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第3幕 風雲 ~怪獣にも名前が必要だ~

 快晴はついに、対怪機構隊員として初めての実戦を見る!

 しかも、まったく新しい怪獣!

 しかし怪獣と戦うよりも前に、司令室は別の脅威に対処せねばならなかった。


 それは、怪獣にもそろそろ名前が要るんじゃないか、というものだった!!


「状況を知らせぇーい!」


 司令室に入るなり戦国武将のような気迫をみなぎらせて京香は叫んだ。なぜか声も若干太い。


「目標は円山つぶらやま山頂近くに出現。現在は外界への適応のため、活動休止状態と思われます」


「円山? たしか活火山だったか?」


「ええ。去年から活発化が見られ、警戒レベルが〈2〉に引き上げられています」


 京香のつぶやきに、形梨が応える。ちなみに噴火警戒レベル2は『火口周辺規制』。


「衛星カメラの情報分析出ました。火口周辺に小規模の噴火を確認。怪獣はマグマ流に乗って地表までやってきた可能性大」


「気象庁に伝達。怪獣の活動、あるいは今後の戦闘の経過如何(いかん)では大規模噴火の可能性もあるとな」


 京香の指示を外部担当オペレーターがすぐさま実行する。


「GF部隊、発進準備完了」


「アーバロンはいまだ格納庫から動いていません」


「GF隊先行して発進! アーバロンはそのうち動く!」


 たったいまその格納庫から帰ってきたのだが、発進が遅れている理由は省いた。起こってしまったことを、ここであれこれ言いふらしたところで、なんの益もない。

 ほどなく、戦闘機部隊が次々に発進していった。そのうちの一機のカメラ映像が司令室に回され、モニターの一角に空と大地が映し出される。

 さらに、別のカメラにも動きがあった。


「衛星、目標を捉えました。モニターに拡大します」


 正面の大画面に岩肌の斜面が映し出される。

 白い煙のなかにその姿が見える。

 ざわ──室内が静かなざわめきに満ちた。

 鳥のようでいて、鳥ではない。

 背中に畳まれた大きな翼の反対側には、無骨にも三角座りをするように縮められた手足があった。


(悪魔……?)


 それが京香の率直な感想だった。

 これで頭部が角の生えた人間のようだったら完璧だろう(そこはなんとか鳥頭だった)。


「有翼型は世界初ですな」


 司令室の緊張を形梨が代弁する。


「最初のやつといい、日本支部は先例だらけか」


「怪獣大国ですからな。あちらも花を持たせてくれているのでしょう」


「要らんわ、そんな花。目標接触まであと何分か?」


 参謀の冗談をやり過ごしてオペレーターに問う。


「およそ七分三〇秒です」


 京香は腕時計を見た。

 サイレンが鳴ってからアーバロンが出撃可能になるまで六分四七秒(本人談)。すでに三分が経過しているため、残りは早くとも三分半。

 アーバロンの速度なら五分で現地に到達出来るだろうが、合わせておよそ八分半。もし怪獣が覚醒した場合、合流までの一分、いまだ火力不足を解決出来ていないGFだけで、未知の敵を抑えられるだろうか。

 いずれにせよ、今は待つほかない。こういう待機時間が、京香はいちばん苦手だ。


「致し方ありません。司令、今のうちにひとつご相談が」


 なにが仕方ないのか不明だが、京香は心を読まれたように感じた。そんなにイライラが態度に出ていただろうか。


「なんだ?」


「あの怪獣、名前はいかがします?」


「は?」


 そのまま、司令室にしばしの沈黙が流れた。

 オペレーターたちも、司令官と参謀の話の行方が気になっているようだ。


「いえ、じつは今までなにかが足りないと思っていたのです。そう、怪獣に名前がない」


「待て、今まで出現した怪獣にはもう、それぞれ識別用コードがすでに振られているだろう?」


「ええ、そうなんですが、今回の個体が出現する前に、皆と話し合っていまして。最初のでしたら『JP001:B/R』──『日本に出現(Japan)した一体目(No.001 )二足歩行の(Bipedal)爬虫類型(Reptiles)』。これはこれで悪くありませんが、こういう型式名が増えてくると有事の際、また当初のG10QとBF三九のように混乱するのでは?」


「う……ッ」


 当を得た言い分に、京香は反論できない。

 正直、最近ではアーバロンとBFの名に慣れすぎて、形梨の言った型式名を忘れていた。


「現に、北米や欧州でも怪獣固有名は採用の方向で検討されているとのこと。型番で困るのはどこも一緒ですな」


「しかし、名前をつけるといっても方法はどうする? 今から基地内で公募するわけにもいかんだろう」


「ええ、ですので今回はひとつ、司令官の鶴の一声で決めてただこうかと」


「はぁ!?」


 素っ頓狂な京香の叫びがインカムを通して全職員に伝わった。


「私でいいのか? お前ら、前回の命名騒動の折り、ドサクサに紛れて私の案に飛ばしたブーイング……忘れたとは言わさんぞ?」


 語末に思いっきり殺気を籠める。

 無線の向こうから数名ぶん、電波に乗って明らかな緊張が伝わってきた。


「まぁまぁ、そのあたりのご不満も、どうかこれでひとつ納めていただくということで」


 司令の殺気もどこ吹く風、飄々とした参謀には馬耳東風、豆腐に釘、いやぬかに釘。京香も呆れるほかない。


「さてはお前、り成し役を買って出たな?」


「バレましたか。致し方ありません。上と下との信頼関係を意地するために、あえて緩衝材となるのも参謀の務め」


 それは参謀の仕事ではないだろう、というツッコミを京香は喉の奥で止めた。売り言葉に買い言葉ではないが、いったんこの参謀との掛け合いが始まると無理矢理打ち切らねば、いつまで経っても話が進まない。


「私が決めていいのだな?」


「ええ、ぜひとも怪獣らしいのをガツンと」


「か、怪獣らしい……?」


 三文字にしてラで終わばいいのだろうかと思いつつも、京香はモニターに映る敵の姿を、目に焼き付けるように注視した。

 最初に抱いた印象では、悪魔……いや、それは大仰過ぎるというものだ。それに頭は鳥だし、《デビル》ではあまりにストレートだ。

 なら、最後をラにして《デビラ》──ないな、と即処断。

 ここはやはり、鳥と人が合わさったような姿から連想して──


「ガルーダ!」


 ビシッと指さして命名する。

 インド神話の神鳥の名だが、これ以上のものはあるまい。


「あ、それはいけません」


「なんでだァ!?」


 我ながら格好よくキメたところをサクッとくじかれ、上擦った怒号をあげてしまう。


「ガルーダあるいはガルダは、南アジア支部の主力戦闘機の名前に採用されておりますので、支部違いといえど味方の名を怪獣にも用いるのは控えた方がよろしいかと」


 ぎりぃ、と京香は奥歯を噛み締める。

 悔しいが一理、いや九理はある。


「なら、カルラでどうだ」


 迦楼羅かるらはいわばガルーダの和名。インドの信仰が日本の仏教に取り入られる過程で名を変えたものだ。

 これなら、さすがにどこの支部も使用していまい。


「カルラ、はてどこかで聞いたような」


「該当ありました」


 形梨の疑問に、オペレーターの声が被さる。


「カルラ・カッラ。南ヨーロッパシチリア支部の作戦司令官です」


「人もダメなのか!」


 そう言ってる自分でも、内心では「まぁダメだろうな」と思う京香である。

 なにぶん対怪機構では、怪獣は人類共通の敵として認識している。そんな存在につけていい人名などあるはずがない。


「致し方ありません。ここはカルラをもとに語句を少し変えてゆくのはいかがでしょう。例えば濁点をつけるとか」


「……ガルラ?」


「悪くありませんが、昔そんな怪獣がテレビか漫画にいた気がしますな。伸ばし棒もどこかに入れてみては?」


「……ガールラ」


「それです。検索、どうでしょう?」


「該当無し! いけます!」


「命名ガールラ。よろしいですかな司令?」


「あ、ああ」


「『JP005:分類未定 名称:ガールラ』。対怪機構マザーバンクに登録しました」


 ワーッとインカムに歓声がなだれ込んでくる。世界に先駆けて日本がつけた怪獣名第一号誕生の瞬間に全職員が沸いていた。


(鶴の一声って、なんだっけか……)


 ひとり、喜ぶに喜べない京香であった。

 結局はうまく参謀に誘導された気がする。


「アーバロン、発進準備完了!」


「ようし、アーバロン発進! 以後、作戦終了まで怪獣談義は私語とみなし処罰の対象とする!」


 渡りに船とばかりに、命名騒ぎをお開きにする。

 無線機が静まりかえると当時に、スーパーロボットが大空に飛び立った。

 その直後、美麻のオフィスに直結する扉が開いた。

       「何をしに来た!?」


「追い出されてきました!」


           「致し方ありませんな」


   「GF四番機、大破!」


  「BFのデータチェック! 確かか!?」


        「二時の方向にヘリ!」



次回『空の大怪獣』

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