8章-8 名ばかりの英雄
「勇者様、起きて下さい!」
ローズの声で我に返り、目が覚めた。体を起こすと自分の体が汗でぐっしょり濡れているのに気付いた。
「お兄ちゃん、凄くうなされてたんだよ?」
ランスが心配そうにこっちを見ている。あんな夢を見させられたのだ、うなされるのも当然であろう。
「大丈夫だよ、心配するな。」
俺はランスの頭をポンポンと叩いてやる。ランスは安心したようだった。俺は自分の体を確認してみる。ローズが包帯を交換してくれたのだろうか、昨日まで血がにじんでいた包帯が綺麗になっていた。昨日体中が痛かったのが嘘のようだ。刻印の効果か傷の治癒能力も上がっているみたいである。
「しかし、今の夢は…。」
「やはりあの記憶を見たのですね。」
俺が起きたのに気付いた神父様がこちらに歩いて来た。まんまるの神父様には似合わない背丈ほどの大剣を背負っていた。
「神父様、何かこの記憶のことを知っているのか?」
「その不死鳥の刻印は『彼』を最も愛おしく思っていた者、最も嫌っていた者が持っていたものです。」
気のせいだろうか、神父様が懐かしそうな顔をした気がした。
「あなたが『彼』に対し持っている反感はおそらくその刻印によるものでしょう。」
俺が反感を持っている?それじゃ、やはりあの赤い丘に立っていたのは…。
「いいですか?その刻印に呑まれることなく自分の意思をしっかり持つのです。」
「神父様、貴方は一体?」
「なに、ただ一人死に損なったただの中年の聖職者ですよ。」
そんな時であった。近く2つの棺が開きオークが出て来た。どうやら労働組合の者みたいだ。
「何だったんだ、あの紙袋野郎。」
「そこのお2人、労働組合に所属している者ですね?」
2人のオークが棺から起き上がったのを確認すると神父様がそいつらに歩み寄って行った。
「それだったら何だと言うんだ?」
「こちらで身柄を拘束させて頂きます。エンマ様のご命令なので。」
「できるものならやってみろ!」
一人のオークが神父様に殴りかかる。神父様は素早くそれを避けると、オークの脚を払い関節技を決める。そしてそのままロープで縛り付けた。
「さあ、次は貴方の番です。」
神父様が立ち上がりもう一人のオークの方に近づいた。オークは近くに居たローズの腕を引っ張り、持っていたダガーをローズの首に当てる。
「こいつの命が惜しいなら、そのまま大人しくーー。」
オークの言葉を遮るように神父様は背中の大剣を振るった。オークのダガーを持っていた腕は吹き飛ばされ、オークはあまりの痛さに絶叫しながら、その場に膝をつく。
「あーあ、やっちゃったわね。あの子、女子供に厳しい人に容赦しないから。」
気付いたらいつの間に来ていたのか、俺の横に銀髪の少女が立っていた。
「それで、いいの?あんたのパーティの娘が怖い目に遭ったのに。」
少女の声でふと我に帰った俺はローズの方に走る。
「おい、大丈夫だったか?」
「は、はい、おかげさまで。」
ローズは笑って見せるが、膝が震えていた。やはり怖かったのだろう。そんな俺の横で神父様は黙々とオークを縄で縛っていた。
「姉さん、あとはよろしくお願いします。」
「はいはい、それじゃこっちに来るのよ。逃げようなんて思わないことね。」
少女はオーク達を連れて何処かに去って行った。それを確認したあと神父様はローズの前で頭を下げた。
「怖い思いをさせてしまって申し訳無い。」
「いえ、神父様のおかげで助かりましたので…。」
突然誤った神父様を見てローズは慌てているようだった。神父はローズを救った訳で、何も悪くないからだろう。
「そう言ってもらえると助かります。」
神父様は下げていた頭をあげるとローズに笑顔を向けた。そしてそのまま出入口付近の椅子に戻って行った。この刻印のことも知っていたし、あの剣裁き、一体この神父様は何なのか。俺達の中に疑問が残った。




