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<再編中>幻影と白幻を抱いた神々の英雄譚 —Saga "Vairo" et "Edius"—  作者: 狼駄
第2章 黒い畏怖と麗しき唱の交響(ᛊᛇᛗᛈᚺᛟᚾᛇ)
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第9話 ᚱᛃᚢ ᚾᛟ ᛟᛏᛟ(竜の音)

 白銀の女神(エディウス)は白き()を脱ぎ捨て清廉潔白(せいれんけっぱく)()()一糸(いっし)(まと)わぬ少女に帰り、安らかな眠りに自らを誘い(いざない)(あず)けた。


 待ち兼ねたるは、此方も戦之女神(エディウス)の一番弟子を自ら剥()いだ()るも妖しき淑女(しゅくじゅ)ルオラであった。


 愛絡み合うのに(アダム)(イブ)の差別はとうの彼方に失われた。(むし)平等(同じ)故得られる(よろこ)び。この二人は、普段そんな(きずな)を密やかに愛交(愛好)していた。


 鎧を(たしな)む騎士の割、流麗(りゅうれい)極まるエディウスの美脚。辛抱(しんぼう)(たま)らず愛でた(触れた)ルオラの愉悦(ゆえつ)。顔引き()らせた少女だが、決して恐れを抱いた訳に(あら)ずだ。


 (ゆが)んだ愛(かたむ)けた御相手の訪問が突然過ぎた、白銀の髪震わす少女(エディー)。この先々、来られたからには渇望(かつぼう)()(おど)らせ、白き肌が紅に変わる化学反応。


 女神の神殿(しんでん)──神が(みつ)()に堕ちる慧聖謔天(形成逆転)起こりうる。


「ルオラ、我が帰って来るのを…か、勝手に待つ…など」


 女神の威厳(いげん)如何(いか)に保つか、無駄な足掻(あが)きを()()()エディウスが言葉(にご)すも既に諦めベッドの上、涅槃に転じた(横になる無抵抗)


「だってぇ……私を置いて黙って出ていく()()()()が悪いのよぉ」


 涅槃(ねはん)の女神に甘えて無遠慮(ぶえんりょ)(すが)り付く(たお)やかなるルオラ。

 頭文字に()(かか)げた血の気数多(あまた)な女神をエディーと手軽に呼べるは、二人きりのルオラだけ。


 あくまで相手は動きを忘れた()()()()──。

 霊言(れいげん)あらたかなる女神の加持(慈愛)を求めたルオラの鮮やかな手先が慈悲(じひ)なき女神の()()()()に渡り旅する。

 女神像が何故か吐息()()()()(うごめ)く不思議呼び込む。


 弟子の前に堕ちた女神──蒼い瞳揺らぎ滲ませ独り(おぼ)れる。


 さも満足気な視線流し尽くして、ほくそ笑むルオラ。快楽(あふ)れる『仕置きの時間』だ。長い茶髪(ブリーチ)を白銀なる少女の上に垂らし川を流せば()()が震えた。


 ──ま、全く……わ、我も暗黒神の事をどうこう言えんな…。


 互いに神と呼ばれながらも所詮(しょせん)は人の子。他人の温もり(縋り付き)欲するただの人間。


「フフッ…可愛い私のエディー。独りで出掛けて収穫はあったのかしら?」


 甘ったるい声音ですら()で回すルオラの特権。無論旅路の(指先)は歩みを止めぬ。

 言葉を巧く言い表せないエディウスが如何(どう)にか語るべく必死に足掻(あが)くのだ。


「あ、あっ、あったぞ。し、然も想像…い、以上だ…」


 涅槃の女神(エディウス)が最初の御使い(ルオラ)(カラダ)任せ、初々しさを(うる)ませる。まともに語れていなかった。


「へぇ……どんな好い男が居たのかしら?」


 不意に()巡礼(じゅんれい)の旅路を休め、エディーの態度に心手向(たむ)けるルオラの(たわむ)れ。

 (指先)を止められ、白銀の大地が(さみ)し気に揺れる。

 切なさ(あふ)れた(けが)れなき少女の(あい)らしさが、またしてもルオラを歓喜(かんき)させた。


 ルオラの語る(性別)殊更(ことさら)意味はないのだ。

 一見いたいけな少女にしか見えぬエディウスが、争いだけを求む在り様の意図を彼女だけは知っている。信者に特段教えを解かぬ女神の本質を認知していた。


 エディウスはアドノス北東の端(カノン)に於いて、大層良さげな()()を見つけた。その歓喜を今の悦びに混ぜルオラに告げる。


 戦のみ追い求める白銀の女神──。

 彼女は人々を()()()()いるのだ。戦争の最中、進化を遂げゆく優良種を目覚めさせ己の(とりこ)と為すべく。


 執拗(しつよう)だが所詮(しょせん)ルオラは一番()()、エディウスを超越した()()無き()()()

 それを知った上で見た目可愛げしかなき少女を玩具として扱うルオラもかなり大概(たいがい)だと云えた。


 ◇◇


 再びカノン、ヴァイロとリンネが()()する森の家(ツリーハウス)


 未だ戦之女神(エディウス神)との争いの余韻(よいん)冷めやらぬヴァイロ。白い竜(シグノ)錬成(れんせい)式が書かれた紙切れと己が(した)森の女神(ファウナ)の残した書物を読み漁る本の虫。


 ドサッ。


 ──ファウナ、俺は一体どうすれば……。


 (らち)が明かずベッドに飛び込み横たわる醜態(しゅうたい)(さら)した暗黒神。神が従属(じゅうぞく)する女神へ心の奥底で教えを()うのだ。


 竜の創造性湧かぬ悩み処と一番弟子アギドが言い残した『俺にだけは全ての魔法を…』の(くだり)がせめぎ合う。

 アギドの主張とて良く判るのだ。なれど余分な力を与えれば、強敵を呼び込む危険を(はら)む。迂闊に目を閉じれば(まぶた)の裏側、例の悪夢が(よみが)る気分に怖じ気づくのだ。


 ギュッ。


「リンネ? 如何(どう)した?」


 ヴァイロ、ぶらりと下げてた右手をリンネに強く握られる。緑の瞳が今にも大粒の雨を降らせそうに思えた。


「ごめんヴァイ…やっぱり貴方を独り占めするの…良くないって思えた」


 リンネらしからぬ(つぶや)き、聞き耳立てねば(のが)しそうな(はかな)き声音。


「夜の戦いで良く判った、ヴァイロは皆の護り神。私独りで縛っちゃ……ッ!」


 涙(にじ)ませ自分の恋路が、皆の神様を独占する我儘(わがまま)感じたリンネの(つら)み。

 肩震わせた途端(とたん)、ベッドから跳ね起きた灰色の男(ヴァイロ)から背中を抱かれた。背丈高い男が小さな16の少女を包み込む。赤一色の瞳と黒に染めた服の(かいな)を少女に絡める()()()


 仮にこんな絵柄(えがら)を飾り付けた芸術品が在れば、吸血鬼に()かれ自ら(かせ)()ちた妖艶(ようえん)なる絡みに映るやも知れぬ。


「や、やだ。止めてヴァイ…私そんなつもりじゃ」


 泣きじゃくり愛し愛された神様から(のが)れようと躍起(やっき)になるリンネ、涙が床に散り往く。


「おぃ、それは悲しいなぁ……たった()()で俺達は終わりか?」


 穏やかに顔緩ませ首振りフラれる哀愁(あいしゅう)(ただよ)わす暗黒神の身勝手。一度切りのまるで愛など生まれなかった仮初(かりそめ)の関係を言い渡された様子に酷く(なげ)いた。


 加えて少々強引な引き(リード)で緑の瞳を此方に向かせ真正面から抱き直す、何とも人間じみた神である。


「だ、だってさ。あ、あんなことが、こっ、これから皆に降り掛かるのか……と」


 リンネ──この男は皆の守り手でなければならないと思った。


 ヴァイロの胸内で嗚咽(おえつ)漏らすリンネの悲哀(ひあい)。昨晩に続き甘ったれな暗黒神へ(めぐ)みをもたらすのだ。

 リンネを抱く両腕の力を心持ち抜き、深緑帯びた髪を伝い渡りて慈しむヴァイロの手が滑らかな首筋に触れ優しみ込め己を向かせた。


「何が戦之女神(エディウス神)だ、俺の()()はお前独りで充分。この腕、御覧の通り二本しかないんだ。生やせる魔術(Magic)なんて俺は知らない」


 ──お前を愛する為、俺はこの世に生を受けた。


 自分の女だと昨晩決めた契り(契約)。真っ直ぐ見つめ恋の()()を彼女に繋ぐ。続けざま、(くちびる)(うば)い取るあくどさ際立(きわだ)()()の神様。子供を自身へ落とし込んだ。


「う、うわぁぁッ! ヴァイィッ!」


 またしても少女を泣かせた悪い神様、心優しき暗黒神は、随分罪深き男なのだ。


 自身の胸元で(カラダ)揺らして涙に濡れるリンネ。

 ヴァイロから昨夜受けた絶望の霧が晴れ渡る。リンネの()()()()()に希望抱いた。


 独りヴァイロは思うのだ。──俺は欲深い男、護りたい者を総てやり抜いてみせる。何より(うるわ)しの声音が己の心(ふる)い立たす目前の女を捨てるなど出来ようものか。


「うっうっ……」


 未だ嗚咽(おえつ)止まらぬリンネを見ると心安らぐのを感じるヴァイロ。同時に根拠ない自信(みなぎ)る。竜の音(リンネ)の声は、魔法なんかより力の根源に生まれ変わるのだ。


「みえざる……ち・か・ら?」


 白い竜(シグノ)の錬成式、竜の形を成した傀儡(くぐつ)を造り出す()()()に落ちてた紙切れに書かれた言葉がヴァイロの脳裏をふと過ぎる。


「そ、そうかッ! リンネッ! お前だ、お前の力が本物の竜を生み出すッ!」


 リンネの腰を無遠慮に鷲掴(わしづか)み、突然宙へと浮かせたヴァイロの歓喜なる仕草。そのまま彼女を回して(はしゃ)ぐ。


「な! い、一体如何(どう)したってのぉ!?」


 ヴァイロの様子に驚きの大声上げたリンネ、最早普段通りの幸せが此処に()()した。

挿絵(By みてみん)

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