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【最終回】 ~これからも~

 戦い終えたつわものたちが

 心休めて後日談

 いくさの果ては見えずとも

 恋の波乱はもとの鞘

 ひとまず納めて大団円


     7 これからも



 ──大浪区を襲った激戦から三日後──


 柔らかなピアノの旋律が聞こえる。

 司令室の椅子に深々と腰掛けながら、京香はその一音一音を味わっていた。


(いい音だ。思い切ってローラムド製にして正解だった。それに、アームもかなり改良されているようだ。いや……なにより見事なのは、やはり奏者だな)


 などと心の中で蘊蓄(うんちく)を垂れる。

 今使われているその最高クラスの電子ピアノは、京香からアーバロンへのプレゼントだった。美麻に頼んでそこに改造を加えてもらい、自分のインカムからも演奏を聴けるようにしてもらったのだ。


(私は結局、なにも出来んかったからな……)


 デスクの司令用PCを操作し、モニターに映った廃墟を見て溜め息を吐く。

 不測の事態が多すぎたとはいえ、あれだけの被害を出してしまった責任は自分にある。免職も覚悟したが、いまだ本部から沙汰が下る気配はない。

 まるで嵐が自分だけを避けて通り過ぎていったような気分だ。いてもいなくても一緒のお飾り司令官、とでも言われている気がする。

 それでも、気を滅入らせてばかりはいられない。ピアノの音色が示すとおり、あのお騒がせカップルが復活したのだ。今にまた、頭の痛む事件が起きるに決まっている。


「京香さーん、ハンコくださーい」


 真後ろからピアノに割って入った美麻の声に、京香は椅子からずり落ちかけた。


「あのなぁ。そのへんの課長じゃないんだぞ、私は」


「まぁまぁ、ここにドドーンと押してくれればいいですから」


 司令の苦言を笑顔で受け流しながら、技術主任は冊子をデスクに置いた。

 表紙に打たれたタイトルは『アーバロン総合強化計画』。


「たしかに、今回は火力や戦力バリエーションについて考えさせられる点が多々──ッてぇ、なんじゃこりゃぁ!」


 表紙をめくった京香がいきなり絶叫した。室内にいるすべての隊員が慣れた手つきでインカムを遠ざけた。

 京香が見入るページには、アーバロンとさらに二機のロボットが変形合体する、超巨大ロボの図案が描かれていた。


「いやー実は何かが足りないと思ってまして、ついに昨日、閃いたんですよ。そう、合体と変形! これこそロボットの醍醐味! やりましょう! すぐやりましょう!」


「阿呆か! こんな超絶大がかりな計画、ハンコくださいのひと言で実行できるとでも思ったか! 企画会議から始めろ! そして私も参加させろ!」


「えー」


 お騒がせカップルもそうだが、この超マイペース技術主任も戻ってきたのだ。京香の戦いの日々はこれからも続くだろう。

 それにしても、緊急事態ではないといえ、形梨参謀はどうしたのだろう。BIを見に、と言って格納庫へ行ったきり、なかなか帰ってこないのだが……




「以上のデータを()るに──」


 宇宙空間を映す会議場のなかに男の声が響く。


「こたびの被害拡大の最たる要因は、あなた方の判断ミスにあると私は断言します」


 突き付けられた男の言葉に、パリ本部の幹部達は押し黙った。


「戦闘による人的被害を避けたいのは理解できます。しかしマシーンなら、AIならば、ないがしろにしていいという思想は、私どもとは相容れません。それでもなお、それがこの地球人類の遣り方であると仰るならば、いずれは我々と敵対することにもなるでしょう」


 幹部達に動揺が走った。


「それは……脅しかね?」


 ようやく、ひとりが震える声で訊ねた。


「未来予想図ですよ。我ら銀河連邦では、ロボットに対しても人間と同等の、ロボ権ともいうべき人権が認められて久しい。この星のAI達もやがては人間と変わらない知性体──第二の人類となるのでしょう。もし、今後も我々の支援を受けたいというのであれば、せめてその程度の認識の広さは、持っていただきたいものですな」


「もとはと言えば、あなた達が地球に怪獣を植え付けたのが発端でしょう!」


「我々の撃墜した敵の侵略艦が、ですよ。星間戦争ではよくあることです。だからこそ私が派遣され、あなた方に真実と、彼らの侵略兵器である怪獣と戦う技術を伝えた。まぁ、私が巨大な宇宙戦士でなかった点は申し訳ありません」


「怪獣を操っているのは──」


 発言したのは幹部ではなかった。

 会議場のなかに現れた、別の人物だった。


「──あなた自身なのでしょう?」


「おお、お久しぶりですね。仁博士」


 森邸の地下に隠れ住んでいるはずの、コンピューター化した仁博士その人だった。


「この映像通信のなかに御自身を投影できたとは、相変わらずお見事です」


「話を逸らさんでいただきましょう。世界のなかでも日本にだけ集中する、前例のない強力怪獣。その出現のタイミング。そして、あなたがその日本支部にこだわり、関わり続けている事実。具体的な方法はまだ不明だが、銀河連邦は怪獣を使役する技術をすでに編み出している。図星ではないか、形梨参謀?」


 仁博士の眼が、形梨を射抜くように睨む。


「その質問への解答は、確固たる根拠の提出を待つ意味でも、今は保留と致しましょう。ですが、銀河連邦から派遣された観測者として、日本支部が我々の理想に近づきつつあるということは、お伝えしておきます」


 仁博士の眉間に深い皺が寄った。


「試しているのですか? 彼らを」


「そういうことです。しかし……」


 形梨は言葉を切り、溜め息をついた。


「まったく致し方ないことに、私はあのお二人のことを随分と好いてしまいましてね。ついつい甘やかしてしまうのです。それに、試練と罰しか与えない、この星の神のようにはなりたくありませんから」




 第二格納庫内は今日も流麗なメロディに包まれていた。

 アーバロンの装甲はもとの輝きを取り戻し、その内部も完全に修復されていた。

 快晴が危惧していたマイクロ波による電子頭脳への影響も、まったくなかった。

 そもそも、アーバロンのレーダー装置が頭部に備わっているため、ごく近い場所にある電子頭脳には万全の防止措置が施されていたのだ。

 結局、あの雨上がりの疾走と焦燥は、アーバロンのことを知り尽くしたようでいて実はそうではなかった快晴が、ひとりで喚いていただけだった、というわけだ。

 その直前の、アーバロンの思わせぶりな発言も誤解に拍車をかけたわけだが、その件を本人に問いただしてみれば──


 『悪い冗談、というつもりではなかったのですけど、ちょっとからかってみたくて。ごめんなさい。もうしません。人>_< )ユルシテ』


 と答える始末である。

 終わってみれば(悔いはないとはいえ)恥ずかしいことだらけだった。

 とくに一世一代の告白を支部の全員に聞かれていたなど、思い出すたびに、穴があったら入りたい気持ちになる。

 そういうわけで、今日もまた快晴はアーバロンの頭のなかに籠もっていたのだが……


「あ……あ、あー……ッ!」


 PCから思わず眼を逸らして、快晴は悶えた。顔が真っ赤に染まり、胸がバクンバクンと跳ねる。


『快晴!? 快晴どうしましたッ? 大丈夫!?』


 頭のなかで響いた悲鳴に、アーバロンはピアノを弾く手を止めた。


「いや、大丈夫、大丈夫なんだけどね……」


 モニターに映っているのは、快晴がいつぞや、アーバロンの頭脳から入手した謎の文字列だった。

 当初は仁博士独自のプログラミング言語かとも思ったのだが、アーバロンがプログラムで動いていないことは先日わかった。

 なら、この文字列自体に意味はないのか。

 そのときふと快晴の頭によぎったのは、“文字に捕らわれすぎではないか”という考えだった。

 文字そのものに意味はない。

 その心当たりから、全文が表示されるサイズにフォントを縮め、総文字数の平方根を割り出して、ちょうど正方形になるよう体裁を修正したところ、これがビンゴだった。


「ソラ……これ、きみが……?」


 自分の開いているウィンドウがアーバロンにも見えるよう、設定を変える。


『え……! ええええ! 私、いつの間に、こんな……!! あ⊂hsb;なうpps;40vjvsmfjskfl;;h」』


 描いたはずの本人がパニックを起こした。


 それはテキストで描かれた絵──アスキーアートだった。

 しかも、鉛筆による細密画を見ているような逸品だ。

 夢のなかでか、空想か、いずれにせよ無意識の産物だったのだろう。それを、たまたまあのとき、快晴が掘り起こしてしまったのだ。

 だがアーバロンも快晴も、それを誰かに見せたいとは思わなかった。


 モニターのなかでは、同じサイズで描かれた二人が熱烈なキスを交わしていたのだ。




    『ARBARON ~恋人はスーパーロボット~』 了

 『ARBARON ~恋人はスーパーロボット~』はこれにて完結となります。

 読んでくださったみなさま、まことにありがとうございました。

 よろしければ評価・感想・レビューを、お気軽に送ってくださいませ。


 では、またいずれかの話にてお逢いいたしましょう。(^_^)ノシ



・以下、作者のながーい雑感。


 本作は「“ロボっ娘”というが、ヒロインがガチのスーパーロボットだったらどうなるだろう」という思いつきから書き始めたものでした。

 ヒロイン自体がかなり特殊なので、ロボットの設定およびストーリーの根幹はシンプルにしたつもりです。

 また、“すべてを書き終えてから連載してゆく”タイプの作者にとっては、初めてのリアルタイム更新作品となりました。おかげで作者自身にも予想外の展開や世界観の広がりを遂げた点もあり、そのたびに「これ、どうやって話畳むの?」と唸りながら続きを考えた場面もありました。

 また、多少の謎、伏線紛いの要素が残る結果となりました。これは上の状況を畳みきれなかった結果でもありますが、同時に“未解明要素の残る作品”に多く触れてきた作者の“性癖”が出たとも言えます。

 はたして、これらが解決する続編を書くのか。それは、この後書きを書いている2021/10/17現在の作者には判りません……(^_^;)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ARBARONがスーパーロボットしているところと女性人格AI [気になる点] AIとの恋愛は、お互いちょっとかわいそうな感じ [一言] 仁博士は引き籠ってないでもっとがんばるべき
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