出す。二本同時に思わせ、右は偽物。
左の剣で突く辺り、二刀使いの何方が本命か不明に落とす惑わし。
「失礼、私は傭兵故、騎士殿の謳う礼儀は知らないんだ」
シアン──。
我関せずと云った顔立ち譲らず、後方に跳ねつつ腿に差したナイフを投げ牽制を図る。
「このレイシャ様の黒い刃を闇に紛れるだけの物だと判定したのなら、シアンとやら。口だけの痴れ者だよ」
間合いを取ったシアンの身体は建物の景色に沈んだ。
それは単なる偶発的な動きに過ぎない。
なれどシアンが影で美麗な顔を灰色に染めた途端、レイシャの口角が冷たく上がる呼び水に転じた。
まるで既に麗しの傭兵から血を吸った己の黒い刃を舐める感じで眺め倒したのだ。
白い全身鎧のレイシャ──。
なれど腰回りから少し覗かすガーターベルトとスカートが何とも悩ましい。相手が愚かな男であれば一挙悩殺へ化けるやも知れぬ。
牽制を互いに繰り出し続ける美女二人、先に淫らな赤い命を吸われるのは果たしてどちらか?




