#3 Call to Death 死を呼ぶ着信
なんだよもう、.........くっそ、ついてねぇな。
昨日から、なにかがおかしい。
友人の賢治の見舞いに向かっている最中に、意味の分からねぇババアに遭遇するわ、そのババアに膝壊されるわ、碌なことがない。
しかも、今日になって愛用してきたスマホがブラックアウト。電源が付く気配が一切ない。
「しゃーねぇ....買い替えに行くかぁ......。」
ぼさぼさの長髪を搔きながら、ベットから起き上がる。
朝の支度を終え、さぁ、外出するか。行動しようとした瞬間。
拓哉の壊れたと思っていた携帯が鳴りだしたのだ。
「....え?」
さっきまでうんともすんとも言わなかったスマホが鳴りだして、一瞬呆気に取られた拓哉だったが、すぐにスマホを手に取った。
「非通知設定....?」
この時点で、嫌な予感はしていたのだが、好奇心が勝り、電話を取った。
「もしもし?」
拓哉の言葉に対して、電話先からの返答はしばらくなかった。
しかし、完全に無言というわけではなく、微かな吐息、電話先の後ろで擦れるような環境音が聞こえていたため、拓哉は苛つきながらも電話を切ることはしなかった。
しばらく経った後、電話先から微かに少女の声が聞こえた。
「.....たし、...私メリーさん、今関内公園前にいるの。」
「........はぁ?」
呆気にとられた。
しばらく思考が回らなかったが、徐々に厄介事に巻き込まれかけている状況を理解し始めた。
このメリーさんとやらが発言した、関内公園、それは俺たちの地元によくある、ガキのたまり場のような公園のことだ。電話先の後ろの方から微かに子供たちが遊ぶ声が聞こえる。実際、”関内公園”にいるのだろう。
「で、なんだ?いちいち報告してくる理由はあんのか?、気味悪ぃな、他人だろ。もう切るぞ。」
ちょっとばかし強めの口調で言ってあっちから切ってもらうほうがこっちも都合が良いからな、でも変に刺激したら不味いか.....?、というかだ。
こいつは只の不審者なのか?それとも、あの”ターボババア”と同じ類の奴らなのか.....?どっちにしろ面倒臭いのには変わりないが......。
拓哉は他3人と比べて、都市伝説等の知識が皆無と言っていいほど無く、現在立たされている状況において、不審者と都市伝説の見分けがつかないのである。
「.........ぐすん」
......泣いてる?
.....そういや、小さい女の子の声っぽかったな……。
いやでも、おかしいだろ………。
「………あー、すまん。悪かった。お兄さんが話聞いてやるから。ほらどうした?」
「.....うん、私メリーさん、関内高校前にいるの。」
少し背筋に寒さが走る感覚があった。
つい数秒前に関内公園前にいると言っていた少女の声が、次は1km弱離れた、関内高校まで移動したと告げてきたのだ。
ただ、そもそもこの電話先の少女が関内高校移動したという証拠はどこにもない、その思考が拓哉の脳裏に過ぎる前に、関内高校の名物教師、鬼の生徒指導、"タイラント"高橋の声が後ろから聞こえてきたのだ。
偶然にもタイラント高橋が関内公園にいるのか?それはない、今日は普通に学校があるからだ。生徒指導であるタイラント高橋は毎朝、校門前での朝礼を欠かさない。
…………瞬間移動?、あり得ない考えが浮かび上がる。
そんな拓哉の思考を置き去りにするスピードで少女は情報を更新し続ける。
私、今関内駅前にいるの、私、今役所前にいるの、私今、あなたの家の前にいるの。
気付いた時には、拓哉は背後を取られていた。
「私、メリーさん、今あなたの後ろにいるの。」
「正直今滅茶苦茶怖い。だから、一つお願いがある。」
メリーさんは首を傾げる。
「暴力は駄目だ。」
「そんなの、しないよ。」
拓哉は肩透かしを食らった。その勢いで振り向くと、140cmあるかないかくらいのゴスロリ着た少女がちょこんと立っていた。
子供のあどけなさが残ってはいるが、どこか淫靡で大人の色香も匂う顔立ちである。
「なんだよ、ただの不審者か。」
メリーさんは拓哉の安堵した顔を見て、表情に陰りを見せる。
「…………私は暴力振るわないよ、私は。」
怪訝な顔をする拓哉の背後に、強烈な殺意を持った男が近づく。
メリーさんの言葉に疑問を持った拓哉、背後の殺意を察知する。
が、半刻遅かった。
背後の男の一撃は拓哉の脇腹を捉え、抉るように打ち抜く。
拓哉の身体は浮き、吹き飛ぶ。
激痛が脇腹から身体全身へと伝播していく。
状況が読み込めない、あまりにも展開が早すぎた。
拓哉がメリーさんの電話を受け取ってから、吹き飛ばされるまで、この間僅か1分。
「おい、バカ女、また仕留めなかったなァ。餌取りを躊躇して、何になるんだよォ?おいィ゙!」
男は思いっきりメリーさんの頭を引っ叩く。
「……ごめんなさい。」
まただ。
何回目になるかは、もう忘れてしまった。
この男の言いなりになって、人を殺すのを。
私のような怪異と呼ばれるものでも、全てが全て人間を敵対視している訳ではない。
でも、圧倒的多数は人間を憎むものや、忌むべきものだと考えている。
私の起源は、ただこの世界にも"別の世界の者"がいることを知ってほしかった、という気持ちで人間に干渉を始めたのがはじまりだった。
そこから、私が都市伝説として語り継がれるようになったのは、………この男、"さとるくん"という名の都市伝説で知られている者のせいだ。
私は殺したくなんてなかった。
でもさとるくんは許さなかった。彼は過激な反人類主義者であり、人間を殺すことで自身の格が保たれると信じていた。
そして、私がそれまでに関わってきた人物を皆殺しにして、その死体で私のことを辱めたのだ。
それ以来私はさとるくんの奴隷となった。
彼は殺人行為のことも餌取りと呼び、悦楽のままに行っているのに頻繁に連れて行かされた。
そんな日常のなかで、徐々に壊れていく自分が余りに滑稽で、醜く、…………。
……… わかっている。
全てがさとるくんのせいではないことなんて。
幾らでも拒絶は出来る筈だ。
何故しないのか。
私は結局、自分の命が可愛くて、行動出来ない小心者なのだ。
「おい、回想は懲り懲りだ、お家に帰んなガキンチョ共。」
拓哉の拳がさとるくんの後頭部に落ちる。
一瞬たじろいださとるくんだが、即座に振り向き、大声を上げ襲いかかる。
「人間風情が調子に乗ってんじゃねぇっつってんだァ!!おいィ゙!!」
体勢も滅茶苦茶なテレフォンパンチ。
普通ならばダメージにもならないような威力、そう連想させる体勢だった。
しかし、その拓哉のイメージをぶち壊す激烈な一撃。
『痛ってぇ!!なんちゅう威力だ、洒落になんねぇぞ……!』
咄嗟にガードした腕にジワーッと青黒く内出血が広がっていく。
「………こんなもんか?さとるくんって。有名な割には高校生一人も殺せないとなると、名が落ちるんじゃないのか?」
こう煽ってみたは良いものの、次腰の入ったパンチを喰らうと、正直勝ち目は無くなるだろう。
虚勢で張っていないと、やっていられない。わずか2度の攻撃で拓哉はここまで追い込まれていた。
「どこの誰だか知らないがなァ、お前の右手、もう殆ど感覚残ってねぇだろォ?強がり辞めろってェ゙!」
さとるくんの姿が拓哉の目の前から消える。
拓哉は事態に動揺し冷静さを失う。
『嘘だろ、どこに消えた?、不味いぞ、次食らったら………』
拓哉の危険センサーが最大音量で鳴り響く。
咄嗟に身体を捩ったおかげか、左脇腹の肉を軽く抉られる程度で済んだ。
『今、避けて無かったら俺はどうなってた?』
急激に襲い来る"死"というイメージ。増大する恐怖心。
それらは拓哉の身体を硬直させるに容易かった。
『駄目だ、震えが止まらない……。でも……。』
拓哉は胸ポケットからサングラスを取り出し、装着する。
長髪をかき上げ、大きくため息をつく。
その場は少しの間、静寂の時が流れた。
「はぁァ?」
さとるくんがしびれを切らして口開いたその瞬間だった。
拓哉は机に置いてあったバイクのキーを取り、更にはメリーさんを担ぎ上げ、窓から外へと飛び出た。
「えっ、えっ!?なにしてるのっ?!?!」
拓哉のアパートは4階建て。
そして住んでいる部屋は、2階。
「気合いを入れたら、死にはしないさ。」
思いっ切り地面へ叩きつけられた拓哉だったが、少女の前だった為に、またもや強がりをみせた。
「………やめようよ、さとるくんからは逃げられないって……!」
「………なにも逃げるためにバイクに乗るわけじゃないぞ。」
「ど、どういうこと?」
「メリーさん、あんたが協力してくれるんなら、助かるんだが………いいか?」
「私が協力って………貴方がこんな目にあってるのは私が電話を掛けたからよ?!、………私は貴方の……敵なの。」
「敵、かどうかは今興味が無い。協力するかどうかを聞いてるんだ。さとるくんが好きか?なら俺一人でやるしかない。」
バイクの側面に着けたバッグからパイプレンチを取り出す。
「協力しないならここでお前をぶん殴って餌にしてさとるくんを撃退する。嫌なら………黙って付いてこい。時間がない。」
拓哉は依然として高圧的な態度を取っていたが、本人としては中身は得体の知れないものでも、ガワが少女である限り、迂闊に暴力で解決するという選択肢はできる限りしたくないものだった。
『あと、俺が一呼吸するまでに抵抗みせたら、………覚悟決めろ俺………。』
「………わかった………でも約束して。」
メリーさんが同意を口にした瞬間、拓哉はメリーさんにヘルメットを被せ、バイクを発進させた。
「約束事は走ってるついでに聞く!今は取り敢えず死ぬな!!」
拓哉の言葉を理解するのに幾ばくか掛かったが、背後から聞こえた叫び声から、強烈な殺意を感じ取り、メリーさんは理解した。
「………ってきてる!、追ってきてる!」
「わかってる!だから飛ばしてんだろ!しっかり捕まっとけ!」
「………あんた、携帯は?」
「は?」
「携帯は!?」
「俺の右のポッケの中だけど?!」
「馬鹿!!」
拓哉のポケットからハンドルへ向かい薄黒い手が伸びていた。
「嘘だろっ!」
さとるくんは物凄い握力で拓哉の右手を握り潰してくる。
「!!!離せっ!」
右手を必死に振りほどこうと振り回すが、力が強過ぎて振りほどけそうにない。
『どうにかなんないのか!?このままじゃっ………!』
右手を捨てる選択肢が拓哉の脳裏によぎった、その時だった。
拓哉の携帯電話に着信がなる。
その着信がなり始めたと同時に拓哉の右手を覆っていたさとるくんの手が消えた。
「………助かった。」
「いいの、私がしたかったことだから。」
「電話をかけることがか?」
「んなわけないでしょ!?、………さとるくんを止めることよ……。」
「あぁ……、というかどういう原理なんだ?」
「私が着信をしている間は、その受信相手のことをさとるくんは認識できないの、………まぁ貴方を守る事ができるってこと。」
「認識できないか、俺の事を認識できなくなったから位置も追跡できなくなって、スマホとの接続が切れたってことね...........。無茶苦茶だな.....。」
「それでもって最高で15分。」
「ん?、流石にずっとは無理って話か。」
「そう、それ以上は抑えきれない。.......足りないよね......こんなちょっとじゃ。」
「いや、充分。全然着ける距離だ。」
「??………ねぇ、どこ向かってるの?」
「なぁ、人を殺すってのは胸糞悪いか?」
「そんなの、聞かないでよ……。」
「答えてくれ。」
「……………、最悪よ。」
「最悪最低の奴でもか?」
「それでも、よ。」
「……なら俺のメンタルケア、よろしく頼むぞ。」
拓哉はゆっくりと、決意を固めた。
生き残る為に。