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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第3章 憂愁の傭兵と森に微睡む二重の永劫(ᛖᛁᚷᛟ)
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第20話 翻弄する世界と幻想の老婆(ᛈᛁᛈᛖ ᛞᚱᛖᚨᛗ)

 Forteza(フォルテザ)に独り潜入を試みる最中のアギド。

 暗黒神ヴァイロ・カノン・アルベェリアが、喫茶ノインから帰宅した後。アギドが自ら名乗り出た。


 シアン・ノイン・ロッソの()()ぶりを調査したのも彼独りの手柄(てがら)

 こんな任務が適任なのは、自他共に認める処だ。


 ヴァイロはアギドからの提案を耳にした(おり)、顔に一瞬暗い影を(にじ)ませた。


 だが直ぐにいつもの穏やかに()()()()『頼む、くれぐれも無理はするなよ』16歳になったばかり、大人の階段上がる一歩手前な少年の肩を気軽に叩き快諾(かいだく)した。


 ヴァイロに取ってこの蒼き弟子たるや、その優秀ぶりを頼もしく思う。

 だが同時に全く自身を(かえり)みない危うさも案じていた。


 こうしてアギドは地元カノンを後に、ただの青い少年を(よそお)探索(たんさく)の旅路に出向いた。

 カノンはアドノス島の西北端に位置している。目指すForteza(フォルテザ)市は、おなじ北端なれどほぼ東の端。


 真下の海へ切り落とした黒い断崖絶壁(だんがいぜっぺき)。穏やかな砂浜を(おが)めぬカノンから海伝いに渡り歩む。


 隣の漁村エドナ──。


 (つつ)ましくも美麗(びれい)な砂浜と民草(たみくさ)安堵(あんど)(たた)えた村だ。

 然し何の感傷にも浸らず沈み往く。己の徒歩(かち)頼みで陸路を直向(ひたむ)きに巡る。(わび)しさなど彼の脳裏に浮き沈む事無かれ。


 漁村エドナを潜り抜けるとやがて欧州、旧イタリアへ伸びる橋桁(はしげた)の様な岬に当たる。この岬を北へ登ればアドノス島の最北端、Forteza(フォルテザ)市に至れるのだ。


 それにしてもアギド、随分と旅慣れたものだ。


 Forteza(フォルテザ)市の真下には、自分達の取って最大級の危険地帯、戦之女神(エディウス神)の聖地ロッギオネが()()()()()()(きょ)を構える。


 されど全く以て意に介さない蒼き少年の大胆不敵(だいたんふてき)白銀の女神(エディウス)の笑いさえ(ともな)わず()()をくぐるのだ。


 宙に浮ける魔法『重力解放(ヴァレディステラ)』も彼の探索行を不断(ふんだん)に押し上げた。


 アギド、何事もなき様相。

 世界中の文明を独占したForteza(フォルテザ)の街並みが眼鏡越しに届く辺りまで無事に辿り着けた。


 先ずは街の様子を外から(うかが)い、如何(いか)にも地元風情な少年の姿を身に纏うべくそれらしい衣服を調達に走る。


 但し流石の彼とて、この街の異端なる様。見た目通りの少年として青い眼を幾度(いくど)となく(まばた)きさせ脳裏の()()()()に焼き付かせる作業に追われた。


 透明な扉(自動ドア)は前を通り抜ける度、身勝手に開き、自分を(まね)き入れようと試みる。

 荷車を()く馬が見えぬ()()()()な車達の群れと行き交う。


 師匠ヴァイロから事前に聞いていたとはいえ、16の人生に於いて想像だに出来ぬ世界観が拡がり、少年の不安な心を()()(かこ)うのだ。


「これがForteza(フォルテザ)……よく西欧文化に剣と魔法を混ぜた物語を異世界と聞くが、これぞ()()()と呼ばずして何とする」


 驚き(おのの)く珍しきアギドの絵柄。

 異世界とは見知らぬ世界を指した()()に過ぎぬ。剣と魔法ありきの景色こそ彼に取っては()()の世の中。


 ドカッ!


「うっ、す、済まない」


 冷静なアギドが誰かにぶつかり頭を下げるも、特に気に()んだ様子もなく通り過ぎた()()を感じぬ人間。


 紺色の制服らしき衣装。

 よく見れば似た雰囲気を(かも)し出す者達が、そこら中にうろうろしながら周囲を警戒(けいかい)している感じに受け取れた。


 ──この街の警備兵なのか? 然しこの俺が気配を(とら)え切れなかった?


 アギドの疑問──。

 答えはAIを搭載したアンドロイドで構成した警察官。


 普段から周りの気配に一際(ひときわ)過敏(かびん)な彼的に得体が知れぬのも無理からぬこと。


 他にもアギドに取って未知なるものが()()に列為す。


 腕時計の様なものへ必死に何かを訴え掛ける者。

 耳に何かを充て歩く女性、(あふ)れて聞こえた音楽。


 およそ18世紀後半から19世紀ぐらいの街並みしか在り得ぬ世界の欠片(かけら)(たたず)む22世紀前半辺りを独り()()()続ける時間の止まった街。


 アギド少年の目に映る余りにも()()()世間が、彼の脳裏を(こね)くり回わす感覚に独りのたうつのだ。彼の追い求める結び目(こたえ)は果たして?


 ◇◇


 一方──。

 此処はほんの数日前。戦之女神(エディウス神)軍に占領(せんりょう)された森の都ラファンの首都、ディオルと云う街の手前。森の女神が晩年を過ごした森に通じる場所。


 街の周囲は兵士達が取り(かこ)んでおり、入る為に彼等の質問に応じる必要がある。


 街を囲える程の数。1000人は下らない。簡素な装備故、底辺の僧兵(そうへい)といった処か。

 人が人を従わせる手前勝手な生きた牢獄(ろうごく)の璧。


 アギドは一見、手際(てぎわ)良くForteza(フォルテザ)の侵入を果たした。


 それは粗方間違ってはいまい。

 だが裏を返せば戦之女神(エディウス神)は戦勝に浮かれた直後。子供の相手なぞする気もないのやも知れない。


「あ、名前でございますか? エトラと申します。(まご)差入(さしい)れを届けに(まい)りました。後ろの二人は親戚(しんせき)の子供達でございます」


 微笑(ほほえ)(まじ)えた嗄れ(しゃがれ)声でエトラと名乗った女性。


 頭から緑のローブに身を(つつ)んでおり、顔色は(うかが)い知れぬ。明らかな老女の問い掛け、されど可愛げがそこはかとなく混じる。


 腰は(つえ)を突き、3()()()でならぬ程老いた風体(ふうてい)


 目隠(めかく)しの布が(かぶ)せてあるバスケットにパンや果物などが散々押し込んであり、それらがはみ出していた。


 さらに後ろの二人。腰が曲がったエトラと同じ位の背丈(せたけ)

 やはり頭からローブを(かぶ)っているのは変わらぬ。背格好からして10歳くらいの子供であろうか。


「ふむ……判った。入っていいぞ」

「これは、これは。御親切にありがとうございます……」


 元より曲がった腰をより深々と曲げるエトラと云う老女。

 付き従う子供達は無邪気(むじゃき)を円満に()()()()()。これぞ挨拶(あいさつ)の代わりと云った処か。


「1日で占領(せんりょう)って聞いたからどんなヤバい連中かと思ったけど、チョロいチョロい」


 フードの内側から(にじ)むふわっとした可愛げ感じる声が、背中で僧兵達を小馬鹿にあしらう。


「シーッ……ニイナ、迂闊(うかつ)(しゃべ)っては駄目ですよ。それにしてもエトラ(ばあ)、いつもながら見事です」


「……」


 冷静な少年の声に呼ばれた老婆は何も応じない。ニイナと呼ばれた少女は口を(とが)らせるが、正論なので言い返す台詞を押さえ、()()()()()()()()に沈めた。


 後は歩幅(ほはば)を変えることなく、ゆるりと街中を歩む3名。


「処で占拠(せんきょ)と云う割に街は意外な程、綺麗(きれい)じゃないですか?」


「恐らく誰も抵抗すらしなかった。ディオルには屈強(くっきょう)な山男が大勢居る。だがこんな神憑り(かみがかり)陣営(じんえい)(おそわ)れたら諦めるが自明の理(じめいのり)だな」


 ラファンの首都、ディオルは林業が盛んなのだ。『屈強な山男』とはそれを示唆(しさ)する。


 相変(あい)わらず小声ではあるが、声色だけ()()精悍(せいかん)な様子に戻る不可思議な老婆。


 この老婆、中身はシアンである。

 先程のエトラは偽名(ぎめい)。然し全く以って別人帯びた老婆声であった。


 シアン・ノイン・ロッソ──。

 変装(へんそう)の名人であるだけでなく、声色(こわいろ)すら変化出来る優れ者なのだ。


 これは自身の地声が余り好きになれず、ひたすら努力した結実。

 特殊な能力と云った(たぐい)ではない。されど特殊能力の定義(ていぎ)とは?

 これは無粋(ぶすい)な問い掛けと云えよう。


 然し何とも多彩なシアンの声音、つい先日躊躇(ためら)いもなく互いを晒したヴァイロとのひと時。あれがシアンの真実なのか疑わしき()()()()()()


 なれどシアンが声音を変えられるのを些事()に投げたい現実。

 途方もない存在が、街の中心にある広場で数え切れぬ程鎮座(ちんざ)してるのを彼等は知る。


「し、白いドラゴン! 一体どれだけいるのっ!?」

「こ、これは確かに戦う以前の問題……」


 フード越し、例え見えずとも判別出来る子供達の驚異(きょうい)に揺らぐ顔色。


「二人共(だま)りなさい。レイチ、敵の数から陣営まで把握しておくのです」


 レイチと呼んだ少年へ的確な指示を鋭く(うなが)すシアン。(うなが)した彼女自身、此処迄の道程を完璧に記憶へ留める(マッピング中)


 ──戦之女神(エディウス神)白い竜(シグノ)は1頭と聞いていたが?


 実の処、冷静を装い子供達を先導するシアンさえも冷汗を()いていた。


 処でこれではニイナが独り出番なしを思わす、彼女とて既に帯びた任務を水面下で着々と進行中。


 レイチとニイナ──。

 子供の様相でありながらシアンの懐刀(ふところがたな)

 ヴァイロから『鮮やか過ぎる手口』と茶化(ちゃか)された怪盗の一員でもあるのだ。


「──そこのお前等……ちょっと待ちな」


「は、はて……。何でございましょう?」


 背中から若い女に突然制止を掛けられ、歩みを止める一行。

 シアンが瞬時エトラに変化。その声色、寸分(すんぶん)(ゆが)みもない。


(にお)いだ……特にそこの(ばばあ)。とんでもなく血と金属の匂いがすんのよ。一体どんな人生を送ればそんな体臭になれるのやら。あと()()()()()()のが混じってるな」


 騎士風情(ふぜい)な若い女性。他の兵と等しい白き戦之女神(エディウス神)の先兵である様子を惜しげもなく敵と思しき相手に敢えて晒した。

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