表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/113

第12話 黒と白の邂逅

 一番弟子アギドが唱えた存在自体を闇に屠る『絶望之淵(ディス・アビッソオ)

 防御系を極めたミリアが唱えた新月の如き陽の光さえ遮る『新月の守り手(ベスタクガナ)

 爆炎と共に生きるアズールが唱えた最強の(ほむら)紅の爆炎(ロッソ・フィアンマ)


 これら暗黒神魔術最強に位置する術式を錬成陣の中で様々な代価(材料)と混ぜ合わせるヴァイロ・カノン・アルベェリアの稀有なる具現化能力。彼自身の影を()()する神憑り(かみがかり)


 されどこれだけでは黒い竜を形どったハリボテが出来るだけ。

 此処へ竜の音色を名前に関したリンネ自由なる宴が、彼女の意識(息吹)を注ぎ込む。


 かくして黒き竜がこの世界軸に初めて現界せしめた。


 黒き竜の赤い目がギロリッとヴァイロを上から(にら)む。黒の中に唯一(ゆいいつ)違う色が(あや)しく光る。


「嗚呼、そうだ! だがお前のその身体に色を付けたのはそこの青い髪のアギド」

「アギド……」


「そしてその(はがね)よりも強靭(きょうじん)な身体を成したのはオレンジの瞳が綺麗(きれい)なミリア」

「ミリア……」


 逐一(ちくいち)、力の(みなもと)を与えた人物を紹介するヴァイロ。その都度名前を(つぶや)きながら、対象者に視線をゆるりと送る黒き竜。


 見られた彼等は目を合わせたら、石にされるメデューサを相手にしているかの如く緊張し、視線を重ねる事が適わず。


「さらに岩すら溶かす高熱の炎の息(ブレス)をお前に与えたのは、赤い髪の少年アズールだ」

「し、少年は余計(よけい)だ」

「アズール……」


 アギドとミリア、二人と大して変わらない年齢なのに態々(わざわざ)少年と紹介された。

 憮然(ぶぜん)とするアズール。かなり震えながらも彼だけ竜の赤い視線を(にら)み返した。


「そして貴様のその声と自由な意志を与えたのが、緑色の髪……」

「リンネであろう……理由は知らぬがこの女は知っている………歌も聞こえて(宴も届いて)いた。貴様の女だな」


 黒き竜は赤い目を僅かに細める。リンネへ送る視線だけ他と異なる穏やかさ帯びる。そしてリンネの身体の下に己の首を下げた。


「の、乗れっていうの?」


 貴様(ヴァイロ)の女と言われたリンネは顔を紅潮させつつ、恐る恐る脚を伸ばしてゆっくりと首に座る。

 硬いと思われた皮膚が(やわ)らいで、リンネの腰の形にまるであつらえたかの如く変形した。


「確かにこの女のお(かげ)で我は人語(じんご)と自由意志を与えられた。だがそれがどういう意味であるのか判らぬ貴様ではあるまい……」


「嗚呼……そうだな」


 黒き竜が再びヴァイロを睨みつける。ヴァイロも見上げながら、(まばた)き一つせずに応じる。


「え、え、えっ?」

「クッ!」


 訳が判らず視点(してん)(さだ)まらないリンネ。アギドは即座(そくざ)に状況を理解して、剣の(つか)を握り締めた。


「意志を与えた、必ずしもヴァイの言う通りに動くとは限らないという意味(警告)だ」

「そう……でしょうね」

「なっ!?」


 アギドの説明を聞きミリアとアズールの顔つきが険しさ帯びる。(むし)(脅威)になるかも知れない。


 然し先程の模擬戦(もぎせん)錬成術(れんせいじゅつ)で相当な魔力(マナ)を三人共消費した。

 いや、例え万全(ばんぜん)であったとしても、こんな生き物(未知の化物)(かな)うのであろうか。冷や汗が止まらない。


「確かに……。さりとて俺が貴様の身体を形作り、彼女(リンネ)が命を与えたと言っても過言(かごん)ではないっ!」


「貴様が我を元のゴミ屑に戻せると言うのか?」

「フフッ……だとしたらどうする?」


 ニヤリッと笑うヴァイロと、面白くないといった顔つきの竜の視線が(から)み合う。


「判った……取り合えず貴様の口車(くちぐるま)にのってやろうぞ」

素直(すなお)じゃないな、俺じゃなくてその女(リンネ)(さか)らう気がないと言えないのか?」


「………余り調子に乗らんことだ」


 ひとまず竜と一戦(まじ)えるという最悪の事態は()けられた。アギドは剣の柄を離そうとした。


「待ってっ! 何か来るっ!」

「むぅ?」

「あ、あれは!?」


 竜と共に空を飛んでいたリンネが誰よりも早く迫りくる者共に気づいた。小さき白い(かたまり)が翼を一度はためかせると、こちらの目前に一挙(おど)り出た。


「フフッ……大層待ちかねたぞ。あれだけ(ほどこ)して、まさか半年も掛かるとは。暗黒神、過大評価し過ぎたやも知れんな」


「えっ、ほ、本当にドラゴン作ったの? それにしても王国の貴族達まで闇側に力を貸すだなんて世も末ねぇ」


 その姿、見間違いようがない。戦之女神(エディウス)騎乗(きじょう)している白い竜シグノだ。


 ただエディウスの後ろ、彼女を後ろから抱き締め、背もたれ付きの(くら)の様になっている背丈の高い白き衣の女性の存在は(さだ)かでない。


 肩と脚を惜しげなく露出し、まるで遊女(ゆうじょ)ではないか思える程の出で立ち。


「さあ、とびっきりの遊びをしようではないか暗黒神(ヴァイロ)

「良いだろう、俺達の本物の竜の力。素晴らしい見世物(みせもの)になるぞ」


 エディウスとヴァイロ、御互い負ける気なぞ微塵(みじん)もない。冷笑を重ね合う相反する神々。


「い、いかん………」

「み、皆を守らなきゃ……」

「で、でももう余り魔力(マナ)が……」


 一方、アギド、ミリア、アズールの3名は、(あせ)った顔で見上げている。魔法力(マナ)が残り(わず)かなので、如何(いか)に効率良く動くのがか悩み処だ。


 ──い、今、役に立たないとかっ!

「グラビィディア・カテナレルータ、暗黒神(ヴァイロ)の名において命ず。解放せよっ、我等を(しば)る星の(くさり)よっ! 『重力開放(ヴァレディステラ)』!」


「や、止めろミリアッ! 迂闊(うかつ)だ!」


 ミリアは喪失しかねぬ魔力(マナ)に寄る激しい頭痛に顔を(ゆが)めながら空へ向かう。アギドの制止さえも振り切るらしからぬ様。彼女は珍しく冷静さを()いていた。


 無論愛するヴァイロの生きた盾になるべく余剰なる責任感に寄る処も多大ではある。


 ──貴女(リンネ)を此処で死なせる訳にはいかないのよっ! (くや)しいけど(ヴァイロ)のために!


 ドラゴンを創造(そうぞう)出来たのは、リンネの功績(こうせき)が大きいという事実を彼女は理解している。


 また単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言ってしまえば、ヴァイロとあの竜が負ける未来は見えないが、リンネだけは自分が守られなけば()られると判断した。


「ロッカ・ムーロ、暗黒神(ヴァイロ)の名の元に……」


 ──させないわよ、随分可愛い子だけど……。


「デエオ・ラーマ 戦之女神(エディウス)! 地獄の番犬ケルベロスの鎖を以ってかの者の魂の鎖を具現化(ぐげんか)せよっ! その身、自らの罪に縛られる運命を(のろ)うがいいっ! 『魂之束縛(アニマカテナ)』!」


 エディウスの後ろにいるルオラが、冷笑湛えながらミリアの動きに反応し、先に詠唱を完遂(かんすい)させる。


 ──や、やべぇッ!! 間に合え!

暗黒神(ヴァイロ)の使いの竜よ、全てを()がすその息を! 『爆炎(フィアンマ)』!」


 アズールの手は何故か敵であるルオラの方でなく、満身創痍(まんしんそうい)なミリアに向けられる。爆炎(フィアンマ)は効力の割に詠唱が短い。


 ルオラの魂之束縛(アニマカテナ)がミリアに届く前に何とか追いつく。


「きゃあぁぁぁ!!」


 爆炎(フィアンマ)でミリアは吹き飛んだが、決して直撃を受けた訳ではない。アズールは爆風だけが届く位置に火球(かきゅう)を投げ入れたのだ。


「フフッ……中々(かん)の良いのガキじゃない」

「へっ! 俺の前でそいつ(ミリア)を殺らせるかッ!」

「ミリアっ!」


 上から見下した視線を()びせるルオラを、下からしてやったりといった態度(たいど)で返すアズール。落下してきたミリアをアギドが冷静に受け止めた。


「い、一体どういう……」


「ミリア、幾ら何でも(あせ)り過ぎだ。あの女の(たましい)の鎖とやら……アレの直撃を受けていたら、恐らく魂毎お前は握り潰されていたぞ」


 例え満身創痍だったといえ状況を飲み込めないミリアに代わり、アギドが視線も合わせず抱えたままの姿勢で注意を促す。


「え……」

「へへ……ミリア()()よぉ、攻撃魔法だってこうすりゃ防御にだって使えるんだぜ……って言うか、お前が死に急いでどうすんだよッ!」


 何故自分はアズールに()()()()のか、それすら判別出来ずにアギドの腕の中で蠢く(うごめく)ミリア。


 アギドの説明を聞いて唖然(あぜん)とする。そこへ模擬戦の返礼(へんれい)とばかりに容赦(ようしゃ)なく言葉を浴びせ掛けたアズール。


 だがその(にく)まれ口と裏腹(うらはら)に、自分を心底(しんそこ)心配しているのだ。それが判らない程、ミリアは愚鈍(ぐどん)ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ