プロローグ
「ミリア。お前は今日限りでパーティーを追放する。俺達『白銀の獅子』に荷物持ちしか出来ず、ろくに戦えない君はもうパーティーには必要ない!」
依頼を達成した後で、報償金の分配を冒険者ギルドに併設され酒場でしている最中にそう宣言するのは我がパーティーの『白銀の獅子』のリーダー『聖騎士』アレス。
「待ってください!今まで一緒に頑張ってきたじゃないですか。それなのに追放だなんて。それに、私は荷物持ち以外にもいっぱい頑張ったじゃないですか」
驚き声を上げるのは追放を宣言された『錬金術師』のミリア。
錬金術師という職業の特性もあり確かに戦いに向いてるとは言えないのは確かだがポーションの作成やダンジョンの攻略に役立つアイテムの作成、武器や防具の手入れや強化等の冒険の事前準備の段階では彼女が一番役に立っている。
それに長期間の旅やダンジョンの奥に進む時にはアイテムをその場で錬成出来る彼女の能力は必須。
正直、戦う事しか出来ない俺やアレスよりもパーティーにとって必要な人間だと思うのだが。
「頑張ろうがなんだろうが役に立たない人間を何時までも俺のパーティーには置いて置けないんだよ!いいか、俺達はAランクの冒険者になった。これからはSランクを目指す。そんな時にお前みたいな戦えないお荷物がいたら邪魔なんだよ!」
「お荷物だなんて。それにポーションを作ったりアイテムを錬成したりして役に立たなかったわけじゃ」
「ポーションなんて店で買えば幾らでも手に入る。他のアイテムも同様にな。そんなんで役に立ったなんて言うんならポーションを売ってる道具だって俺のパーティーの役に立ってる事になんだろうが。そんなんで役に立っているなんて言えないんだよ。だいたい回復するなら僧侶なんかを仲間にすりゃ良いだけだろうが」
「そんな………私は皆さんのために」
俯いてしまったか。
あれだけ頑張っていたのに否定されたらショックだろうな。
「お前達だってそう思うだろう」
「そうね。Aランクになってこれからって時にお荷物を抱えるのはごめんかしら」
「まっ、そうだな。お荷物を守る為に負担が増えていたからな。戦闘で邪魔にしかならない奴はいない方が助かる」
魔法使いのアイラが同調すればモンクのガイもそれに追従。
ふむ。
正直、かなり色々と頼っていた事を考えるとミリアがいないとこのパーティーは回らないと思うのだが。
「おい、グレン。何を黙ってるんだ。お前からもなんか言ってやれよ」
沈黙していた俺にミリアを追放する事に賛同を求めているのかアレスから声がかかるが十分役に立っていたと考える俺としては追放に賛成できない。
顔を上げてこちらを見つめるミリアにニヤニヤと笑いながらこちらを見るアレス達。
うん。
もう無理だな。
そもそも、簡単に仲間を追放する人間達とこれからやっていけるかと考えるとな。
「そうだな。とりあえずだがアレス、俺はこのパーティーを抜けるわ。ぶっちゃけ、お前らとこれからやってくの無理だ」
「はぁ?なに言ってんだテメェ!」
予想外の返しだったのかアレス達が驚きの声が上がる。
けどなぁ
「何を言ってるって言われてもな。仲間を簡単に追放するとかいう奴とやってくのは無理だと思っただけだが。それにミリアがパーティーのために頑張っていたのは見てきたからな。正直、追放するとかないわ~」
ぶっちゃけ、面倒だからと色々仕事を押し付けてた俺とかを追放するならわかるんだけどな~。
まぁ、俺は『暗黒騎士』だし。
聖騎士と暗黒騎士のいる異色のパーティーとか白と黒の騎士とかで話題になってたからな。
そういうの考えなかったんかもしれんが。
俺の言葉に顔を上げてこちらを見るミリアの眼が潤んでいる。
何気に好感度アップしてたりするの?
でも、努力してたのって普通にわかるしな。
冒険者でも内のパーティー実状を知ってミリアに同情的な奴がいるし、ミリアがいるから内は回ってるとか思ってる奴も普通にいるんだよな。
まぁ、それはそれとしてだ。
「な、ふざけんな!お前は役に立ってんだから抜けるとか認めるわけねぇだろ!」
「そうよ!そこの役立たずと違って貴方が抜けたら困るわよ!」
「そうだぜ。お前が抜けたら戦いが厳しくなる」
「つーてももう決めたしな。認められないと言われても抜けるのはこっちの自由だぜ」
ま、仲間ってよりも役立つ駒に対する発言って感じだからな。
やっぱムリ。
分配された俺の分の報償金を手に立ち上る。
「な、だったらその金は置いて置けよ。それにお前の装備なんかも俺らの物なんだからな」
「バカかお前?自分で得た金で買った装備がなんでお前の物になる。それに、この金は俺の働きに対する報酬だ。置いていく必要はないだろ。冒険者は臨時でパーティーを組むこともある。そん時に臨時で入った奴に同じ言葉を言うのか?自分の方がおかしいと理解しとけ」
会社や商会とかで働いてる従業員に雇用主が同じこと言ったら頭おかしいと思うだろう?
それはそれとしてだ。
「そんなことよりもミリアはどうする?」
「えっ?」
話を振られて戸惑うのはわかるが決めてもらわんとな。
「この後の話だ。このままコイツらにパーティーに置いてくれって頼むのかパーティーを抜けて俺と一緒に行くのか、それともパーティーを抜けて一人でやって行くのかだ。俺としては一緒にきてもらえる方が嬉しいのだが」
野郎が一人でやっていくよりも側に可愛い子がいる方が嬉しいしな。
「…………………あの、私が一緒でも良いんですか?」
「むしろ、ありがたいと思うくらいだな。ミリアがパーティーにどれだけ貢献していたのかは知ってるしな。付いてきてもらえたら助かるな」
「なら、お願いします。私も一緒に連れて行って下さい」
こちらの言葉をどう受け取ったのか涙を流して喜ぶミリア。
「了解っと。じゃあな、アレス。そんなわけで俺達は抜けるから。まっ、頑張ってくれ」
「ふざけんな!お前こそ俺のパーティーを抜けてやっていけるつもりか!俺のお陰でAランクまで上がれたんだろうが!」
軽く手を振ってアレス達と別れる。
背後でなんか言ってるがとりあう必要はないだろ。
パーティーを抜けたからには他人だし。
「じゃあ、行くか」
「ぇっ、あっはい」
後ろを気にするミリアの手を取りギルドの受け付けに向かう。
とりあえず、パーティーの離脱とかの申請をやらないとな。
それに新しいパーティーの申請も。
考えるとリーダーって俺がやるのか。
うわー面倒くさ。
まっ、しゃーないけど頑張るかね。