2章-4 勇者
今俺はローズに案内されながら教会の裏の森を歩いている。森と言うともっと生き物や魔物で賑やかだと思っていたが、思いの外静かである。時折スライムが現れてはローズの火炎魔術に焼かれているだけである。
「やけに静かだな。」
「はい、今週の月曜日にあれが森に現れたからというもの静かです。本当はローパーとかもっと出てくるんですけど。私も一度巻き付かれたことがあって、そのときは大変でした。」
ローパーと言うと触手の魔物か。触手、触手。いけない想像をしてしまうのは俺だけだろうか。いやーしかし女の子が触手に巻きこまれたのか、実にけしからん光景だっただろう。
(いやー、ちょっと見てみたかったな。)
「勇者様、何かいやらしいこと考えてません?」
ローズの視線がちょっと痛い。また表情に出ていたのだろうか。
「いやー、何も―。」
少し声が裏返ってしまった。ローズは少しこちらを疑ったような目で見た後、また案内を再開する。
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しばらく歩いたら湖に出た。湖を挟んで向こう側に白い綺麗な花畑が見える。そして、その隣にはー。
「あのドラゴンが邪魔をして薬草を取れないのです。」
頭に大きなタンコブをつくったドラゴンが寝そべっていた。緑色の鱗、長い首、細長い尻尾、ファンタジー漫画とかでよく見るドラゴンである。そして頭のタンコブを見て確信する。きっと月曜の朝方にオークの岩の遠投によって撃ち落とされたドラゴンだ。
「勇者様にあそこから薬草を取ってきて欲しいのです。」
ローズが花畑を指さす。いや、おかしいとは思っていた。スライムとかを退治できるような力を持っている美少女が自分の力で取りに行けない、そして俺よりは屈強であろう男達がこんな可愛らしい女の子の依頼でも受けない、その理由がこれである。
「勇者様?」
ローズがこちらの顔を覗き込む。また女の子特有のいい匂いがしているが今はそれどころではない、冷や汗が止まらない。
「見とけよ、今取ってくるからな。」
何で強がってしまったのかと後悔する。とりあえず俺は少しずつ近づくことにした。
一歩歩く。まだドラゴンは気づかない。
二歩目。呑気にドラゴンはいびきをかいている。
そして、花畑が目の前というときに俺は枝を踏んでしまった。折れた音を聞き、ドラゴンの首がゆっくりと上がりこちらを向く。
「やあ、ごきげんよう。」
こちらの挨拶に反応するようにドラゴンは咆哮をあげる。そして次の瞬間視界が真っ赤に染まった。どうやら、ドラゴンが炎ブレスを吐いたらしい。
「そんなにうまく行くわけないですよねー!?」
俺は体中が焼ける感覚を覚えながら死んだ。