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第1幕 快晴 ~ロボには名前が必要だ~

 怪獣という未曾有の脅威が現実のものとなり、ついに〝極秘〟というベールを脱いで発進する超AI搭載型スーパーロボット《G10Q》と、無人戦闘機《GF三九》部隊。

 しかし、世界を守る使命を帯びたそれらの前に立ちはだかった最初の壁は、その〝ややこしすぎる名称〟であった!


「G三九、全機発進準備完了!」


 モニターのひとつにかじりついていたオペレーターの一人が叫んだ。


「なに? もうリフトが着いたのか!?」


「いえ、G10Qの方ではなくて、G三……失礼しました、GF三九です!」


「よし、G10Qに先行して全機発進!」


 飛鳥の号令で、山麓を映した映像に変化が起こった。

 緑の斜面が真っ二つに割れ、山を穿つ滑走路が現れたのだ。

 そして、その奥から次々に銀色の翼が飛び出し、大空へと舞った。

 GF三九──G10Qとは異なる怪獣対策理論から造られた戦闘機である。


「全機発進完了、姿勢安定、速度マッハ2。五分後には現地に到着する予定」


「了解した。目標が見えたら知らせよ。G10Qはどうか?」


「まだ……全体の三分の一くらいです……」


 ロボの発進状況を見守っていたオペレーターが暗い声をモニターに落とす。

 司令官も深々と溜息を吐いた。


「この際だ。技術主任」


「はい」


「G10QとGF三九のコードネームはまだ決まっていないのか? 正式名称というか開発コードが微妙に似ているせいで、現場での言い間違いが頻出ひんしゅつしていて困る」


 自分も間違えたことは棚上げである。


「致し方ありますまい。競うように開発が進められた別プランの兵器ですからな。似せる気がなくとも、製品の型番など、どこかしら似てくるものです」


「仕方ないで済まんから、今どうにかしようとしてるんだろうが。で、技術主任……職員から名前を公募していただろう。選考係はお前だったはずだ。なにかいいのはなかったのか?」


「すみません。それが全然、選ぶ余裕がなくって」


 技術主任が心底から申し訳なさそうに答える。


「先々週のことだぞ? 訓練やミーティングだって四六時中あったわけじゃないし、選考係のための時間も割いていたはずだ」


「だって、G10QとGF三九のぶん、あわせて三〇〇通も来たんですよぉ! 一次選考すら終わってないんです!」


「三〇〇……」


 盛大な溜息をついて司令は天上を仰いだ。


「待て、うちの職員は総勢百二〇人。全員がロボと戦闘機ぶんに応募したとしても、二倍して二四〇……」


「明らかに……多重応募してる者がおりますな……」


 参謀がフフッと笑う。本気で面白がっているのか、それとも苦笑いか。


「一人一通までと明記したはずだが……匿名公募にしたのが間違いだったな。この件が落ち着いたら、全応募の筆跡を鑑定して不埒者を処罰してやる」


 インカムを通して、何人かの職員の「ひっ」という小さな悲鳴が聞こえた。基地内の共同回線であるため、発信者の数と正体は不明だ。


「そういう意味では、紙での投票にして正解でしたな」


「──なんて推理ごっこをしてる場合じゃない。ええい、もうこの際だ美麻、お前が考えろ──今だ」


「ええ、私がですか!? せっかく公募までしたのに、それはひどいんじゃ……」


「お前は奴の責任者で、なおかつ生みの親の後継者だ。名付け親になるなら誰も文句は言うまい。いや私が言わせん!」


 最後のひと言は、その会話を聞いている全ての人間に向けられていた。


「え、でも……」


「緊急事態なんだッ! このままでは作戦指揮に支障をきたす!」


「そ、それだったら司令官が付けちゃった方がいいんじゃ……」


「私に任せていいのか? それだったら天空の天に蒼穹の穹で《天穹てんきゅう》という名前にしてやるがどうだ!?」


 たちまち、二人の通信にもの凄い数の「ぶーぶー!」というブーイングが割り込んでくる。

 さきほどの悲鳴と同様、どこから飛んできているのかは分からない。


「ほれ見ろ!」


「あ、その名前、公募の中で見ました。京香さんだったんですね……」


「言うな! 忘れろ!」


 戦艦みたいで堅苦しいが、開発コードと音も一緒だし、ひょっとしたら採用されるかもしれない、と冒険してみたかった司令官である。


「ともかく、お前が決めろ! どんな名前でもいい!」


「あ、はい。えっと……じゃぁ、えーっと……」


 美麻は思わず室内を見渡した。

 作業机の上、書棚、壁、天井、ここにはG10Qに関するすべてが揃っている。

 自分のひと言が、あのスーパーロボットの名を決めるのだ。あとから悔いのないようにしたかった。そのためには、やはりその体を表すような名を送るしかない。


 美麻の目は最終的に、二つのものを捉えた

 ひとつは、机の隅に趣味で置いたフィギュア──有りし日にテレビで観た特撮のスーパーロボットだ。

 丸みを帯びた胴体はロボというより、手足を長くしたQP人形。色は「配色? なにそれ美味しいの?」と言わんばかりに、頭のてっぺんから脚の爪先まで真紅一徹。

 だが、それが幼い美麻にロボットへの夢と関心を抱かせた、思い出のヒーローだった。その存在がなければ、今の自分もなかったかもしれない。


 そして今ひとつは壁に飾った絵である。これも思い出の品だ。

 アーサー王物語の一節──アヴァロン島で最期を迎えるアーサー王と、彼を看取る乙女らを描いたものだ。

 名のある絵の複製画だが、美麻にとってその真贋しんがんは重要ではない。

 これは彼女がロボット工学の師から譲り受けた品であり、二人にとってかけがえのない人が、もっとも愛した絵だった。

 その人は今、フィギュアの横で静かに微笑んでいる。

 美麻と師と彼女、三人で撮った唯一の写真だ。

 そして、美麻の中にひとつの名前が生まれた。

 ちょうどその時、オペレーターがロボットの動向を告げた。


「G10Q、カタパルト到達。発進準備よし」


「美麻!」


 司令が叫ぶ。


「大丈夫。決まりました……これ以上ない名前が」


「よし、発進の号令はお前に託す。その名前を叫んでやれ」


「京香さん……ありがとうございます! では……!」


 スゥ、と美麻は息を吸って、止めた。


「アーバロン! 発進!」


「あ……!? あああああーばろんんん!?」


 何だその名前は、と言いたげな素っ頓狂とんきょうな叫びを上げる司令官の目の前で、巨大スクリーンが今まさに基地から大空へと飛び出してゆくスーパーロボット、アーバロンの姿を映し出した。


(でも、一人はつらいよなぁ。頑張ったって、俺には観客どころかセコンドだっていないんだし)

                  (──地震?)


「目標、市街地中心部に出ます!」

「衛星からの映像を確認しました! これは……ッ!?」


 「うわああああ────ッ!?」


            「え……ロボット?」


次回:『そのころ肝心の主人公は』

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