異世界対応のネットスーパーが凄い ~やりすぎ制裁で都市伝説なう~
「なんじゃこりゃ?」
ブラック企業で過労死しかけた俺、「伊熊 修太」。
現在ニートで、就職活動の前のモラトリアムを満喫中。
そんな俺だが、とある田舎にあるアパートの自室で目を覚ますと、なぜかゲーム画面のようなものが見えるようになっていて――みょうちくりんな、スキルとやらが使えるようになった。
理由は聞くな。俺が知りたい。
俺が使えるようになったのは、『ネットスーパー』という、買い物スキル。日本円で色々買えるって訳だな。
最初は「なんだよ。スマホで十分じゃねーか」と思っていたが、こいつは俺の予想を遙かに上回るスキルだった。
なにせ、こいつで買える品物って言うのが異世界の商品だったからだ。
異世界の、マジックアイテム的な物が買えるんだよ。
これを知ったとき、俺のテンションは一気にマックスになったね!
男の子の夢、剣と魔法のファンタジーが目の前にあるんだからさ!!
と、言う訳で飼ってみました。
「たくさん食えよー」
アパートの中で飼育しているのは、定番モンスターのスライム。
このスライムはちゃんと『テイム』スキルで契約済みなので安全だ。
スライムはガラス以外のものなら大概食べてくれるので、ゴミ捨てにいく手間を省いてくれる。プラスチックゴミも食べてくれるので、こいつがいれば世界を悩ませるゴミ問題、プラスチックによる海洋汚染が解決するんじゃ無いかと思う。俺はやらないけど。
テイムスキルを考えると赤字に見えるけど、スライム単体で考えると本当に安い買い物だったと思うよ。
テイムスキル自身、成長すればもっといろんなモンスターをテイムできるからね。
スキルは安いのから高いのまで買えるけど、『テイム』はお値段5万円。
スライムは1匹100円だった。
これが安いか高いかは、人次第だと思う。俺は安いと思って買った。他にも『料理』『調合』『錬金術』とか、いくつもスキルを買ってある。
通帳には、過労死寸前まで働かせた会社からふんだくった慰謝料と見舞金があるので、わりと余裕があったんだよ。
思わず衝動買いしてしまう程度には。
スキルは使い続ければ成長するし、早めの投資と思ってかなり残高を減らす事になった。
ただ、魔法スキルは軒並み高く、一番安かった『生活魔法(50万円)』だけで、『光魔法(500万円)』とかは買えなかった。
『魔力増大』に至っては2000万円とかふざけた金額である。
……車よりたけーよ。手が出ないよ。貧乏人をあざ笑いやがって。
ま、利便性とか考えたら、妥当な値段なんだろうけど。
ある夏の日の夜、俺は花火大会に出店していた。
この日までに『料理』スキルを鍛えた俺は、飲食店の経営者になっていた。オーナーシェフという奴だ。
開店半年でそこそこ人気のある店になっている。
しかしそれでも出てしまう残飯処理でスライムもご満悦であった。
地元のイベントである花火大会は当然のように地元から人気のある店に出店依頼を出し、俺も出店間もないとはいえ、人気があるからとお声がかかったのだ。
テキ屋を排除したいという事らしい。
「はい、特製ライスプレート2皿で1200円ね。あ、ドリンクサービスもあるよ」
「ありがとー。うまそー」
「いただきまーす」
出店のメニューはこっそり異世界食材を少し使い費用を抑えている。
異世界で出回っている一部の食材は、日本のものより安くて味が良い事があるのだ。ならば使わない手はない。
『ホーンラビットの胸肉(1kg300円)』
鶏胸肉と混ぜて使うと、意外とバレないので重宝している。
なお、モンスター肉を食べると一時的に、数日間ぐらい体の調子が良くなる。
おかげで俺の店は『健康に良い』と評判だ。
ほんの僅かしか効果が無いとは言え、その僅かが明暗を分けるスポーツ選手が試合前に験担ぎに来るようになるのは、もう少し先の話だ。
そうやって俺が出店で頑張っていると、急に大きな、悲鳴のような声が上がる。
「ひったくりだ!」
「どいつだ!?」
「捕まえろ!!」
倒れた年配の女性、駆け寄る善良な誰か。
そして、逃げる犯罪者。
俺の目が、悪党を捉える。
「やって良し。ちょっとなら囓っていいぞ」
俺は小声で、足下の護衛モンスターに指示を出した。
そこにいるのは『シャドウストーカー』という、影できた魔法生物系モンスターだ。
魔法以外で退治するのは非常に難しく、目立たない事から護衛として普段から連れ歩いているのだ。
俺が指示をすると、黒い影が地面を這うように動き、逃げようとする犯罪者の足を捕まえた。
犯罪者は足を掴まれた事でバランスを崩し、顔面から地面に激突する。そして、影に足首から先を丸ごと食われ、絶叫を上げた。
声からすると、あの犯罪者は大学生ぐらいの若い男であった。
……しまったな。
ちょっとの範囲が大きすぎた。
理由はなんであれ、人の物を奪って逃げるような奴である。
足を食われた男に一切の同情はしない。自業自得だ。
ただ、事件が大きくなりすぎるだろうなと思い、その事だけに頭を痛める。
しかし、それでも被害者女性の荷物が盗まれずに済んだのだ。
俺は戻ってきた荷物を抱え、涙を浮かべて安堵する女性の姿を見て、自身の判断が間違いではなかったと思うのだった。
あのひったくり事件は、犯人が足首から先を食われるという怪事件を理由に、日本中の話題となった。
食われた足首はシャドウストーカーの腹の中だ。出てくる訳がない。
そのため、“#消えた足首”という都市伝説が産まれ、地元はオカルトスポットとして一気に有名になった。
犯人が遊ぶ金ほしさで犯行に及んだ事もあり、「悪党の足を食う」という事で話がまとまりつつある。
うん、あながち間違ってはいないな。
俺の関与が疑われるはずもなく、俺の周りは特に変化がない。
ただ、それでも、もう少しだけ大人しくしていようという気にはなる、なったんだけど――
「今度は痴漢かよ」
俺は電車の中で見付けてしまった犯罪者の姿に顔をしかめた。
40代ぐらいの身なりの良い格好をした男が、女子高生だろうか、若い娘さんにイタズラしているのに気が付いてしまった。
スキルを色々取ったからか、感覚が鋭くなっている気がするのだ。昔なら気が付けなかった事に、色々と気が付いてしまう。
距離がある為、俺が捕まえにいっても相手の男は逃げるだろうし、証拠がなければ言い逃れされて終わりだ。
しかし見逃す選択肢は無い。
俺は声を出さず、シャドウストーカーに指示を出した。ちょっと食ってよし、と。
そして響き渡る男の悲鳴。
満員電車故に、男の犯行はバレず、俺の制裁もまたバレる事は無い。
俺の制裁をやり過ぎだという奴は大勢いるだろう。
しかし、奴らの犯罪被害に遭った人たち同様、ただ連中も不幸だったというだけだ。犯行現場に俺という規格外が潜んでいたのだから。
連中の場合は、普通に法で裁かれるより厳しい裁きを受けただけという点が違うけどな。
犯罪被害者の方々は、何も悪い事をしていないのに酷い目に遭ったのだし。
因果関係という点では、何も悪い事をしていない彼ら彼女らの方が酷い目に遭っている訳だよ、うん。
故に犯罪者に、一切の慈悲はない。相応に苦しめ。
お前ら自身が作り上げた因果の先だ、是非も無い。
守られるべきは、被害者の権利なんだよ。
その後、電車の一件も男が痴漢であった事が複数の証言により判明し、「犯罪者は足首から先を食われる」都市伝説は本物として扱われるようになった。
付け加えると、電車内でやらかしたため、血の臭いとかが酷い事になり、大惨事になった。
車内が明るかった事もあり、突然のグロ現場に吐く人まで出る有様だ。
うん、やり過ぎたね。
俺も事情聴取のために警察に拘束されたし、散々だよ。
前回と違い今回は「助けた」って達成感が薄くなって、楽しくなかったね。
あと、清掃の人。ごめんね?
血だまり、頑張って落としてください。
そして、この一件で俺が少しだけ疑われつつある。バレてはいないけど、疑われてはいる。
正確には、あの車両内にいた他の人も含めた全員が、だけど。
痴漢なんてどこにでもいるからね。あの電車内の誰かが「何らかの方法で」やったんじゃないかと思われたわけだ。
じゃないと、他の車両にいた痴漢が無事っていう理由の説明がつかないし。
この、疑われ出したというのは結構いたい。バレてはいないけど、悪い意味で注目されるのは避けたいな。
次はもっと、疑われないようにやらないとダメだね。
犯罪者を放置し、被害者が食い物にされ続けるのは良くない事だ。
せっかく手に入れた力だし、もっと頑張ろう。
あ、そうだ。
一回母校に行ってみるかな。
学校の様子でも見に行こうか。