終結 ~ おっさんの帰還
道すがら、この世界の剣や魔法について聞いてみた。エルフは無愛想ながらも、
ネックレスの差額ということで教えてくれた。
ケチらず奮発して、ちょっとお高いのを買っておいてよかったよ。
結果としてわかったことは、俺には何の能力も無いということだった……。
魔法を使おうと呪文を唱え踏ん張ってみても、うんともすんとも言わない。
そもそも、俺から魔力が全く感じられないらしい。
あまりに必死に踏ん張りすぎてオナラが出てしまい、エルフに汚物を見るような
目で見られた。
剣にいたっては、棒切れを使って軽く戦ってみたが、護身程度にしか剣を使えぬ
というエルフにさえ歯がたたなかった。
そのたびに蔑んだ目で見られながらも、『俺はMだ、俺はMだ』と自分に言い聞
かせ、何とか自我を保った。
「なんだお前は、それでも本当に異世界人か?」
なんか異世界人に、過度な期待をしすぎじゃないっすかねぇ……。
ちなみに、120年前に異世界より来たという人物は、『サムライソード』とい
う、剣から光の刃を飛ばせる武器を操り、『巨神殺し』と異名をとる冒険者だった
という。
そしてその活躍により王より爵位を与えられ、人間の妻と、犬耳族や猫人の妾た
ちと共に、そして時にはエルフと一夜を共にするなど幸せに暮らしたのだとか。
なんだよそのうらやましい奴は。それにチート能力バリバリじゃん。普通は日本
刀から光の刃なんて出ねえよ!たぶん……。
その後、エルフの案内のおかげでなんとか街へたどり付くことができた。
あまりの俺のヘタレっぷりに、『一から鍛えなおしてやる』という展開になり、
やがて実力を付けた俺に……、と期待したが、エルフはあっさりと去って行った。
お互いに名前も知らないまま……。
まあ、エルフはあきらめるとして、町の通りには金髪の美女や、猫耳犬耳の美少
女がたくさんいる。
いかにも魔法使いという格好をした女は、露出こそ少ないが、ローブの隙間から
見える流し目が実にセクシーだ。
もしかしたら、俺の社会人として培ったスキルはここでこそ発揮されるのでは?
そのスキルに惹かれて俺に惚れる女の子が現れるのでは……。
気を取り直し、ワクワク気分で働き口(美女店長OR美少女店員がいる店限定)
を探し始めた。
しかし、それから3日後、俺のわずかな期待は完全に打ち砕かれていた。
声をかける店からはことごとく断られ、仕方なしに男だらけの肉体労働系の職場
に声をかけても、皆俺を見ただけで断ってくる。
エルフから貰った金も底をつき、食料を買うことすらままならない。
畜生!あの役立たずのクソガキめ!言葉が金になる地球ならいざ知らず、この
異世界で『ほんやく○ンニャク』なんか役に立たねえよ!
俺TUEEEならまだしも、何の取り柄もないブサイクなおっさんは、相手に
気味悪がられない容姿を身につける方が先なんだよ!
それからさらに3日後、俺は街外れにある、とあるコミュニティーにお世話に
なっていた。
簡素な枝と葉っぱで作られた家……というより軒先が並ぶそこは……、
つまり、日本で言えば公園の段ボールハウスだ。よく言えば自由人である。
うん、まさか自分がこの年で家なき子になるとは思わなかったよ。
そこに住まう方々は、人間とオークのハーフ。またはゴブリンとのハーフなどで
ある。
つまりは俺のように、異世界の見た目基準でダメ出しをされた方々だ。
モンスターの中でも、特に嫌われている種族のハーフということからもわかるよ
うに、彼らは皆、望まれて生まれてきた者ではない。
彼らは、性欲の強いモンスターたちが、あれやこれやと人間の女性を襲ったり、
討伐に来た姫騎士に、例のセリフ『くっ殺』を言わせたあげくに生まれてしまった
人たちだという。
そんな憎まれ、蔑まれ、親からも捨てられた彼ら。
だが、彼らは誰も世界を恨むような者はいない。
自分たちの父親が酷いことをしたんだ、だから自分たちが報いを受けるべきなん
だと言う。
な、なんていい奴らなんだ!
この街にいる、人を見た目でしか判断しない奴らに聞かせてやりたい。
可哀想で、もう豚さんのお肉なんて食べられないじゃない!
それと同時に、転生前はくっ殺で興奮していた自分が恥ずかしくなる。
ああ、なぜ俺はあんなものを楽しんでいたのか!
陵辱なんて最低の行為ではないか!
なぜ俺は性欲に負けてしまったのか!
こうして、誰も幸せになれない未来が訪れることを予想できなかったのか!
バカバカ!俺のバカチンがぁっ!
そして、急速に俺の中の賢者が目覚める。
そんな日が一週間ばかり続き、いつしか俺の、暴れん棒将軍になるという夢も
消えていった。
うん、争いの無い世界ほど素晴らしいものはないよ。
しかし、その日は唐突にやってきた。
いつものように、ハーフオークのリーダー格である『オークランド』さん。通称
『オッさん』からその日の食料を分けてもらう。
いつもの食事よりやや酸っぱいのが気になったが、贅沢は言ってられない。
腹も膨れ、さて、飯も食ったし一眠りするかと横になった時、
「ぐっ!?」
猛烈な腹の痛みが俺を襲った。
まさか……、毒!?
でも、皆同じ物を食ってたはずだ。
俺は殺されるのか?
いや、でもオッさんたちは本当に心配そうに俺を見ている。
そもそも俺を殺して何かメリットがあるのか?だいたいその気なら、すぐに殺せ
たはずだ。
そして思い当たる。
やはりさっきの酸っぱいのは、腐ってったんだろう。
種族的に丈夫なハーフオークたちは無事だったが、俺だけ食中毒になったんだろ
う。
オッさんたちを疑ってしまった自分を恥じ、心配ないからと脂汗を流しながらも
無理やり作り笑いを浮かべる。
そして、俺の意識はまたもブラックアウトしていった。
「え~………。おじさん何やってんの?ダメダメじゃん。ホント役立たずじゃん」
聞き覚えのある声で目が覚める。
目の前には、あのクソガ……、神様が立っている。
「せっかく僕のチート能力『世界に広げよう○もだちの輪』を与えてあげたのに」
いや、おかげで酷い目にあったよ。冷静に考えてみたら、言葉が通じない異世界
転生物なんてあんま見ねーよ!
だいたいが普通に会話してるじゃん!
俺も、剣から光の刃が出せるチートが欲しかったよ!
膨大な魔力を持つ魔法使いになりたかったよ!
異世界で料理するだけで、モテモテになりたかったよ!
つっても、俺の料理なんて、煮る、焼く、茹でるくらいしかできねーよ!
ちくしょう『美○しんぼ』かよ!
そんなのいらないから、俺の暴れん棒をパックリ食べて『美味チ○ポ』してくれ
るケモ耳の美少女が欲しかったよ。
そして、『ふ、ふん!デ、デザートは私だ』ってデレてくれるダークエルフとか
が欲しかったよ!
「おじさん……、割といろいろ詳しいんだね……」
あ、神様ちょっと引いてる。
けっ、どーせ死んじゃったしもういいんだよ!
あれ?でも転生先でも死んじゃって、これからどうなるんだ?
「あー、それなんだけどね。さすがにおじさんの行動だと、僕のチート能力に悪評
が付いちゃうかもしれないからね。だからとりあえず、無かったことにしてもいい
かな?」
は?何言ってんの?何だよ無かったことって。
「うん、僕がおじさんを送り出したって知られると、正直恥ずかしいって言うか」
えーえー、そうでしょうよ。どうせ恥じの多い人生を送ってきましたよ!
「じ、じゃあそういうことだから。また元の世界で頑張ってね」
あ、おい……!
そして俺の意識は、階段から落ちて以来4度目のブラックアウトとともに、遠の
いていった。
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
目を覚ました俺が見たのは、いつもの自宅の景色。
そして、後頭部がやたらに痛い。
「あ、あれ?俺……」
あれ、オッさんは?ゴブさんは?それに腹具合は……?
しかし、目の前にはいつもの風景が広がるばかりだし、腹も痛くない。痛いのは
後頭部だけだ。
なんだろう、気絶してやたら長い夢を見てたのか……。
鏡で自分の体を見ても、何も変わったところもない。
ついでに下半身を確認してみるが、いつもどおりのさびしん棒だ。
しかし、ふと一部の変化に気付く。
磁気ネックレスが無くなっている。
じゃあ、今までのことは……、やっぱり……?
まあ、でも……、やっぱ凡人が異世界なんぞ行くもんじゃねーな。
なんかわかんないけど生き返ったみたいだし、高望みしないで、現実世界にある
ちょっとした楽しみを満喫するのが一番なのかもな。
そういえば、ちょっと小腹が空いたなぁ。
そうだ、冷蔵庫に明日の昼飯にとコンビニで買っておいた、トンカツ弁当があっ
たはずだ。せっかくだから食っちまうか。
ああ、なんかムラムラしてきた。
飯を食ったら、ネットでオーク×姫騎士の画像でも探すか……。
いや、異種族モノもいいかもな……。
~Fine~
思うところあって、ちょっと異世界物を書いてみました。
短編ですし、思いつきで書いたため、山も谷もありません。
魅了的なキャラクターも、可愛いヒロインもいません。
ただおっさんがいるだけです。
万が一にも気に入ってくださる方が多かったら、別ルートの続きを書くかもしれませんが……。
お読みいただき、ありがとうございました。
8/6 加筆修正しました。くだらなさと下品さが増しただけかもしれませんが……。
まあ、少しでもニヤリとしていただければ幸いです。