第二話 灰色の空 (2)
人はその恩恵を享受するにあたって夢をみるという。
夢は幻影を映す鏡であり、幻影は堕落の源流を成す。
全能感が支配する背徳の世界で悦楽に溺れる人々の姿は、滅びへと歩む時代の象徴だ。
道理を心得ぬ子供が親の優しさを侮るように。
あるいは、半解の哲学を誇らしげに語る知恵者のように。
他者との関係を希薄にする大気が、獣の性質を定着させてしまう。
生きるための本能は穢れた観念にすり替えられ、人間が人間であるために不可欠な陶冶を排他している。
清浄を好む天地の意志は、この醜態を決して見逃しはしない。
人という種の限界を引き上げるべく、ごく当たり前に神々は降った。
我は諸々に清浄なる言霊
至純なる自由を与えん
よりて人は神に近し
されど禽獣に陥り易し
神意に寄らぬ青人草
中心の不浄を感ぜしむる
あはれなり
穢れた顕明に気吹き放ち
神謀りを以て神性開顕を為さん
啓示を受けた民たちは神の代理人として夢を司る。
救いのない世界を救うという大義を、祓の儀式によって実現するのだ。
己を戒めぬ愚者に神の審判を。
背負いきれない咎の決着を自らの手で。
憂国が奏でる音色は風となり、混沌を介して真実を見極めるだろう。
それはあらゆる陵辱を拒む、最も純粋な願い――
されど人は神になれはしない。
夢に取り憑かれ、いつまでも過ちを繰り返す感情の下僕だ。
人間という不自由な器に入ったまま存在の高みを目指す悲壮を、物言わぬ男の瞳は語っているように思える。
夢はどれだけ実現しようとも夢でしかなく、現実に反映されることはありえないのだと。