8章-7 名ばかりの英雄
紙袋を被ったマントの男は岩陰から労働組合が籠っている城を見ていた。ライオンマスクとあろう者が手を出さなかった理由が分かった。城を出入りしているミノタウロスもこの前のアトラスが身に付けていた鎧が着けられていた。あれはライオンマスク得意の槍の雨を以てしても貫通できなかった鎧である。手を出さなかったのではなく手が出せなかったのだ。チグリスは魔物を作るのが得意である。ミノタウロスは今目に見えている数より多いと思っていた方がいい。
「ふむ、だからこんな物を作って俺に渡したんだな。」
紙袋の男は持って来た矢の先に赤ニートに手渡されたものを結び付ける。そして左手に弓を持ち、合図を待った。
「!」
城の2階の窓が光った。指定された合図である。紙袋の男は先程準備した矢に魔力を込める。すると矢は透明になった。そしてその矢を光った室内に向けて放つ。
「上手くやってくれよ、このままじゃ本当に地獄はミノタウロスだらけになっちまうからな。」
紙袋の男は気付かれる前にと洞窟から去ることにした。魔法を使い、足音を消し全力で走り抜ける。
「チグリス様、こんな所に出ていて大丈夫なんですか?」
小太りの貴族はホースを持ちながら城の主の方を向く。ウサギ耳の桃色の長髪の少女は挑発的なビキニ姿でゴムプールで涼んでいた。
「大丈夫よ、入り口はアトラスが守ってくれているのでしょう?」
こんな状況で森の湖に行くわけには行かないので(この世界には海がないため、暑い日は湖に人が殺到する)城の中庭でプールに水を張りそこで涼むことになったのであった。
「しかし他の水着があったでしょう、そんな露出度の高い物を着て。」
リーダー格の貴族は無防備な城の主を見て溜息を吐く。それを見たチグリスはリーダー格の貴族に歩み寄る。
「何?もしかして私に見惚れちゃった?」
チグリスは小悪魔的な笑いを浮かべ、リーダー格の貴族の顔を覗き込む。すると、リーダー格の貴族は顔を赤く染めながら、チグリスとの距離を取る。この少女もエンマ大王や聖女のように他人を魅了する力を持っていると実感する。
「もちろんですとも、チグリス様にはどんな水着でも似合いますとも。似合うんですけど…。」
「こう見てみるとチグリス様ってやっぱりエンマ様より胸が小さいんですね。」
「!?馬鹿、おまえ…!!」
小太りの貴族が爆弾を投下した。リーダー格の男が恐ろしくて言えなかったことをこいつは平気な顔で言ってのけたのだ。
「何よデブ、私よりナイルの方が色気があるって言いたいの!?」
ムキ―とチグリスが狂い始める。ただでさえ胸が小さいということ気にしているというのに(それならビキニなんか着るべきではないと思うが)妹と比べられたらそれはもう怒り狂うだろう。チグリスがバケツを手に取って小太りの貴族に水をかけた。
「勘弁して下さいよ、チグリス様!びしょ濡れになったじゃないですか!」
「うるさい、黙れ黙れ!!」
チグリスはプールから水を汲み、小太りの貴族に水を掛け続ける。貴族服のままであった小太りの貴族は悲鳴をあげる。
「どうしたんです、これは。」
細長い貴族が屋敷の中から出て来た。さっきトイレと言って席を外していたのである。
「ノッポ、あんたには私の胸がどう見えているの!?」
「え!?」
細長い貴族も騒動に巻き込まれ、体中に水を浴びせられていた。
「しかし、なんと緊張感のないことだ。」
リーダー格の男はそんな様子を見ながら溜息を吐く。まあ、平和が続くのならこれでも一向に構わないのだが…。




