蓮
「渋つた仄暗い池の面で、
寄り合つた蓮の葉が揺れる。
蓮の葉は、図太いので
こそこそとしか音をたてない。」
――中原中也「黄昏」より
蓮の――葉。
私はよく知らないのだが
どうも彼らは図太いらしい。
本当に彼の言う通り
こそこそとしか鳴らないのならば、
きっと風の音がよく聞こえる。
蓮の――花。
これもやはりよくは知らないもの、
あまり見た覚えのないもの。
確か彼らは薄暗いお堂で、
鈍い輝きを放ってひっそりと、
仏さまの足元に咲いている。
蓮の――根。
れんこん と言えば少しは馴染みのある
白くてかたい、あれは食べ物だ。
あの穴は酸素を送るためにあるんだよと
幼い好奇心で知った私は
あのとき浪漫をひとつ失くした。
蓮の――茎。
なるほどそれならよく知っている
私の見る蓮は冬の蓮だ。
鈍色の水面に力なく
頭を垂れて乱立する
折れ曲がった茎――
枯れた色に生気はなく、
それはさながら、首を括った女のように。
冬の蓮池には、女の遺骸が揺れている。
さる季節、
確かに彼女らは死んでいる訳だが。
春にどう息を吹き返すのか、
実のところ私は知らない。