異世界戦争の決着
第1章
1話 異世界戦争の決着
ガルド王国とシエル王国との間にはいくつもの村や森があり美しい土地だった。普段ならば草原に鳥がさえずり、村には子供たちの楽しそうな声が聞こえる。
しかし、今の惨状からはそんな光景は微塵も想像出来ない。
草原は血に染まり紅の丘と化し、家は焼け落ち、そこら中に剣の刺さった兵士の死体や武器が落ちている……そして不自然なほどに静かだったのだ。
その土地の一つの村はガルド王国とシエル王国との国境から丁度中心にありどちらの王国にも属していない。
この村も戦争によって壊滅されられていた。
この戦争は半年ほど続けられていたがその戦争もこの地で終わりを迎えていた。
この戦争で両国は多くの兵士と資産を投げ打って総力戦を行っていた。しかし、両国とも決め手ができず均衡を保ったまま長引く状況がひと月ほど続いたのだった。
このままでは両国とも国力が落ちてしまう。それに戦争に勝ったところで国を収める力は無いであろうと両国王は考えていた。
その結果、和解交渉が両国間で結ばれたのであった。
和解交渉は、両国の国境から中心にある村にて行われた。
戦争で焼け野原となった草原は厳重な警戒が敷かれ、丘の上には魔法で張られた天幕が1つあった。
その中には長机に向き合うように両国の王と重臣が3人ずつ向き合って座っている。
ガルド王国の13代目国王ガルドは赤い髪に鋭い目をしている30歳ほどの血気盛んな男だった。
向かいに座るシエル王国の7代目シエル王は翡翠色の髪に色白で尖った耳を持つエルフ族の女性だった。
両国とも王は名前を継承するのが決まりとなっており、両国とも長い歴史のある国だった。
長机の端には1人の白い髭と髪の老人が座っていた。
「進行を務めさせられましたロウシでございます。ひとつよろしくお願い致します」
ガルド王国の大司教のロウシという老人が静寂を破った。
「今回の戦争で両国は多くの尊い命と財産を失うこととなり、その結果、和解ということになりましたな。元々、この戦争は両国との摩擦の他に両国との間にある土地を求めて始まったものと認知しております。ここまではよろしいでしょうかな?」
他のものはそれに静かに頷いた。
それを確認してロウシは続ける。
「和解ということになりますとこの土地を放置するか、両国で均等に分けるというのが普通だと考えますがどうでしょうかな?」
ここでシエル王国の王が口を開く。
「放置という訳にはいかないのではないのでしょうか?見て分かるように此度の戦争でこの周辺の土地と村は荒れ果ててしまい放っておいては人々が生きていくことは出来ないでしょう。」
それを聞きロウシは答える。
「では、両国で土地を分割ということでよろしいでしょうかな?」
「待て」
ガルド王国の王が鋭く言い放った。
「分割と言ったな?この土地は資源が多くある。魔鉱石の鉱山や宝があるであろう洞窟地帯。その他にも食糧の豊富な場所などが点在している。これらを公平にどうやって分けるのだ?また戦争か?」
一瞬の沈黙が訪れる。
確かにこの土地にある資源は豊富であり、それの取得権も戦争の一因であった。
「確かに、公平に分けるとなるとどうしても難しいところがありますな。また、この土地に住むものも分割となると黙っていないでしょうな。」
ロウシは続ける。
「それでは、どちらの国でもない物にすればよいのではないのでしょうかな?」
「それはどういうことでしょうか?」
シエル王が聞く。
「この土地を新しい国として誕生させ、この土地で得た資産を両国で分割するということですな」
「国だと!」
ガルド王が怒鳴る
「国を作るとはどういうことだ!ロウシ!」
「そんなに慌てることはない。ガルド王よ。国と言ってもガルド国とシエル国の共同管理国という形になりますな」
「管理国ですか」
シエル王は呟く。
「そうです。もし、この土地が放置されてあれば他国が狙ってくるかもしれません。しかし、国と位置づけることで他国もそう簡単には手出しはできまい。もしもの事があれば両国で対応するだけのことでありますな。」
「だが、その国の王は誰がやるのだ?」
「私もそれが聞きたかったところだ」
ガルド王の言葉にシエル王も賛同する。
「どちらの国の者がやるわけにはいかないでしょうな。ならば王はどちらの国でもない第三者に務めていただければよろしいでしょう」
「「第三者?」」
両国王共に発した。
「そうです。しかもこの世界について知らない者が望ましいですな」
ロウシの言葉に両国王が驚き反応する。
「この世界について知らない者?どこにそんな者がおる?」
「そんなに都合のいい者がいるとは思いませんが。」
困惑する両国の王に向かってロウシは続ける。
「両国王様方はお忘れではないですか?召喚されし者のことを」
空間に驚きと沈黙が流れた。
この世界では、「召喚されし者」と呼ばれている特殊な人族がいた。名前の通り召喚された者であり、この世界とは違う異世界から召喚されてきた者だ。しかし、召喚には高度な魔法が使える高位魔導師が複数名必要であり方法も不明確であるがために一昔前の不確かな存在となっていた。
「「召喚されし者」かまさかここでそれを聞くとは思わなかった。しかし、我は聞いたことしかないぞ。伝説や噂の類ではないのか?」
ガルド王はそう言う。
「ガルド王がそう言われるのも無理はないでしょうな。最後に召喚されたのは120年前ほど昔と言われている。それ以降召喚されたという記録はないですな」
「召喚は難しいと聞いている。召喚出来るものがいなくなったのか?」
「それは、召喚法が隠されてしまったというのが正しいのでしょうかな。私もそれは知らない。しかし、知っている者も居るとは思うのだが?」
そう言ってロウシはシエル国王に意味あり気な目を向けた。




