8章-9 名ばかりの英雄
「また勝手に外出して、騎士長殿に叱られても知らないぞ。」
ブレーメンは森の木の上からエンマ大王を監視していた。お気に入りの使用人をいじって遊んでいるらしい。いつチグリスが攻めて来るのか分からないのに呑気なものだ。
「ブレーメン、こんな所に居たのですか。」
ブレーメンの乗っていた木の枝に黒い長髪の女性が飛び乗って来る。いつもは変わった民族衣装を着ているが、今日は紺色の競泳水着を着ていた。他の女性程よりは露出が少ないが、ボディラインが強調されている。
「シルク、おまえも休んでていいんだぞ?」
「いえ、私が近くに居ると休まらないと言われてしまいまして。」
シルクは無表情で事務的に答えた。こいつは堅物だからな、まあエンマ大王の気持ちも分かる。
「それで追い返された、と?」
「はい。」
シルクはブレーメンの隣に座り、エンマ大王の方に視線を送っていた。追い返されてもこうして仕事をしようとするのだから、なんと真面目なことか。
「エンマ大王が直々にそう言ったのだったら好きにすればいいじゃないの。何、誰も文句は言わないさ。わざわざ水着を買いに行くくらい楽しみにしてたんだろう?」
「わ、私はエンマ大王の護衛を任されているだけであって、そんなことは微塵も…。」
シルクが顔を赤くしてあたふたしている。分かりやすい奴だな。
「その辺に購買やらキクノの露店なんかが出てるし、行って来い。」
ブレーメンは「ほい」とシルクの背中を押す。シルクはバランスを崩し木から落ちたが、しっかりと着地した。シルクは何か言いたそうに暫くこっちを見ていたが、露店の方に走って行った。
「あいつはこういう催しを見たことが無いだろうからなあ。」
ブレーメンはライターで煙草に火を点ける。ブレーメンも元々一般の騎士であったので他の世界に駆り出されたことがある。その時にこのような催しを何度も体験している。だが、シルクは地獄から一歩も出たことが無かったのでこんな祭りのようなものを体験したことが無かったのである。
「さて、堅物もどっかに行ったことだし…。」
ブレーメンはジャケットのポケットに隠していた双眼鏡を取り出す。
「目の保養、目の保養っと。」
こんなに大胆な格好をしているお姉さんが沢山居るんだもの、見ておかないと損であろう。ああ、今日も地獄は平和だ。




