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10:価値観の違い

 私と伊瀬はふたりがかりで、適当な嘘の設定をでっち上げた。

 伊瀬は私のお母さん方のいとこで、大学の夏休みを利用してこっちに遊びに来た。大学4年生で22歳、これは嘘じゃないけど。私が明日キャンプに行くって話をしたら、どうしても行きたいってわがままを言うから、悪いんだけど連れてってもいいかな――などと。


「ちゃんと私が面倒見るから」

 手を合わせる私に、隣に座る伊瀬が微妙な顔をする。

「ペット飼いたいみたいな言い方すんな」

「いいから、伊瀬もちゃんと頼み込んで」

 逆に私が肘でつつくと、彼は一転笑顔になって手を挙げた。

「……テント設営もバーベキューも得意です。力仕事もやるんで、よろしくお願いしまーす!」

 その自己アピールが功を奏したか、柳もうれしそうに笑ってくれた。

「わあ、頼もしい! そういう人員大歓迎です!」

 どうやらうまくいったようだ。すかさず私は確かめる。

「いいの?」

「もちろんだよ。キャンプは大人数の方が楽しいもんね」

 柳がうなづいたので、これで伊瀬の参加が正式に決まった。

「ありがと! 前日に急でごめんね、柳」

 私はお礼とおわびを告げた後、もう一度伊瀬をつつく。

「ほら、伊瀬もお礼言って!」

「ありがとうございまーす」

 ぺこりと頭を下げた伊瀬の神妙さにか、柳はいっそうくすくす笑った。笑いながら言う。

「気にしないで、キクのいとこならみんなも絶対いいって言うよ」

 柳は二つ返事でオッケーしてくれた。


 主催の柳にさえ根回ししておけば、他のみんなもきっと大丈夫だろう。もともと伊瀬みたいな人がイベントごとで歓迎されないはずがない。本人の言うとおり、なんでもできる奴だし。

 これで明日のことは心配ないかな。胸を撫で下ろしかけた私は、ふと視線を感じてそちらを見た。

 棚井くんだ。

 仏頂面の彼が何か言いたそうに私を見ていて、目が合うと思いっきり逸らされた。

 気まずかった。


「ね、棚井もいいでしょ?」

 柳がそう言って、そっぽを向く棚井くんの顔を覗き込む。

 棚井くんは柳の顔は真っ直ぐに見返して、それでもそっけなく言った。

「別にいい」

「ちょっと、何その言い方。失礼だよ」

「俺は反対してない。男手が増えるのはありがたいし」

 少しとげのある口調で棚井くんは答える。

 それは異論があるというより、純粋に居心地が悪そうにも見えた。人見知りで、初対面の伊瀬がいるのが苦手なのか――それとも私が苦手って思われてるんだろうか。

 いつもこういう態度ではあるけど、反対されないだけ幸いだ。私は勇気を振り絞ってお礼を述べた。

「棚井くんもありがとね。えっと……その、土壇場で人増えちゃってごめん」

 頭を下げて、また上げた時にはもう、棚井くんは窓の外を見ていた。

「……うん」

 そして聞こえるか聞こえないかくらいの声で返事をしてくれた。

 やっぱり嫌われてるのかな。他でもない柳の幼なじみだから仲良くはなれなくてもふつうに接したいんだけど、いつもこんな調子だった。

「棚井ってば、ほんとに無愛想なんだから」

 柳が深く溜息をつく。


 社交的な彼女とぶっきらぼうな棚井くんは小中高とずっと一緒で、さらに今でも仲良しで、学校外でもご飯を食べ歩く仲だそうだ。

 水と油みたいなふたりに見えるのに、相性がいいってことなんだろう。

 棚井くんも柳にだけは気やすく話しているようだから、付き合ってるのかなって思ったこともある。というか、みんなそう思うのかよく聞かれるんだって過去に柳は言っていた。

『付き合ってるわけないじゃん。ただの腐れ縁の幼なじみだよ』

 そしていつも、柳はそうやって笑い飛ばしていた。


「ま、参加させてもらえるんだからありがたいよ」

 そこで伊瀬が取り成すように口を開く。

 いつの間にかオムライスは食べ終わっていたようで、お腹がしっかりふくれたからか物腰柔らかに続けた。

「キクのいとこで、しかも俺ちょっと年上だろ? 明らかに異分子だし接しにくいと思われてもしょうがないのにさ。ありがとな」

 こういう物言いはやっぱり大人だなって思う。

 高校時代の伊瀬なら、棚井くんみたいな人にはどう接しただろう。割と物怖じせずにがんがん話しかけていく人だったから、『なんでだよ仲良くしてくれよ』ってうざ絡みしてたかもしれないな。それだと余計にこじれそうだから、伊瀬が大人でよかったかもしれない。

 それで棚井くんはちらりと伊瀬を見て、柳はそんな棚井くんを見る。

「そんなこと思ってないよね、棚井?」

「……思ってない」

「そうそう、初めからそう言えばいいの」

 棚井くんが根負けした様子で答えると、ようやく柳も満足したようだ。まるでお姉さんみたいに深くうなづいてみせた。

「よかった。明日はよろしくな、柳さんに棚井くん」

 伊瀬の言葉に、柳だけがうなづく。

「はい。……あ、呼び捨てでいいですよ、伊瀬さん」

「じゃあ俺も呼び捨てで、あとタメ口でいいよ」

「え? でも……」

 それには柳も一瞬迷ったようで、私に目で意見を求めてくる。

 だから後押ししておいた。

「私もタメ口だし、年上って言っても三つしか違わないしね。伊瀬もそうするほうが気楽みたいだから、よかったらそうしてあげて」

「年上敬わないんだよ、うちのいとこは」

 隣で何か言ってる人がいるけどそれはスルーしておいて。

 だって敬うも何も、私の意識としてはまだ『元クラスメイト』だし――それも明日までにちょっと修正しておいたほうがいいかな。他の子にもいとこだって紹介しなくちゃいけないし。

 現在進行形で好きな人だってことも、ばれちゃいけないだろうし。

 ついでに気持ちの整理もつけられたらいいんだけどな。

「そういうことなら……甘えちゃおうか?」

 柳がまた棚井くんを見る。

 棚井くんは気まずげな顔をしていたけど、その返事を待たずに柳が、彼の頭に手を置いて無理やり下げさせた。

「なら改めて――私が柳で、こっち棚井ね。よろしく、伊瀬!」

 あわてて棚井くんがその手を振り払ったものの、柳はまったく気にしていないようだ。友達が多いのもうなづける、とびきりの笑顔を浮かべていた。

「ああ、ふたりともよろしく」

 そして伊瀬もいい顔で笑っている。

 前に思ったとおり、伊瀬と柳は似たところがあるなと思う。明るくて社交的で、初対面の人ともどんどん話せて。私とは性格も価値観も違って、そういうところがちょっとうらやましい。

 私も人見知りはしちゃうほうだし、苦手だと思った人とはうまく話せない。そういう態度が顔や口調に出ちゃってるんだろうとわかっているけど、棚井くん相手にはなかなか直せなかった。


 笑いあう柳と伊瀬を、棚井くんは何か言いたげに眺めている。

 その顔は少し複雑そうでも、やっぱり居心地悪そうでもあって、どんなことを考えてるのかなって少しだけ気になった。

 棚井くんも私と同じで、苦手な人とはうまく話せないほうなんだろう。

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