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怪奇語

空室清掃

作者: 怪談屋


「自分のペースで働ける! 会いた時間を有効活用しませんか?」


そんなキャッチコピーに釣られて、大学生の時、空室清掃のバイトをしていた。


仕事の内容はいたってシンプル。不動産屋に鍵を取りに行き、指定されたアパートやマンションの部屋を掃除し、鍵を返しに行く。もし異常(窓が割れている、床に大きな傷がある等)があれば写真を撮っておき不動産屋に見せる。ただそれだけだ。


広さによって変わるが、1部屋あたり約1500円。そこそこいい小遣い稼ぎになり、人付き合いや上下関係が苦手な私にとっては天職だった。


しかし、ある部屋がきっかけで私はこのバイトを辞めることになる。


いつもの担当から鍵を受け取ろうとすると、珍しく担当から声をかけられた。


「実はこの部屋は退去予定の住人が急に入院しちゃって、引っ越しの代理を頼まれたんだ。今日は掃除はしなくていいから、どれくらい荷物があるか動画を撮ってきてほしい。」


動画を撮るだけでいつも通りの額が貰えるならこんなに美味しい話はない。私は意気揚々と指定された住所へ向かった。


着いたのは年季の入った木造のアパートだったが、部屋の中は新しいフローリングが敷いてある洋風の綺麗な部屋だった。きっとつい最近リフォームしたばかりだろう。住人の家具も小洒落たアンティーク調のものが多く、なんとなくお洒落な喫茶店を連想する雰囲気だった。


他人の部屋をスマホのカメラで動画を撮りながら歩くのは新鮮で、ちょっとした冒険をしている気分だった。


部屋数も少なく撮影自体はすぐに終わったので、部屋を出ようと玄関のドアノブに手をかけた時、身体中に得体の知れない悪寒が走った。ドアノブから手を引き、ドアスコープを覗き込む。


目を限界まで見開いた坊主頭の女が立っている。


目を離したいが身体の自由が効かない。


目を見開いたままの女の口がゆっくりと広がっていく。


顎が外れてるのかと疑うくらい口を開け、またゆっくりと閉じる。


ゆっくりと口を開け、またゆっくりと閉じる。その繰り返しを眺めていると、私は不快感と憂鬱で頭が一杯になり、今すぐに目を離して逃げだしたくなる。しかし、未だ身体は動かない。


意識が段々遠くなる。涙が溢れでる。


気を失ってしまうと、このまま死んでしまうような気がした。


焦っても焦っても身体は言うことを聞かない。


もう限界で倒れてしまいそうだったその時、部屋中に携帯の着信音が鳴り響いた。


着信音で我に帰り、私はベランダに向かって走り出した。


ベランダから身を乗り出してなんとか部屋から逃げ出した。この部屋が1階で本当に助かったと思った。


不動産屋に着き、自分が見たものに着いて興奮混じりに話した。担当は疑うようなそぶりも、驚くこともなく私の話を聞き、黙って私のスマホの画面を眺めていた。あの女は何だったのか、住人は何故入院したのか、私が聞いても担当は黙っていたが、私が不動産屋から出る際に担当がボソッと呟いた。





「まだ来るのか。」








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