表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

壱話 乙女の覚醒は突然に

 ある日 あたくしは思い出した。

 前世の私はトラックから猫を庇って事故死したこと。

 そしてなぜか大好きだった乙女ゲーの世界に悪役令嬢として転生したこと。

 私はベッドから起き上がり呟く。


「ならば、そのように()きて死ぬだけの事よ」


 そして日課である早朝オーク狩りの為にネグリジェを脱いだ。



―――――――



「おはようございます、ゴリアテッサお嬢様」

「うむ」

「朝餉は猪の丸焼きを何頭お召し上がりになりますか?」

「一頭で良い。身体測定に向け体を絞る必要があるのでな」

「まあ!駄目ですよお嬢様、不健康なダイエットはお体に毒ですわ!!」

「そのような柔な体作りなどしておらぬ」



 朝食のメニューを聞くために女中頭のジャンヌが裏庭に顔を見せた。

 彼女から手渡された布でオーク狩りにより浴びた血を拭う。

 自領の魔物は屠り尽したので明日からは隣の領地に足を運ぶのもいいかもしれない。

 我がそんなことを考えていると、いつのまにか飼っている黒猫が足にまとわりついていた。


「にゃああん♪」

「サタンは本当にお嬢様が大好きですねえ」


 愛らしい鳴き声に先ほどまで私を諫めていたジャンヌも目じりを下げる。

 我は彼女にサタンと湯を浴びてくると言い残し黒猫を小脇に抱えた。

 猪の丸焼きは二頭準備しておきますからね、その声を背に私と一匹は露天風呂へと向かった。

 漸く朝日が昇り始めていた。 



―――――――



「さて、サタンよ」

「にゃ?」

「理由を申せ。なぜ我をこの世界に転生させた」



 幼き頃、裏山から岩を運び温泉を引いて作った露天風呂。

 それに浸かり我は濡れた床を舐めている愛猫に呼びかけた。

 サタンはなんのことかわからぬと首を傾げていたが、こちらがじっと見つめ続けるとふいに顔を逸らす。

 それはやけに人間臭い仕草だった。


「黙っていてはわからぬぞ」



 両手に湯を汲み顔を洗いながら私は告げる。

 サタンはゆっくりと湯船に近づくとまるで土下座をするように平伏した。


「お許し、ください……!!」

「怒ってなどおらぬ。ただ何故かと聞いている」

「命の恩人である貴女の願いを叶えたくて、この世界への転生魔法を使いました。だが呪われた身では、この命と引き換えにしても悪役令嬢にしか……」

「愚 か 者 !!」

「ヒッ、申し訳ありません、申し訳ありません!!貴女をヒロインにして差し上げられなくて……!!」

「そのようなことどうでもいいわ!(あたくし)が助けた命をそのような愚かな理由で投げ打ちおって……この馬鹿者が!!」

「ゴリアテッサ様……」

「だが、その忠義まことに大儀である…感謝する」

「ハハッ、有難きお言葉……グワァッ!?」

「何事だ!!」


 感涙に咽んでいたサタンが唐突に苦しみだす、湯を滝のようにこぼしながら我は立ち上がった。

 その目の前で小さな黒猫の体は大量の白い煙に包まれる。ただの煙ではない、強い魔力を感じる。


「小癪な!!」


 我は覇気でその忌々しい煙と湯気を吹き飛ばした。

 そして明瞭になった視界が捕らえたのはまるで宗教画の天使のように壮麗で美しい男だった。

 サタンか、そう我が呼びかけると輝くような顔で彼は微笑む。


「そうです、ゴリアテッサ様。貴女の猛き慈愛で数億年の呪いが解かれました。私の本当の名はルシフェル。輝きの天使です」


 これからは貴女の守護天使になります。そう告げるサタン、いやルシフェルに我は鷹揚に頷いた。


「悲劇の末路が待つ悪役令嬢であるこの身に天使の加護がどれだけ通じるかは判らないが、忠義は受けてやらねばならぬ」


 我がそう言うとルシフェルは有難きお言葉と真珠の涙を零しながら感謝した。大仰な男だ。


「くちゅん」

「ああっ、いけませんゴリアテッサ様。いつまでも裸でいらっしゃると風邪を引いて…は、裸!!」


 湯冷えした我が思わず小さくくしゃみをすると、慌てたようにルシフェルがバスタオルを持って駆け寄ってきた。

 しかしそれを我に手渡した途端に顔を真っ赤にして何事か呟くと倒れてしまう。

 岩に頭を打ち付ければ天使と言えど痛いだろうと倒れきる前にこちら側に引き寄せてやる。

 身長の関係で彼の頭が丁度我の胸の位置に当たった。


「な、なんと偉大で豊満なお方なのだ……」


 そうわけのわからないことを言いながらルシフェルは顔を真っ赤にして逆上せていた。

 そろそろ通学の準備をしなければならぬと我は思った。



―――――――


登場人物紹介


ゴリアテッサ・アイアンローズ

人気乙女ゲー「聖拳に散る薔薇」の登場人物の一人。悪役令嬢。17歳。金髪縦ロール。

身分が高いが暴力的かつ好色な女性で婚約者がいながら美形の男子生徒を侍らせ女帝のように学園に君臨している。

ゲーム内正規ルートではヒロインとの恋の戦いに敗れ学園の屋上から墜落死するが……?


サタン(ルシフェル)

本来「聖拳に散る薔薇」には存在しない人物。

生前トラックから自分を救ってくれた主人公の恩に報いる為命がけで魔法を使った。

結果肉体は滅んだが哀れに思った神の計らいで乙女ゲー世界に転生することになった。

普段は主人公の飼い猫だが、呪いが解けた今超絶美形の青年の姿にもなれる。その時はルシフェルと名乗る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がめっちゃオーク狩りするほど強いのに可愛いくしゃみなの好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ