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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
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第21話 過剰なる鏡面の裏側(ᛗᛁᚱᚱᛟᚱ ᛋᚢᚱᚠᚨᚲᛖ)

 シアン・ノイン・ロッソ(ふん)するエトラ婆と連れの子供達。

 戦之女神(エディウス)軍相手に殆ど無血で陥落(かんらく)した森の都ラファンの首都ディオルの調査へ(おもむ)いていた次第。


 多勢の戦之女神(エディウス)軍と一騎しかいない筈の白い神竜シグノが群れを成しているをみつけ、脅威(きょうい)を感じずにはいられなかった。


 ラファンの屈強(くっきょう)な木こり達。

 いざ争いに至れば樹木を叩く(おの)戦斧(バトルアクス)に転じる勇猛果敢(ゆうもうかかん)ぶりを発揮する。

 だが今回、彼等はほぼ戦わずして屈服(くっぷく)したのだ。


 噂に聞く白銀の女神(エディウス)白い烏(シグノ)の群衆を差し向けて来た絶望。

 これを全力以て打ち払う愚直(ぐちょく)を選ばず、敢えて無条件降伏を受け入れた次第。


 困った来客に気楽を以て接するには、不意に湧いた鉄砲水の様に流すのが一番手っ取り早い。


 街並みも戦力とてこれなら温存出来得るのだ。『いつの日か、()()()()()を蹴散らしてくれようぞ』身体に似合わぬ頭のキレ具合でこの窮地(きゅうち)を甘んじて受け留めた。


 ディオルに住まう民草(たみくさ)のそんなあざとさを一目で察したシアンであったが、白い鎧を纏う(敵と思しき)琥珀色(こはくいろ)の瞳から声を掛けられた。


 騎士風情(ふぜい)な若い女性。他の兵と等しい白き姿をさも当然と押し付ける。


 されど街の周囲を巡回(じゅんかい)してる僧兵達とは一線を画す比較にならぬ圧力。

 肩辺りで切った茶髪。スカートの下から(わず)かに(のぞ)く柔肌。剣士にしとくには惜しい美貌(びぼう)際立(きわだ)つ。


 キャシャーンッ!


「このレイシャ様相手にしらばっくれてんじゃあ……!?」


 何処からともなく現れたナイフ、レイシャが黒い二刀を咄嗟(とっさ)に抜刀、二重に交わり火花を散らす。

 如何(どう)にか弾いたナイフを見やるレイシャ──まさか突然斬り掛かって来るとは予想だに出来ず()()()()台詞を(にご)らす。


 レイシャの前を(おお)ったマントが、シアンに斬り()かれ、(むな)しく宙を舞い散る。

 何の小細工(こざいく)もなく、此方から声を掛けた相手(シアン)より一挙に距離を詰められ、気がつけば斬り(むす)びを余儀なくされた。


 ──チィッ! み、見えなかった……一体いつ抜いた!?


 レイシャが剣を抜刀()()()()()と感じる屈辱(くつじょく)

 図ったつもりが逆にシアンから(はか)られ相手に押し切られそうな底辺。


 敵がナイフを抜いた初動がまるで認識出来ない軽業(かるわざ)

 此方に向かって来る以上、合わせて抜き対処しただけの悔しさ。然も敵の身のこなしが殺意の後から降り注いだ。


「ば、()()()()!? 貴様、一体何をっ!?」


 白い騎士レイシャは、フード姿の三者が危うき間者(スパイ)であるのを完全に見抜いた。

 それにも(かか)わらず、エトラと云う老婆を未だ求めている奇妙な口振り。


 話の流れで『ババア』呼びしてる様には見受けられない。頭でなく(カラダ)で思考を決める人物なのか今ひとつ要領(ようりょう)を得ない。


「ほぅ……。今のを受けるか。戦之女神(エディウス)の騎士、中々の力量だな」


 シアンはレイシャの問いに応じず、次なる得物(ぶき)を手に握る。一見、軽妙(けいみょう)な片手剣の出で立ち。矛先以外に刃がない剣。柄の在る手槍といった風情(ふぜい)か。


 レイシャから尋問(じんもん)を受けてた側が瞬時暗転、(あお)る方へ移りゆく実に巧妙(こうみょう)な立ち回り。


「黒い刃……然も二刀持ち。夜の闇に(まぎ)れたらさぞかし厄介(やっかい)得物(えもの)だな」


「こ、声が!?」


 レイシャが自らの過ちを(ようや)く理解した。

 侵入者と(おぼ)しき(やから)、未だフードを頭から被ったまま。


 エトラ婆──に在らずな中低音混じる凛々(りり)しき女戦士の声がレイシャの心を揺さぶる。

 喫茶ノインでの(やわ)らいだ女性の声と同質だが、相手を削る戦慄(せんりつ)()()()()()()()


「ただ白い女神(エディウス)の御使いというより、その武器だけ見ればまるで()()()()だ」


 若い女にかえったシアンの声音。『闇の手先』の(くだり)、より鋭さを帯びる。さらに高貴な紫の髪色がフードの中で揺らめき輝く。


 バッ!


 大胆な女間者(かんじゃ)──独りだけ被ったフードの面を自ら剥ぎ(はぎ)取り、老婆から美麗(びれい)な大人女性へ瞬く(またた)く間に()()()()()


 正真正銘(しょうしんしょうめい)シアンと化した緑の瞳がレイシャを睨む(にらむ)。レイシャ、迂闊(うかつ)にも美しいと一瞬心奪われる。


 レイシャ・グエディエル──。

 飼い主(エディウス)に似たのか、女性の色香を好むらしき感覚匂わせた。


 これから命のやり取りをするであろう自分を相手取り、舞台役者さながらの演舞を観劇している気分に堕ち掛ける危うきシアンの(あで)やかさ。


 フードの内側──。

 さらに()()(のぞ)きたい(ゆが)んだ衝動に駆られる。酔いしれ落ちると想い、強く頭を振った。


 ◇◇


 一方──。


 世界最上位の街並みForteza(フォルテザ)にて戦之女神(エディウス神)護りの女神(ファウナ神)を繋いだと(おぼ)しきレヴァーラ・ガン・イルッゾの痕跡(こんせき)求め、独り彷徨(さまよ)うアギド少年。


 戦之女神(エディウス神)の中にみつけた違う人間の意志。

 加えて白銀の女神(エディウス)がファウナの魔導を唱えた。確固たる証拠を(つか)みたい。


 然しこの街、この文明が冷静な少年の心を大いに(まど)わす。

 何しろ普段地元で見ている世界、紙に手書きで書かれた魔導書(教科書)しか知らぬのだ。


「ふぅ……。こう何もかも違うと一体何処から手を出せば良いのやら」


 アギドらしからぬ迂闊(うかつ)、心の声を溜息に乗せて飛ばした。公園のベンチで項垂(うなだ)れ座り込む。


 ──潮風?


 椅子に腰かけ(しばら)くジッとしていた所為(せい)か。

 食事を取る気分さえ失せたアギド少年の嗅覚を誘う港町の特有なる潮の香り。


 常日頃から行動に原理を求めるアギド。今回ばかりは殊更(ことさら)意味なく風の精霊が運ぶ香りの先へとゆるり足を運んだ。


 (かしこ)い若者は知らぬのだ──。

 この手の導きが運ぶ運命の悪戯(いたずら)が巻き起こす奇跡の()()()を。


「あ、あれは!」


 河口付近、船の道が二手に分かれる頂点。

 自分達の神すら従う最高位。ファウナ・デル・フォレスタが天に祈りを(ささ)げる石像。


 アギドは砂漠で蜃気楼(オアシス)でも見ている気分に独り(たかぶ)る。

 彼自身、何故こんなにも(ひか)かれるのか意味を問われても答えを知らなかった。


 磁力か引力にでも導かれたが如く、ファウナの石像に近寄るアギド少年。

 恐らく地域的にもローマ(旧イタリア領)にて掘り出されたと思われる大理石を彫ったもの。


 海風などが表面を風化させ、目元辺りこそ怪しいが両膝を落とし、両手を絡み合わせ天に祈る形は損なわれてはいなかった。食い入るように見つめる眼鏡越しのアギド。


 Forteza(フォルテザ)が一度喪失(そうしつ)の危機に(ひん)した後、街を再構築した記念と云う伝承が存在する。建造後150年なら、未だ当時の歴史(彼女)を伝えるのに充分なのだ。


「ムッ? 髪の毛が長過ぎるし、第一背中に翼が生えている」


 アギドは師ヴァイロからファウナの魔導書を見せて貰った記憶を辿る。

 ファウナ自身の自画像だと思える絵が魔導書に記されている。

 アギドの知るファウナは、髪を肩の辺りで切っており天使の様な翼を背負ってなどいなかった。


「まあ、記念碑(モニュメント)なんて所詮(しょせん)こんなものか……」


 特にこれといった収穫を得られず、アギドが肩を落とした直後。

 1羽の白い鳩がファウナ像の右肩に舞い降りる。次に黒い烏が左肩に降り立つ。


 一見単なる自然の営みを思わせる図式。途方もない現実が潜んでいたのを思い知る。


「ファウナを止まり木にした()()()……!?」


 ドガッ!


 アギドの脳裏に確信めいたものが浮かんだ直後、背中から何者かに後頭部を固い木の棒で殴られ、意識が飛びそうになるのを必死に(こら)えた。

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