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錫メッキ短編集  作者: 錫メッキ
10/11

久々に文章を書きました…

確か、多分。

帰りの電車に乗る前に確認した、ズボンの右ポケットに入れていたはずのものが無い。

通話、SNS、インターネット等、個人情報が凝縮された、もはや自身の分身と言っても過言ではないあれ。

そう、スマホである。スマホが無いのだ。



玄関に着き、靴を脱いだところで私はそれに気付く。

スマホが無い。

頭から血の気が引いていくのがわかり、嫌な感覚だと脳の片隅で考える。



丁寧にスマホが無いことを考えるがそれどころじゃなかった。

どうしよう困った落ち着け自分。

まずパスワード設定をしているから他人には開けないはず大丈夫、大丈夫、……大丈夫?

いやちょっと待てデータどうしようバックアップしてないというか機種代どうしよう勿体無いよね買い換えないといけないのかな。

うち、今月どころかしばらくピンチやん。

駄目だエセ関西弁は駄目だ。関西人から失笑される。



玄関から寝室に一直線に向かい、閉まったドアの手前で彼のいびきを聞きながら、深呼吸をする。

個人情報から金欠まで、不安要素がとどまることを知らず押し寄せてくる。

ジクジクとした不快感が胸のあたりに集まり、やけに力強い動悸が首の辺りを火照らせる。



何時無くした?最悪だ。覚えてない。記憶に無いし当然だが心当たりもない。

電車を降りたあとだから、改札くぐって本屋に行ってコンビニ行ってスーパー行って帰ってきたから、その何処かで落とした?

どうしてよりによって今日に限ってこんなに寄り道したんだ!



酒を大量に飲んで酔いつぶれている彼を、彼女のような甘い声で軽く起こすと、用意していた粉薬を優しく飲ませた。

落とし場所候補の多さに絶望感が増すと同時に、段々思考力があらぬ方向へと向かっていく。



でも落としたら音や重さでで気付くはず。

そうだろう自分。というかそうであって欲しい。

そんなんだったら落としてないけどな畜生!

待ってじゃあスリ?スリにあった?

そうかもしれない。いや、無いんだろうけど。

そもそも日本にスリとかあるんだろうか。

観光地ならともかく田舎な地元でスリとかあるんだろうか。無いよね、知ってた。

どうしよう。もう、アイテムボックスとか欲しい。

いっそのことアイテムボックスとかウィンドウを開いてどうこうするあれがあれば無くさないのに。どうして技術は進歩してないんだ。異世界に行きたい。

せめて、皮膚に埋め込む端末とか、欲しいものに針を向ける羅針盤的なのがあればいいのに。

産まれる時代を間違えた。

違うそうじゃない。



彼の呼吸を確かめながら、落ち着かない思考を更に続ける。

一通り現実から目を背けた後は、次に自分の怠慢へと目がいくと同時に、自分を呵責し始めるが、焦りからグズグズに溶けた思考ではそれすらも覚束ない。



どうしてバックアップを取っていなかったんだ。バックアップさえ取っておけば、最悪機種代はしょうがないと納得できたのに最悪だ自分。

もしくは、追跡のための設定とかきちんとしとけばよかったのに最悪だ自分。

しまったアプリのデータどうしよう、アカウント取ってないわ最悪だ自分。

いつでも出来るからと後回しにしていたツケが回ってきたんだ本当に最悪だ自分。

神様すみませんでした本当に申し訳ないごめんなさい。

見つけ次第設定します。必ず設定するのでどうか、我が手にスマホを、もしくはせめて手掛かりをください。



マンションの廊下に人がいないことを確認し、さっと玄関の鍵をかけた。

いつ落とした思い出せ、心当たりを掴みとれと自分をセルフ激励するが、一向に思い出せることはなく研ぎ澄まされた感覚が、足から腿にかけてジワジワと溜まる重みを不調だと主張するのみだった。



この間、約4分。

散らばった思考とは別に、両手はすべてのポケットを撫でくりまわし、そこにある筈のスマホを必死に探す。



やっぱり無い。いつ落としたかもわからない。

どうしよう。オワタ。最悪だ。



青い顔で駅へダッシュする彼女のカバンの中から、電話の着信音がするのはそれから15分後の話である。


いつも以上に拙い文章を読んでいただきありがとうございました!


よろしければ、田中の体験談もぜひお読みください。

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