8章-10 名ばかりの英雄
「すみません、勇者様。」
今俺はローズを背負って娯楽街を歩いていた。あの騒動のあとローズは腰を抜かしてしまい、俺が家に送り届けることになったのだった。
「命が危なかったんだ、仕方ないだろ。」
あとローズの胸が背中に当たって幸せですし。あまり立派なものではないが確かに俺の背中に胸が当たっている。
「勇者様、また変なことと失礼なこと考えていません?」
「いや、何も。」
女の勘は鋭いと言うが本当だな。それとも俺が顔に出しやすいのか。どっちにしろ否定しなければ俺のメンツに関わるので即答で否定しておく。
村の農作業の約束をしていたようで、ランスは一人で手伝いに行った。俺も体中包帯だらけで本調子じゃないので、それを気遣ったらしく「お兄ちゃんはお姉ちゃんを家まで送ってって。そのあとは休んでいていいよ。」とのこと。男1人と女1人では何か過ちを犯すかもしれないというのに。まあ、俺が男として認識されていないということなんだろうが。非常に複雑な気持ちである。
「今日は何だか人が少ないですね。」
確かに今日の娯楽街は少し静かな気がする。所々出店が閉まっているし(特に食べ物関係)、客もいつもと比べ少ないようだ。
「お、勇者様じゃないか。」
そんな時、透き通るようなハスキーボイスが俺を呼び止める。声のする方を見ると、そこには美しく輝く黒い長髪、男性の和服を着崩したような格好の長身の女性が居た。
「ローズちゃんと二人っきりでデートかい?」
「逆に問うが、こんな格好でデートする物好きなんて居るのかね?」
「そうだね、勇者様に限ってデートなんてないか。」
キクノはケラケラ笑う。冗談のつもりなんだろうが少し傷ついたぞ…。
「キクノさん、今日は人が少ないみたいですけど、何かあったんですか?」
ローズが疑問を投げかける。
「最近暑いだろ?みんなして森の湖に涼みに行っているのさ。せっかくのビジネスチャンスなんでね、食べ物関係の出店も行かせたよ。」
着物の下はいつもサラシのキクノだったが、今日はビキニの水着であった。この世界には海が無いから、みんな水着で湖に行っているというところか。
「こんな水着なんか売り出してみたら、みんな物珍しさに買って行くわけさ。もうザックザックよ。」
キクノは笑いながら親指と人差し指で丸を作る。暑さに便乗して水着で丸儲けしたってことなんだろう。
「商売繫盛みたいで何よりだな。」
「勇者様も気が向いたら湖においでよ。そのときは勿論うちで水着を買って頂戴ね。」
キクノは俺達に手を振って森の方向に歩いて行った。キクノはいつもサラシを巻いているせいか胸が小さいイメージがあったが、それは思い違いであったらしい。実に立派な胸であった。そう、今俺の背中にいる少女とは違って。
「勇者様?」
ローズが思いっきり俺の頭を殴る。
「何か失礼なこと考えていませんでしたか?」
「いえ、何も。」
俺は背中に殺気を感じながら娯楽街を後にした。




