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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第2章 黒い畏怖と麗しき唱の交響(ᛊᛇᛗᛈᚺᛟᚾᛇ)
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第15話 吼えた爆炎の魔導士(ᛒᚨᚲᚢᛖᚾ ᚾᛟ ᛗᚨᛞᛟᛊᛁ)

 カノンを守護する優しき暗黒神、ヴァイロ・カノン・アルベェリア。


 戦之女神(エディウス神)の一番弟子、火と水、2つの力が衝突し合う六芒星(ろくぼうせい)を背負う賢士(けんし)ルオラの術式『心澱の誘い(クオレ・ルタム)』に堕ちた。


 それ以前、ルオラは心の(いばら)を剣化する奇跡、心之剣(クオレスパーダ)を行使した。対峙(たいじ)したアギドとミリアは、その二刀相手に戦う図式を勝手に描いた。


 これはルオラが狙ってやった事柄ではないかも知れない。然し、まるで狙った陽動(フェイク)と化した。


 術者、(ある)いは被術者の心に秘めた力を引き出すのが賢士(けんし)のやり口。

 ルオラの狙い目はズバリ、ヴァイロが見た例の悪夢だ。


「う、ウグッ!? や、やめろぉッ! 止めてくれぇぇッ!」


 テンガロンハットを捨てる様に脱ぎ、短い銀髪を抱え全身で心の激痛を訴えるヴァイロの哀れなる図式。

 帽子さえも頭に無理矢理載せられた(かせ)的な物として受け留めた様だ。


「ヴァイッ!? な、何があったのよ!」


 赤い目をひん()き暴れ狂い、リンネの静止もまるで用をなさぬヴァイロの地獄絵図。

 リンネだけでなく、普段人一倍冷静なアギドや、比較的落ち着いて行動出来るミリアさえも師匠ヴァイロの豹変(ひょうへん)ぶりに声を失う。


 寝ている訳でないヴァイロが無理矢理見せられ続ける()()()


 アギドが竜に喰われ、アズールが鳥達の餌。ミリアが無惨(むざん)にもモズの早贄(はやにえ)が如く、枯れ木に串刺し。

 そして愛しのリンネが淡い光と成りて失せ()()()

 もう二度と見たくない絵面が何処の壁面にも描かれた闇の迷宮を抜け出せず、ひたすら彷徨(さまよ)うのだ。


 ルオラの心澱の誘い(クオレ・ルタム)は、標的の心に潜む最底辺をみせ往く()()()()


 ──ヴァイ? お前一体何を今観ている?


 アギドはヴァイロと6ヶ月前話した夢の話をふと思い出す。無論詳細を聴いた訳ではない。だがアギド少年はとある理由でヴァイロが見た地獄の沙汰(さた)粗方(あらかた)知っているのだ。


 アギド、冷汗()らしつつ次は賢士(ルオラ)白銀の少女(エディウス神)の様子を(うかが)う。

 如何にもこの結果を知り抜いていた顔立ち、それ処か狙ってやったとしか思えなかった憎らしい余裕面。


 ──何故奴等が!?


 ()に落ちぬ必然にアギドの脳裏が沈む。──がっ、別の疑問も即座に浮かぶ。生き地獄を()()()()()、この仕打ちの理由が最たる謎だ。


「フフッ……ヴァイロ・カノン・アルベェリア。貴様の能力、あの黒い竜毎この我が()()()()()


 重力解放(ヴァレディステラ)の効力が未だ切れてないヴァイロ、宙に浮いたまま苦しみ足掻(あが)く。まるで見えぬ十字架(じゅうじか)(はりつけ)(しょ)された印象。


 その間近、白銀の少女(エディウス)が乙女の様な顔に反した残虐(ざんぎゃく)なる(わら)い。口が裂けんばかりだ。竜之牙(ザナデルドラ)をヴァイロの(ほお)向けチラつかせる。


 ──貰い受ける? 殺さないだとッ!?


 アギド、その様子にまたしても自らの五感を疑う。

 自らの疑問を声に乗せたくとも縛り首にでもされた様に心の底から卑屈(ひくつ)へ堕ち往く。敬愛(けいあい)する師の困窮(こんきゅう)、指を(くわ)えて見てるだけの終焉(しゅうえん)を迎えるのか。


 リンネやミリアもアギドと同様、金縛りにでもあったかの如く動きを止めた。

 ヴァイロの影を形にしたノヴァンさえも浮遊したまま制止。所詮(しょせん)は影故、影の()()が動けぬのなら、この黒い竜とて同じなのやも知れない。


 ()()()──。

 元来人であれど名前通り裁きを受けるしかない身の上なのか。


「──暗黒神(ヴァイロ)使いの竜()()()()()ッ! 全てを焦がすその息を()に与えよッ! ──『爆炎(フィアンマ)』!」


 静寂(せいじゃく)と絶望を突如(とつじょ)ぶち壊した少年の甲高い咆哮(ほうこう)、暗闇が支配する不毛なる大地へ大いに(とどろ)く。


 ──独り、空気を読まぬ()の少年が動いた! ──


 ズガガーンッ!


「グワッ!?」

「ぐぅ!? ば、馬鹿な師の背中を?」


 ヴァイロとエディウスの背中で炸裂(さくれつ)した赤い爆発。

 二柱の現人神(あらひとがみ)をまとめて吹き飛ばす不埒(ふらち)(やから)破砕(はさい)された岩盤の欠片(かけら)が堕ちた暗黒神の(ほお)(なぐ)り抜いた。


「へッ! 何やってんだお前等ッ! 俺みたいな餓鬼(ガキ)に起こされるとかどうかしてんぞッ!」


 暗黒神ヴァイロが弟子、爆炎の魔導士アズールが神々毎、()()()を笑い飛ばした。


「う、うう……あ、アズ?」


 向こう側の岩盤迄、アズールの爆炎(フィアンマ)に依り飛ばされたヴァイロ師匠。

 さらに地面に落下した最低の絵面。頭から叩き付けられ少し割れた所から血を流しながら如何(どう)にか目覚める。


 ルオラが仕掛けた心澱の誘い(クオレ・ルタム)、闇の迷宮から抜け出せた。


 ガツンガツンッ……。

 満身創痍(まんしんそうい)と云って差し支えない師匠の元、ワザと足を踏み鳴らしアズールが近寄る。


「ヴァイッ! なんでそこの白い姉ちゃんがヴァイロの術を使えんのか? んなこた知らねぇッ! だがなッ!」


 何とも痛々しいヴァイロの胸倉を情け無用で掴み、小さな躰で精一杯持ち上げるアズールの()()


「だが俺様の爆炎(フィアンマ)は、暗黒神ヴァイロ直伝の術だッ! ファウナァッ!? そんな奴ぁ知らねぇッ!」


 師匠ヴァイロの顔、ほぼゼロ距離で(にら)み付け啖呵(たんか)を切ったアズールの至極(もっと)もな訴え。(つばき)が師匠の赤目に飛び込む師弟逆転。


「ふふ……」


 空から様子を(なが)めていた兄弟子のアギド、思わず緩む。


 何故かアズールの姿が中途から失せてた状況に気付いていた。

 何か狙っているのを期待した次第。然し想像の斜め上を往く結果を見せつけられた痛快な気分に駆られ、戦いの合間に迂闊(うかつ)にも笑った。


 リンネとミリアの顔にも笑みが(こぼ)れる幸せを呼び込む。ノヴァンは「フンッ」と独り鼻を鳴らす。主人の不甲斐(ふがい)なさは自身に返る立腹なのだ。


「──ルオラッ! 今一度仕掛けろッ!」


 最年少が呼び込んだ緩みを再び緊張へ引き戻す戦之女神(エディウス)の低い声が飛ぶ。

 やはり殺すつもりはない様子。兎も角(ともかく)またしても賢士(けんし)がヴァイロへ悪夢を見せるべく動き出す。


 ピチョンッ……。


「──『音の波(オンダ・ソノラ)』」


 リンネが自分の両手を絡み合わせ、祈りにも似た(おだ)やかな声を発する。ヴァイロ達の頭上、水が(したた)り落ちる波紋(はもん)の様な音が拡がりみせた。


「……不安の痛みに苦しみ藻掻(もが)け! ──『心澱の誘い(クオレ・ルタム)』!」


 神の命(かみのみこと)に従い、2度目の奇跡を起こすべく最高峰の賢士(けんし)、ルオラが仕掛けた。


「ハァァッ!」


 間髪(かんぱつ)入れず、ミリアが新月の守り手(ベスタクガナ)の防御力を右拳に移し、戦之女神(エディウス)側の神竜シグノの(ほお)大胆(だいたん)にも真横から(なぐ)り飛ばす。


 何が(きし)む大層()()()()、神竜の(あご)にヒビを入れた金星を音で示した。これ以上シグノが負傷すれば飛んで帰れなくなる可能性が生じた。


 そして何より悪夢に堕とし動きを止めたかったヴァイロ自身が全く変化を見せなかった。

 今度は驚き(すさ)むのが白銀の側(エディウス側)に転じる。


 音の波(オンダ・ソノラ)とは、リンネが扱う音に依る防御。術の名前通り被術者達を音の波動で(おお)い、魔導等の状態変化を防ぐのだ。


「ええぃッ! ならば我自らの力で斬るのみッ!」


 未だ重力解放(ヴァレディステラ)による効力で上空からの攻撃姿勢が取れるエディウス。竜之牙(ザナデルドラ)(かざ)して暗黒神に襲い掛からんと迫り征く。


 ズバァッ!


「グッ!? ば、馬鹿なッ!?」


 斬り掛かった白銀の少女側が鎧の内側から血を噴き出す不可思議、斬られた苦痛より驚愕(きょうがく)の気分が勝るエディウスに移り住んだ(うつ)


 間違いなく先に仕掛けたのは白のエディウス。

 黒いヴァイロは紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)を横に出した所謂(いわゆる)()()()()


 殺気抱いたのは自身の握る竜之牙(ザナデルドラ)だと確信していた。

 迂闊(うかつ)を自ら誘った状況に半ば気付いたエディウス。頭部からの出血で表情が上手く(のぞ)けぬ黒の男を(ゆが)んだ顔で(にら)む。


 ニヤリッ。


 顔が血の色だが未だ血の気は薄いと思われたヴァイロ、隠し通した殺意の冷笑。(ようや)()せつける。


戦之女神(エディウス)を名乗る割に甘いな──来ると判った剣閃(けんせん)。殺す気で受ければ済むだろ?」


 互いに血みどろな現人神(あらひとがみ)──だがこの場に於ける勝敗は決した。殺意を(きざ)紅色の蜃気楼(レッド・ミラージュ)が、エディウスのそれを着実に上回ったのだ。

挿絵(By みてみん)

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