8章-4 名ばかりの英雄
目が覚めるとそこは月の光が差し込む教会の中であった。体を起こすと、近くの柱に背中を預けながらローズとランスが眠っていた。死んだ訳でもないのに今日だけで何度この教会の世話になっただろうか。教会の中央の大きな像に目をやるとそこにはいつもお世話になっている神父様と銀髪の少女が祈りを捧げていた。昼間は乱暴だった少女だが、今のその姿はとても美しく、そこに月の光が掛かっているものだから幻想的であった。この像誰かに似ていると思ったらこの少女だったのかと今気付いた。俺の視線に気付いたのか銀髪の少女は立ち上がりこっちを見る。
「やっと目が覚めたの。獅子の奴に聞いた限りでは惨敗だったようね。」
少女はぷっと笑い出しそうな顔をしていた。ああ、こいつは喋ったらその美貌が台無しになるタイプのヤツだ。
「大体、刻印入れて力が手に入ったからって調子に乗って殴りかかる様じゃその辺のゴロツキとも同レベルじゃない。」
全くその通りだ。力を手に入れたと何を調子に乗っていたのか。俺の沈んだ表情を見て少女は腹を抱えて笑い始めた。赤ニートも大概だったがこいつも大概だな。
「うるさいな。それであんたと赤ニートはどんな関係なんだよ。」
俺はイラっとしながらも疑問を投げかけた。赤ニートの所に殴り込みに行く時にも忠告してたし、気になってはいた点である。
「どんな関係ねー。生前の知り合いってぐらいかしらね、何度か会話した程度の。」
少女は俺の顔をまじまじと見ながら言った。ローズやランスと行動を一緒にし始めて、結構経っているので慣れたと思っていたが、俺は恥ずかしくて目を逸らしてしまう。そのくらい目の前の少女は魅力的だった。そう、見た目は。
「何?急にそんな目を逸らして?私の顔に何か付いてるの?」
少女はニマニマしながら俺の周りを回り始める。自分が美少女と分かってやっているな、こいつ。
「姉さん、少しやり過ぎですよ。」
ずっと笑顔でこちらの様子を見ていたまんまるの神父様が少女に注意した。少女は少しつまらなそうな顔をすると神父様の隣に戻って行った。神父様相手には素直なんだな。
「力が手に入って、これまでやられたことをやり返したかったのでしょう。でも、今回の行動は軽率過ぎですよ。今の貴方には心配してくれる方々が居るんですから。」
神父様が諭す様に言った。本当にその通りだ。俺はローズに心配を掛け、さらに危険な行動をさせてしまったのだ。神父様が言っていることは正しい。そんな時空気を読まない少女は呑気に欠伸なんかしている。
「姉さん、もう私に任せて眠ったらどうです。眠いのでしょう?」
「あんた、朝からずっとこの教会に張り付きっぱないじゃない。少しは私に頼ってくれてもいいのよ?」
「お気になさらずとも大丈夫です。ほら、お肌にも悪いですよ。」
少女は少し考えてから教会の出入り口に向かって歩き出した。
「また明日も見に来るからね。それじゃ、ごきげんよう、ゴロツキさん。」
少女は満足そうに教会から出て行った。ゴロツキとは俺のことだろうか。そしてそんな少女を見送ったあと神父様は出入口付近の椅子に座る。
「もうこんな時間です、貴方も疲れているでしょう。朝になったら起こしますから。」
本当あんな姉と違ってよくできた弟だ。あれ?でもこの中年の神父様の姉があんな少女っておかしくないか?そう疑問に思ったが、俺は睡魔に襲われた。まあ、気にするようなことでもないかとそのまま眠ってしまった。




