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9 恋の自覚

 夕闇の中を、リーリエを乗せた蒸気車両が進んでいく。

 行きと同じ道、見慣れた街を走っているにもかかわらず、リーリエの目には世界が煌めいて見えた。

 夕陽に照らされた空が見せる、短い軌跡の時間。その時間がずっと続いているような感覚に、胸の鼓動が止まらなかった。


 誰かに会いたくてたまらず、リーリエはその足でアスカのアルバイト先へと向かった。アスカはただならぬリーリエの様子にすぐに気づき、今日のことを根掘り葉掘り聞き出した後、うっとりとした溜息を吐いて、リーリエが受けた告白を喜んだ。


「それって両想いってことだよね!? ああ、夢みたい!」


「……両想い……」


 アスカの指摘に、リーリエは思わず胸を押さえた。


「そうだよ。リーリエは、アルフレッド様の話をするとき、すっごく嬉しそうにしてたからね」


「えっ? そんなに?」


「うん」


 今日まで自覚はなかったが、親友のアスカからは一目瞭然だったようだ。そうだとすれば、アルフレッドの急な告白にもそれなりの理由があるのかもしれない。


「最初は助けられて良かったとか、女神になれて嬉しいよねって思ってたんだけど、なーんか、そうじゃない気がしてたんだよね」


「……私、アルフレッドと絵を描くまで気づいてなかった……」


「まあ、恋って気づいたら落ちてるものって言うしね。それに、リーリエの気持ちは、言葉とかそういうもの以上に、絵に現れてるからね」


「絵に?」


「そっ!」


 問い返したリーリエに、アスカが大きく頷いて手を広げる。


「気づいてない? 最近のリーリエが描いてる絵、どれも太陽の光のモチーフが入ってるんだよ」


 そう言いながらアスカが示したのは、今朝リーリエがこの店に届けた注文のパネルだ。湖のバカンスのお供としてツナバーガーが描いたものだが、アスカの指摘どおり、太陽の光がこちらに向かって微笑みかけているかのような構成になっていた。


「ふふふ、そういうことだと思うな~」


 思わず目を見開いたリーリエの肩に身体を寄せながら、アスカがにこにこと微笑んでいる。


「で、どうするの?」


「まだわからなくて。結婚って言われてもすぐには決められなくて……」


「まあ、そうだよね。身分のことだって気になるし……って、ねえ、身分のことがなければ、どうしてた?」


 アスカの秀逸な質問に、リーリエははっと息を飲んだ。


「そういうことだと思うよ、リーリエ。もう家のこととか心配する必要もなくなったんだし、リーリエの好きに生きてもいいんじゃないかな?」


 そう言いながらアスカが片目を瞑って見せる。


「私の、好きに……?」


「そう。やりたいこと、なんだって出来るよ! もう自由なんだから」


「自由……」


 呟きながら改めてアルフレッドへの想いを自覚したリーリエは、熱くなった頬に手のひらを添えた。


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