8章-12 名ばかりの英雄
「あー、疲れた。」
執事服に着替えたミイラは屋敷の中の家事に追われていた。夕方に森の湖から帰って来たのでそこから家事を始めたのである。暫くこんな生活が続くと考えると溜息が出る。しかもあんな水着をまだ着なくてはいけないと考えると頭が痛い。
そんなミイラが廊下を歩いていると、今日全く姿を見ていなかったキンとすれ違った。何やら難しそうな顔をしている。
「爪を噛んで、また何か悪いことを考えているな?」
ミイラの言葉に驚いたキンはミイラの方を見る。
「何をしようとしているかは知らんが、俺にまで面倒を掛けるなよ?」
「ちょっと待て、何で俺の癖を知っている?」
ミイラはキンの言葉を無視して脱衣所の方に向かう。洗濯物が溜まっているからだ。キンは少しの間ミイラの方を睨んでいたが、そのあと部屋に戻って行ったようだった。
「どこの世界線の出身かは知らんが、おまえは全く変わらないな。――よ。」
ミイラは鼻で笑うと洗濯物を洗濯機から取り出した。
娯楽街を見て回り、酒場にも行った。しかし赤ニートの姿は無かった。
「何処に行きやがったんだ、あいつ。」
俺は気が付くといつも通り教会に来ていた。あいつと出会った大樹の下なら居るのではないかと無意識のうちに期待していたみたいだ。勿論そこにも赤ニートの姿は無い。
「あら、誰かと思ったらゴロツキさんじゃない。」
教会の方から出て来たのは銀髪の少女だった。
「教会に何か御用?」
少女は俺の方に歩いて来た。少女は月の光を受け、より一層美しく見えた。おっといかん、いかん、俺は人探しをしているんだった。
「赤ニートを見なかったか?」
「ふうん、また獅子の奴を探してるの。」
「昨日は完敗だったのに」と少女は呆れたような表情をした。
「あいつは俺の仲間も殺そうとしたんだ、許せる訳がない。」
熱くなる俺に少女は冷ややかな視線を送る。
「それは貴方が弱かったからでしょう、違う?」
俺が、弱い?記憶を投げ捨ててまでこの力を手に入れたのに?気が付いたら俺は少女の胸ぐらを掴んでいた。
「何?本当のことを言われて怒っちゃった?」
あくまで少女は冷静であった。そのとき後ろに殺気を感じ、俺は前に跳んだ。直後俺が居た地面がえぐれる。そしてそこに立っていたのは神父様であった。
「自分の弱さも認められずに姉さんに八つ当たりですか。そして私はもっと命を大事にしろと貴方に伝えたはずだ。」
神父様がこちらを睨む。空気が凍ったかと思った。それほど神父様の放った殺気は鋭く、凄まじい物であった。あのまんまるで笑顔であった神父様と同一人物とは思えない程である。
「『名ばかりの英雄』と言われた私ですが、お相手をしましょう。私を倒せないようでは彼には勝てませんから。」




