8章-2 名ばかりの英雄
森の入り口辺りまで歩いた時だった。体中傷だらけのボサボサ頭の男が紙袋を被ったマントの男に何かを渡していた。間違いない、あいつが赤ニートだ。
「おい、赤ニート!」
俺が声を掛けると紙袋の男は俺から逃げるように何処かに去って行った。そして赤ニートがこちらを向く。右腕に何やら赤黒い布切れを巻き付けていた。背中の刻印が疼く。本能で察する。あれは危険な物だ。
「何だ、勇者よ。盗み聞きか?趣味の悪い。」
長い髪のせいで見えないがこちらを睨んでいる様だった。本当にこいつがあのヘラヘラとしていた赤ニートか?全く別人のようだ。
「教会まで運んでやった礼でも言いに来たのか?」
「そうだな、これまでのお礼参りに来た。おまえには散々振り回されて来たからな。」
俺は短剣を構える。それを見て赤ニートは腰の短剣を抜く。何も変哲もないただの短剣である。
「刻印を入れただけで大分威勢が良くなったじゃないか。」
こいつが教会まで運んでくれたんだ、刻印のことは知っていてもおかしくない。俺は刻印に生命力を流し込む。俺の身体能力は伸び、俺はそれを利用して瞬時に赤ニートの背後に回り込む。
(もらった!!)
そう思った時だった。金属音が鳴り響き、直後俺の体が大きく仰け反る。そして赤ニートの短剣が砕け散った。俺の全力の斬撃をいとも簡単に受け流したらしい。
(しまった!!)
武器を弾かれ、俺は隙だらけになったので死を覚悟したが、赤ニートは追撃してこなかった。
「おい、なめてるのか!?」
「それはこっちのセリフだ。その程度で俺を殺せると思っていたのか?」
だが今赤ニートは短剣を失い丸腰の状態である。今なら確実に倒せる。俺は再び刻印に力を注ぎ、短剣にも力を込め、懐に潜り込む。だが、しかしそれも弾かれてしまう。そう、奴は素手で俺の刃を弾いたのである。
「素手で!?」
「もうお終いでいいか?」
驚いている俺見ながら赤ニートは終始冷静である。その反応にも腹が立つ。
「何で今の攻撃を防げる!?俺の全力だったのに!」
「何で?おまえは馬鹿か。おまえはただ力任せに武器を振り回しているだけじゃないか。獣相手ならそれでいいかもしれないが。」
赤ニートはまた隙だらけの俺にとどめを刺すことはなかった。
「おまえとは経験の差が違うんだ。俺に勝てる訳がないだろう。」
俺は赤ニートが勝手に弱いと思っていた。だが俺は一度もこいつが戦っているのを見たことが無かった。初めから勝負になっていなかったのである。
「『生きるために戦う』ってのが普通だが俺らは『戦うために生きて』来た。おまえのような平和ボケした奴に殺されるわけがないだろう。」
そのとき俺は先程教会で銀髪の少女に掛けられた言葉を思い出す。
「英雄…。本当におまえは英雄なのか?おまえみたいなヤツが。」
「英雄ねえ、そう呼ばれたこともあったな、遠い昔の話だが。」
俺は体中から血が噴き出し、その場に膝をついてしまう。体がまだ治りきってないのにまた無理をしたからだろう。そして俺は赤ニートの右肩に刻印が刻まれていることに気付いた。これまで赤黒い痛ましい傷に隠れてよく見えていなかったが、それはまるで獅子の顔のような形をした刻印であった。




