7章-20 力の代償
俺は老人に見せられた光景に絶望した。体中から力が抜け、その場に膝をついてしまった。
「おい、爺さん、今のは本当なのか?」
できれば嘘であって欲しい、そう願っていたが…。
「本当じゃよ、おまえの娘は『死んだ』んじゃ。正確に言うと『殺された』か。」
蛇の仮面を付けた老人は椅子に座りながら仮面の下から煙草を吸っている。仮面や髭に引火しないように器用に吸っていた。
「何だって俺の子供が殺されなきゃいけなかったんだ…!」
「今の光景を見ただろう、権力争いじゃよ。しかも毒殺とはかなり陰湿じゃの。」
仮面を付けているから直接は見れないが、多分この爺さんは今笑っている。その顔をぶん殴ってやりたかったが、殴ったところで死んだ娘が蘇る訳じゃない。
「権力争いねえ、そんなに娘の才能が恐ろしかったのか、人間共。」
練り上げられた殺人計画、そしてその直後に王になった者の笑みから俺は人間の醜さをまた思い知ることになった。奴らはいつもそうだ、才能が無い者を迫害し、逆に才能に恵まれた者も妬み排斥する。そうすることでどんどん劣化して行くだけだというのに。人間は生まれ持って滅びゆく運命にある醜い種族だ。
「ホッホ、そういうおまえも人間じゃないか。」
老人は笑っていた。自分自身が人間であることをこんなにも恨めしく思ったことは無い。
「そうか、娘は本当に死んだんだな。」
俺はその場で丸くなる。俺は約束を果たせなかったよ、愛する妻よ。必死に転生しようと働いて来たが、どうでもよくなって来た。俺はそのまま立ち上がり、老人が居たゴミ屋敷を後にした。あまりにも無気力で歩いていたせいか、ガラの悪い連中に肩をぶつけてしまったらしい。因縁を付けられ、俺は囲まれてしまっていた。しかもよりにもよって今見たくない人間の集団である。
「おい、聞いてんのか!!」
一人の人間が俺の襟首を掴んだ。俺の体が宙に浮く。
「…んじゃねえ。」
「ああ!?聞こえねえなあ!!」
「触るんじゃねえ、低脳な猿共が!!」
俺は懐に潜り込み右手の槍で人間の胸を貫いた。それを合図にして人間共が一斉に飛びかかって来た。
結果は言うまでも無かった。俺が人間共を蹂躙し、俺の勝ちであった。そして今俺は一体一体死体の頭を足で潰して回っている。
「汚い面を見せるんじゃねえ。」
脳や眼球をぶちまけながら潰れる人間の惨めさは笑えた。ああ、こんなにも人間は脆いのだなあ。こいつらは即死であったが娘は毒で殺されたのだ。ずっと、ずっと苦しみながら一人で死んだのである。そう思うと一層人間が憎くなり、俺は今さっき飛び出た眼球も踏みつぶす。妙に柔らかいのが気持ち悪い。
「何じゃ、やつあたりはどこか遠くでやってくれないか。」
さっきの爺さんが俺の周囲の惨状に見かねたのか声を掛けて来た。
「爺さん、真実を教えてくれたことは感謝するが、俺はあんたを一生恨むぞ。」
「一生ってもう死んでいるだろうに…。」
老人の笑い声を背中で聞き流しながら俺は路地裏を出た。




